著者
三上 史哲 宮崎 仁
出版者
川崎医療福祉学会
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.115-128, 2017

近年,国際生活機能分類(ICF)の意義や活用の重要さは認識されてきたが,構造の複雑さや項目 数の多さ(全1,457項目),用語の難しさ,全体像の理解の難しさなどから,実践的活用までに至って いないといえる.本研究では ICF の実践的な活用を目指し,その第一歩として適切なコード化を促 す支援システムを作成し,その活用例を示した.支援システムは ICF をインターネットを介して閲 覧,検索可能とする Web システムとした.ICF 検索機能としては Google 検索エンジンのサイト内検 索を利用し,多くのユーザが見慣れた検索結果を得ることが可能となった.さらに,Yahoo 形態素解 析(WebAPI)を利用し,文章による検索を可能とした.類義語に関しては,形態素解析で分割され たキーワードに対する類語辞典へのリンクを表示し,容易に再検索できるようにした.このシステム の活用例として,①日本広範小児リハ評価セット,②居宅サービス評価票,③要介護認定調査票,④ 重症児チェックリスト,⑤障害程度区分,⑥認知症アセスメント,⑦機能的自立度評価表の各評価項 目を ICF コード化した.全生活機能評価票の分析対象項目は,合計で291件あった.コーディングし たデータを評価票ごとに集計し,頻度分布図を作成したところ,評価内容が心身機能「b」を中心に したものと活動・参加「d」を中心にしたものに分かれることが示唆された.そこで,評価票間のコー ド(質問項目)の類似度をクラスタ分析を用いて確認したところ,日常生活動作を中心に調査を行っ ている評価票と高齢者を対象とした調査の分類があることが示唆された.新しい評価票を作成した際 に,同様の分析を行えば類似度の高い評価票を確認することができる.この活用例では,既存の評価 票を ICF コード化し,類似の評価票を分類することで,新しい評価票を作成する際により完成度を 高めるための一つの方法を示すことができたと考える.
著者
武内 陽子 飯田 淳子 長崎 和則
出版者
川崎医療福祉学会
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.150-158, 2017

本稿は,精神障害者と支援者,家族,ピア,地域住民など多様な周囲の人々との関係に関する先行研究を検討したものである.その結果,精神障害者と周囲の人々に関する研究の傾向は,支援者と精 神障害者との関係を明らかにするものが圧倒的に多く,その中でも,支援者の視点から考察するもの が多く見られた.従来は役割関係や関係の性質に関する量的な研究が多く行われていたが,近年では, 関係の質を問う研究や当事者を主体とした関係,地域住民との関係など多様な関係のあり方に関する 研究が行われていた.精神障害者と周囲の人々との関係に関する各研究は,精神障害者支援の変遷と も大きく関わっていると考える.治安対策や医療的な精神障害者の処遇が中心の時代は,専門家主導 で精神障害者支援が行われることが当然であった.しかし,現在の精神障害者支援では当事者が主体 的に支援を決定し,支援者とともに課題を解決する協働者として捉えられている.それに伴い,支援 者主体から当事者を主体とした関係や家族,ピア,地域住民との関係に焦点が移ってきたと考える. しかし,未だ地域住民との関係に関する研究は限りなく少ない.そのため,支援関係以外の関係を含 めた周囲の人々との関係が実際にどのようなものであるか,精神障害者本人の視点に立って具体的に 示していくような研究も,今後,蓄積される必要があると考える.This paper examines the studies on the relationships between the mentally handicapped and those surrounding them, such as health professionals, family, peers and others living in their vicinity. It was found that the majority of research focused on the relationships between the mentally handicapped and the health professionals who support them, including a large amount of research from the viewpoint of the health professionals. Until recent years, most research was quantitative in nature, and focused on the specific roles of each party involved. However, current research tends to focus more on the quality of relationships, positioning mentally handicapped persons at the center of inquiry. More emphasis is also being placed on interactions with the wider community. It is worth noting that studies on the relationship between the mentally handicapped and their community is still severely lacking. Research is greatly necessary into how the mentally handicapped view their relationships not only with health professionals but also with members of the community.
著者
福武 まゆみ 岡田 初恵 太湯 好子
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.174-184, 2013

本研究は,在宅で生活している高齢者夫婦の自身とその配偶者の死に対する意識および準備状況を明らかにすることを目的とした. 調査には70歳以上の在宅で生活している夫婦10組が参加した.調査内容は,(1)基本属性,(2)自分自身の死についての考え,(3)配偶者の死についての考え,(4)自分自身の死を想定しての準備についての考え,(5)配偶者の死を想定しての準備についての考えについて半構造化面接を実施した.分析には質的分析手法であるSCATを参考に,(1)データ中の注目すべき語句,(2)それを言いかえる為のデータ外の語句,(3)それを説明するための語句,(4)そこから浮き上がるテーマ・構成概念の順にコードを付していき,(4)のテーマ構成概念を紡いでストーリーラインを記述し,そこから理論記述を行った.その理論記述を,サブカテゴリーとして位置づけ,高齢者夫婦の死に対する意識と準備状況をカテゴリー化し,それをもとにコアカテゴリーとして示した. 結果,対象者の平均年齢は77.9歳であった.健康状態は,90%の人が「よい」「まあよい」と回答していた.高齢者夫婦の死に対する意識は,『死の迎え方を考える』,『考えることの先延ばし』,『死を現実として捉える』の3つのコアカテゴリーを抽出できた.また,高齢者夫婦の死に対する準備状況は,『準備をすることの迷い』,『夫婦で整える死への準備』,『予測のできない配偶者の死 と準備』の3つに整理できた.This research clarified the consciousness of and preparation for death among 10 elderly couples over 70 who live at home. Semi-structured interviews questioned them about their own and their spouse's death and what preparations they have made for death. Analysis was made under SCAT, a qualitative analytical method, to set up core categories. As a result, with an average age of 77.9, the subjects'consciousness of death was divided into three core categories: "thinking about one's own way of life,""postponing thinking about death,"and"a sense of reality of death as a couple."This made it possible to summarize the consciousness of preparation for death under 3 categories:"confused about making preparations,""preparation for death devised together by the couple,"and"unable to predict the death of one's spouse or preparations for death."
著者
熊谷 忠和 Kumagai Tadakazu
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.309-318, 2011

本稿は,「ハンセン病当事者のライフストーリーにみる健康自尊意識研究」の一貫した視点である社会構築主義に焦点をあてることとした.つまり,社会構築主義の定義を示したうえで,20世紀後半以降の社会構築主義の理論的潮流,とりわけ専門援助論に引きつけたその理論的潮流の再整理を試みた.結果,以下9点について,整理がなされた.(1)マルクス主義では,労働力として価値を持たないことが社会的不利,社会的スティグマを負わされることになり,またその体制維持のため「社会問題」として扱われるとされる.(2)マルクス主義への批判的立場は「客観的な基準や科学的な法則は存在しない」とした.(3)フーコーは,「自己統治性」の概念を打ち出し,権力や政治的な思惑が個人や身体やまなざしにきめ細かく貫徹,統治していくとした.(4)千田は,社会構築主義の理論的潮流の系譜を「社会問題をめぐる系譜」「物語叙述をめぐる系譜」「身体をめぐる系譜」に分類した.(5)フーコーは,専門家は支配的な言説を定義し,また「真理truth」の所有権をもち,その対象にある人は支配に晒され抑圧されるとした.(6)ポストモダニズムあるいは社会構築主義の考えは,1980年代後半,急激に専門援助者,とりわけ心理臨床の領域を中心に取り入れられていった.(7)マーゴリンは,フーコー思想を基盤にし,社会構築主義専門援助(ソーシャルワーク)論を展開した.(8)ジョンソンとグラントは,社会構築主義の視点から,専門援助の展望を開くためには,当事者の構築している世界観・文化観を共有する能力cultural competenceがその切り口になるとした.(9)社会構築主義の視点は,クライエントがどのように抑圧を受けてきたのか,またどのように内在化しているのか,そして,そこに立ち向かっているのか,を専門援助者が共同的対話によって,そのコンテクストを知り,学ぶツールとなる.This study is an attempt to review the theoretical currents of "Social Constructionism" after the 1950s as a premise of "A Study on "Health Esteem"(HE) in the Life Story of a Hansen's Patient". My research has found the following nine points. 1. Marxism regards patients as a kind of social disadvantage and even social problem due to their expulsion from the work force. 2. Postmodernism argues that there is no objective standard or scientific law. 3. Foucault proposes the concept of "self-governmentality". 4. Senda sets up the three theoretical currents of "SocialConstructionism". 5. Foucault also indicates that the experts define dominant discourses in which patients are oppressed. 6. The principle of social construction was swiftly adopted in the latter half of the 1980s by specialized standbys, especially in the field of clinical psychology. 7. Maglin founds his idea of special support rooted in the principle of social construction on Foucault's thoughts. 8. Johnson and Grant contend from the viewpoint of social construction that "cultural competence" can be a crucial factor in sharing views of the world and cultures. 9. The principle of social construction allows social workers to learn through interviews how their clients have received and confronted suppression.
著者
武政 睦子 出口 佳奈絵
出版者
川崎医療福祉学会
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.71-78, 2016

健全な食生活は健康で豊かな人間性の基礎をなすものである.子どもへの食育を通じて保護者自身 の食育への期待が高まっている.そこで,H 町小学校高学年を対象に食育講座「わくわく早島キッチ ン2014~楽しくおいしくクッキング~」を開講した.参加者14名のうち食行動アンケートが回収でき た9名の子どもとその保護者を対象とした.アンケートは,子ども自身,保護者自身,保護者からみ た子どもについて,回答を得て点数化し評価した.講座前の子どもの食行動の得点数は保護者と差が なく,子どもの食行動は保護者の食行動に依存していることが明らかとなった.しかし,保護者から 見た子どもの食行動の得点数は有意に低かった.講座後では,保護者から見た子どもの食行動の得点 数は有意に増加し.保護者自身も増加傾向にあった.このことより小学生を対象とした食育講座は, 子ども本人だけではなく子どもを通じて保護者の食行動変容が期待できると示唆された. A workshop entitled"Hayashima Happy Kitchen 2014—Fun and Yummy Cooking"was offered to older students at H-Town Elementary School. Parental views of their children's dietary behaviors appeared to be significantly lower than children's views and parents'views of their own behaviors. After workshop participation, however, parental scores of their children's dietary behaviors were significantly improved, and scores of parents'own dietary behaviors also appeared to be rising. Taken together, the findings of this study suggest that dietary workshops for children can help to improve the eating behaviors of children as well as parents.
著者
藤原 有子 藤塚 千秋 米谷 正造 木村 一彦
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.186-193, 2013

本調査では,月経期間中の水泳は可能であるという事実に基づき,女子中学生61名を対象とした知識提供の介入指導を行った.知識,意識,行動の変容の3点について検討することを目的とした.先ず,1学期の水泳授業終了後に事前調査として,知識調査と月経期間中の水泳についての考えと水泳授業時の行動を調査した.次に2学期の水泳授業開始前に直接介入指導を行い,その直後に自由記述による感想を求めた.最後に2学期の水泳授業終了後に再度,知識調査と月経期間中の水泳についての考えと水泳授業時の行動を調査した.結果を要約すると以下のようであった.1.介入指導前後の知識は,設問に対する正解率が29.5%から94.1%と有意に高くなった.2.介入指導直後の意識は,自由記述感想から80.3%が月経期間中の水泳について肯定的な考えを記入した3.月経期間中の水泳についての肯定的考えは,介入前に14.7%だったのが介入後37.2%と有意に増加した.4.介入指導前後の行動について,月経期間中に水泳授業へ参加した者の割合で比較したが,有意な 差は得られなかった. これらのことから,介入指導は知識や意識への肯定的働きかけとして寄与したが,行動変容を促すことはできなかった.
著者
細川 佳佑 寺崎 正治
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.166-172, 2013

本研究の目的は,様々な感情喚起場面で,他者の笑いを知覚することがその他者の印象形成に及ぼす影響を実験的に検証することであった.実験者が笑いを発する条件を3条件設定した.条件は,面白いビデオ映画を呈示する条件と,中性的なビデオ映画を呈示する条件,笑ったら不謹慎なビデオ映画を呈示する条件,であった.大学生30名を対象に,実験者に対する印象形成の違いを条件間で比較した.実験はまず,被験者に,実験者に対する印象を質問紙で回答を求めた.回答後は,5分間のビデオ映画を実験者とともに視聴してもらった.各条件で視聴中に実験者は10回,あらかじめ決められた場面で笑いを呈示した. ビデオ映画終了後,再び,実験者に対する印象を質問紙で回答を求めた.分析の結果,文脈に沿った笑いには,かわいらしい,親しみやすいというポジティブな印象を与える効果が認められた.また,文脈に沿わない笑いには,ネガティブな効果が明確には認められなかった.The purpose of this study was to examine the effects of perceiving a laughing person in various contexts to the impression formation of the laughing person. The experimenter laughed in three conditions. The conditions were watching a funny movie, a neutral movie, and a serious movie. The subjects were thirty undergraduate students. The subjects were asked to rate their impression of the experimenter. The subjects watched five-minute movies with the experimenter. The experimenters laughed ten times in the scene. After watching the movie, the subjects were asked to late their impression of the experimenter. Results show that subjects rated the impression of the experimenter more positively in funny movie conditions. In neutral or serious movie conditions, the subjects did not rate the impression of the experimenter more negatively.
著者
熊谷 忠和 クレミンソン ティム
出版者
川崎医療福祉学会
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.55-64, 2018

本研究の目的は,これまでの筆者の研究である社会構築主義的思考に基づくソーシャルワークの理論・方法の枠組み構築を目指した「生きていることの有意味感を見据えたソーシャルワーク援助枠組みについての研究」を踏まえ,さらに当事者のライフ・ストーリー分析を多文化視点も加え,すでに筆者が提示している「生きていることの有意味感を見据えたソーシャルワーク援助枠組み」の妥当性を検証することである.そのための研究方法として,マレーシアのハンセン病当事者(中華系マレー人)への聞き取り調査を行った.分析の結果,スティグマをきせられた当事者が,自身のさまざまな対処を通して,人生においてポジティブな見解を築き上げる過程が明らかとなった.そして,エピファニー(語源はキリスト教における「顕現」を示すが,ここでは当事者が人生の見方を変えるような宗教的な体験も含む日常的な生活や出来事の体験とする)の体験を経て,当事者自身が人生の見方を変え,スティグマを乗り超えていく過程が明らかとなった.さらにライフ・ストーリーのダイナミクス,すなわち「マスター・ナラティブ」「モデル・ストーリー」「ニュー・ストーリー」の展開過程が認められ,その要因として「ストレングス」「利用者文化」「公からの他者承認」「実体ある復権」が明らかとなった.従って,研究の目的とした前段研究の妥当性は検証された.しかしながら,今回の事例的検証から本「援助枠組み」援用について,当事者との安定した信頼関係形成などに関しての限界性が認められた.
著者
八田 徳高 福永 真哉 太田 富雄
出版者
川崎医療福祉学会
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.449-455, 2018

標準純音聴力検査の結果は正常であるが,日常生活,特に職場での聞こえの困難さを訴える成人2例に対して,聴覚情報処理に関する検査を実施し,聞こえの困難さについて分析を行った.また,聞こえの問題と同時に注意や記憶など他の背景要因の関連についても検討するために神経心理学的検査を実施した.その結果,2名とも聴覚情報処理に関する問題をもっていることが明らかになった.1名は,神経心理学的検査の結果では成績の低下はなく,聴覚情報処理障害の可能性が考えられた.もう一方の症例は,記憶及び注意に関する検査においても成績の低下がみられたことから,他の要因からくる聞こえの困難さが疑われる結果となった.このことから聴覚情報処理機能の評価では,神経心理学的検査を実施し,その背景にある要因について検証することの重要性を確認することができた.
著者
植田 嘉好子 三上 史哲 松本 優作 杉本 明生 末光 茂 笹川 拓也
出版者
川崎医療福祉学会
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.47-59, 2020

人工呼吸器や経管栄養等の医療的ケアを日常的に必要とする子どもは「医療的ケア児」と呼ばれ, この10年でおよそ2倍に増加し,全国に約2万人いると推計される.医療的ケア児の保育ニーズの高まりから,国や地方自治体は保育所への看護師配置等の支援体制を整えつつあるが,実際の保育所受入れは全国で329か所,366人に留まる(2017年度).そこで本研究では,保育所での受入れの条件やそれを支えるシステムの検討を目的に,医療的ケア児と家族へのインクルーシブな支援の実際と課題を明らかにした.2件のケーススタディの結果,医療的ケア児の保育所受入れには,看護師の配置等の制度的課題だけでなく,健常児も含めた多様なニーズにいかに対応するかという保育実践上の課題が見出された.一方で,クラスでは園児らが自然と医療的ケア児に関わり,医療的ケア児自身も集団生活の中で自立心や所属感,社会性が芽生えており,互いの違いを認め合いながら成長・発達していくインクルーシブ保育の成果も確認された.同時に,保育所の利用によって,保護者への子育て支援と就労を通した社会参加とが実現されており,このようなインクルーシブな支援には,医療的ケア児に関わる諸機関(病児保育室や相談支援事業所等)との形式的でない有機的な連携が重要であった.しかし現実には,医療機関でない保育所という施設で医療的ケアを安心・安全に提供することの負担やリスクは少なくなく,医療事故に対する補償制度等を国が整備していくことも今後必要と考えられる.
著者
北澤 正志 橋本 美香 國弘 保明 根来 麻子
出版者
川崎医療福祉学会
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.165-173, 2019

社会変動の激しい現代社会においては,確かな情報収集と論理的思考力に基づく課題解決能力の育成が重視されている.こうした学力の育成に,高等学校の学習指導要領で示されている「論理の構成や展開を工夫し,論拠に基づいて自分の考えをまとめること」という意見文の学習は有効である.「書くこと」に関する学習活動は「思考力,判断力,表現力」を鍛え,課題解決に対する資質・能力の向上に繋がる.しかし,大学に入学した時点では,主体的に情報収集を行うという姿勢が身についておらず,事実と意見を区別する表現さえあいまいである.そこで,本稿では,高等学校の「書くこと」に関する学習活動について,具体的にどういう点に課題があるのかを明らかにすることを目的とした.このための方法として,本学の必修科目「文章表現」の受講者を対象としてアンケートを実施し,高等学校の「書くこと」に関する指導の現状と学生の実態を分析した.その結果,高等学校においては,主体的な情報収集,客観性の高い資料に基づいて書くという経験が少ないことが明らかとなった.このことから,大学の初年次教育においては,こうした現状をふまえて指導しなければならないことが示唆された.また,課題解決能力の育成のためには,高等学校の「書くこと」の学習活動における情報収集から推敲にいたるまでの学習過程を具体的に構成する必要があるという今後の課題が明らかとなった.
著者
川崎 靖子 寺本 房子 武政 睦子
出版者
川崎医療福祉学会
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.285-293, 2020

川崎医療福祉大学の管理栄養士養成課程4年生を対象に,職業選択と管理栄養士のコンピテンシーの達成度との関係を調査した.有効回答者42名を病院(以下,病院群)25名(59.5%),福祉施設(以下,福祉群)8名(19.0%),企業7名(16.7%),その他2名(4.8%)に分けた.本研究におけるコンピテンシー平均達成度を,全国管理栄養士養成課程の4年生を対象にした調査と比較した.病院群は基本コンピテンシーが最も高く,学修目標到達度の「栄養マネジメント能力」および「職域分野別コンピテンシー」のすべての項目が高かった.しかし,福祉群は基本コンピテンシーの「自己確信」の項目が低かった.管理栄養士養成課程の教育やカリキュラムを改善するための提案について考察した.
著者
及川 和美 荒金 圭太 倉藤 利早 斎藤 辰哉 松本 希 高木 祐介 河野 寛 藤原 有子 白 優覧 小野寺 昇 Oikawa Kazumi Arakane Keita Kurato Risa Saito Tatsuya Matsumoto Nozomi Takagi Yusuke Kawano Hiroshi Fujiwara Yuko Baik Wooram Onodera Sho
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.453-456, 2011

本研究は,「水中だるまさんがころんだ」運動時の心拍数と酸素摂取量の変化から水中運動としての「だるまさんがころんだ」の特性を明らかにすることを目的とした.被験者は,健康成人男性8名(年齢 : 21±2歳,)とした.被験者は,鬼が「だるまさんがころんだ」と発声している時に最大努力で水中を移動し,声が止んだ時に静止した.鬼までの距離を20mとした.鬼に到着するまでを1セットとし,3セット繰り返した.セット間には,3分間水中立位安静を行った.測定項目は,心拍数と酸素摂取量とした.運動後の心拍数および酸素摂取量は,1セット目の運動時と比較して,1セット目以降の運動時が,同等あるいはそれ以上の値を示した.水中でも陸上の「だるまさんがころんだ」と同様にインターバルトレーニング様の心拍数と酸素摂取量変化を示した.運動生理学的な分析から「水中だるまさんがころんだ」が身体トレーニングの要素を持つことが明らかになった.
著者
岡本 宣雄 Okamoto Nobuo
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.37-48, 2013

スピリチュアリティは,人が生きるうえでの価値や感情,認識,行為に影響を与える.本稿は,文献研究を通しスピリチュアルな存在として生きる高齢者像を把握するため,高齢者の Spiritual well- being を取り上げ,心理的な見地より考察する.また,Spiritual well-being の内容を類型化し構造的 に捉え,この概念の特徴について検討する.その結果,スピリチュアリティならびに Spiritual well-being に含まれる「超越性」の特質と超越 性を有し生きる高齢者の特徴が明らかになった.また,この Spiritual well-being が表わす状態や 行為は,「関係」(究極的な他者・他者や自然・自己)と「時間」(過去・現在・未来)で構成され ることが明らかになった.加えて,高齢者のスピリチュアルなテーマと課題の検討から,高齢者の Spiritual well-being には,「意味への充足と応答」の内容が含まれることが示唆された.高齢者の Spiritual well-being は,意味探求の対象(究極的な他者・他者や自然・自己)との関係,人生という 連続する時間のなかで,高齢者が超越的な存在として自身の生を肯定した状態として理解できる.ま た,この概念は,人生の窮状においても,それに意味付をし,価値ある存在としてその生を肯定でき る,逆説的な生き方ができる人間の特性を含んでいる.以上のことから,筆者は,Spiritual well-being を「Spiritual well-being は,自己,他者,自分より 偉大な存在との結合により,連続した時間のなかで,人生の窮状においてもなお,意味が与えられ, 自らの人生を肯定する人間の生の側面である」と定義付ける.本稿の Spiritual well-being をめぐる 高齢者の実像に迫る考察と構造的理解は,生活課題に直面した高齢者の実像を把握するアセスメント 票の開発に有益である.
著者
中尾 竜二
出版者
川崎医療福祉学会
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.359-368, 2019

本研究は,役割を付与された地域住民ならびに民生委員を対象に認知症の疑われる高齢者を発見した場合の相談先の意向を明らかにすることを目的とした.調査対象者は A 市,B 市,C町,D市の人口・高齢化率の異なる4市町村の地区社会福祉協議会(支部社会福祉協議会),認知症キャラバンメイト,小地域ケア会議に所属する地域住民2,503名とした.調査内容は,回答者の属性,認知症の疑われる高齢者を発見した場合の相談先の意向などで構成した.相談先の意向の遠近構造は,クラスター分析を用いて類型化し,コンボイモデルを用いて模式化した.その結果,役割を付与された地域住民ならびに民生委員ともに3つのクラスターが抽出された.役割を付与された地域住民は,「民生委員」を相談先とする意向が高かった.また,民生委員は「地域包括支援センター」,「認知症が疑われる高齢者の同居家族」,「認知症が疑われる高齢者の別居家族」へ相談する比率が有意に高かった.本研究結果より,地域において潜在する認知症が疑われる高齢者を早期に発見するため,援助要請する重要な存在としての地域コミュニティ(地域で一定の役割を付与されている住民と民生委員)による認知症の早期発見・早期受診を可能とする受診・受療連携システムの構築のためには,それぞれの役割を明確にし分担していくことも重要であると考えられた.今後は地域包括ケアシステムをふまえた受診・受療における両者の相談先の順序性を明らかにすることが課題である.
著者
佐藤 隆也
出版者
川崎医療福祉学会
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.259-268, 2018

知識基盤社会に求められる汎用性の高い資質・能力を育成するために,授業改善が求められている. 従来の講話中心の授業において,学習者は学びに対して受動的になりがちで,思考力,判断力,表現 力等を育成するには,限界や弊害がある.資質・能力向上のためには,主体的な学びを実現するアク ティブラーニングの導入による学習者を主体とする授業設計が必要である.授業設計においては,ユ ニバーサルデザインの視点を取り入れることで学習の障壁が軽減され,学習は活性化し,すべての学 習者の参加・理解につながることが期待される.そこで,ユニバーサルデザインの視点による授業改 善の取組及びアクティブラーニングを活用した実践研究を概観・整理し,主体的な学びを実現するア クティブラーニングがより有効にはたらくために,学習の障壁をなくす授業環境としてユニバーサル デザインの視点を取り入れることの意義を示した.Course improvements are being sought for to nurture the higher versatility and abilities needed in a knowledge- based society. Students have been passive until now in most lecture-centered learning which is limiting and has ill-effects on the effort to foster the ability to think, make decisions and express one's own opinion. To improve character and abilities, there is a need to have lesson designs that have the learner act on own initiative by introducing active learning. By introducing universal design to lesson design, the obstacles to learning will be alleviated and we can expect learning to be activated, leading to the participation and increased knowledge of students. We reviewed and organized the literature on lesson improvement and active learning from the viewpoint of universal design. In order for active learning to work even more effectively, we pointed out the importance of introducing universal design as the study environment that eliminates obstacles to learning.
著者
福武 まゆみ 岡田 初恵 太湯 好子
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.174-184, 2013

本研究は,在宅で生活している高齢者夫婦の自身とその配偶者の死に対する意識および準備状況を明らかにすることを目的とした. 調査には70歳以上の在宅で生活している夫婦10組が参加した.調査内容は,(1)基本属性,(2)自分自身の死についての考え,(3)配偶者の死についての考え,(4)自分自身の死を想定しての準備についての考え,(5)配偶者の死を想定しての準備についての考えについて半構造化面接を実施した.分析には質的分析手法であるSCATを参考に,(1)データ中の注目すべき語句,(2)それを言いかえる為のデータ外の語句,(3)それを説明するための語句,(4)そこから浮き上がるテーマ・構成概念の順にコードを付していき,(4)のテーマ構成概念を紡いでストーリーラインを記述し,そこから理論記述を行った.その理論記述を,サブカテゴリーとして位置づけ,高齢者夫婦の死に対する意識と準備状況をカテゴリー化し,それをもとにコアカテゴリーとして示した. 結果,対象者の平均年齢は77.9歳であった.健康状態は,90%の人が「よい」「まあよい」と回答していた.高齢者夫婦の死に対する意識は,『死の迎え方を考える』,『考えることの先延ばし』,『死を現実として捉える』の3つのコアカテゴリーを抽出できた.また,高齢者夫婦の死に対する準備状況は,『準備をすることの迷い』,『夫婦で整える死への準備』,『予測のできない配偶者の死 と準備』の3つに整理できた.
著者
荒井 佐和子 進藤 貴子
出版者
川崎医療福祉学会
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.251-257, 2016

アルツハイマー型認知症(Alzheimer's disease : AD)の初期から終末期までの自然経過を理解することは,認知症の人と家族へのよりよいサポートを行うために重要である.しかし,医療福祉職を目指す学生がAD の進行に伴い生じる症状や取り組むべき課題についてどの程度認識しているのかは明らかでない.そこで,本研究では,医療福祉系大学に在籍する学生が,AD の進行についてどのように認識しているのか,探索的に検討した.調査は127名を対象として,認知症の人との接触経験,知識,およびAD の進行期に対する認識を尋ねた.その結果,認知症の人との接触経験や知識は高かったが,AD の進行期に対する認識は軽度から重度の段階で存在する認知機能障害に関する記述が多く,重度の段階で生じる身体機能の障害に関する記述は少なかった.多くの認知症が進行性であることからも,認知症進行期に関する教育の充実が必要であると考えられた. To provide better support to people with dementia and their families, it is important to understand the development of Alzheimer's disease(AD)from the early stage to the end-of-life. However, it is still unclear whether students who are studying to become health care providers understand the difficulties that arise with the progress of AD. The purpose of this study was to examine the extent to which students who enrolled in the Medical Welfare University recognize the progression of AD. Undergraduate students of the Medical Welfare University (n = 127)were asked about their contact experience with people with dementia, knowledge of dementia, and their understanding of the advanced stages of AD. It was investigated that many students had contact experience and knowledge of the people with dementia. During the recognition of the advanced stages of AD, many students described the cognitive dysfunction that people experienced from mild to advanced stages of AD; however, there was little understanding of the decline in physical functions in advanced AD. Because the many types of dementia are characterized by a progressive decline in cognitive and physical functions, it is necessary to educate students about advanced dementia.