著者
椙村 春彦 志賀 淳治 森 亘
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.171-180, 1987

ほぼ半年以上にわたり,臨床的に慢性肝疾患が存在したことが推定或いは病理学的に確認されている症例で,末期に劇症肝炎様の経過をたどり死亡し,剖検にふされた症例を病理学的に検討した.背景となる慢性肝疾患にはB型肝炎ウイルスキャリアー,慢性肝炎,肝硬変,バンチ病,ルポイド肝炎,アルコール性肝障害,トロトラスト沈着症があり,手術・輸血・アルコール多飲,重篤な感染症などを契機に劇症化していた.B型肝炎ウイルス陽性例の劇症化例で調べた範囲では組織中のデルタ抗原はみとめられなかった.病理学的には広汎性或いは亜広汎性の肝細胞の脱落が主たる変化であったが,循環障害性の要因が重要かと思われる地図状壊死,小葉中心静脈周囲のつよい壊死,血栓などが散見された.ステロイド長期投与,他臓器の血栓性病変,エンドトキシン血症などを勘案すると,肝における臓器型シュワルツマン反応として説明し得る症例もあった.
著者
椙村 春彦 森 弘樹 奥寺 康司
出版者
浜松医科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

喫煙リスクの同定されている大腸癌、胃癌などで、喫煙歴を調整した症例対照DNA多型研究をおこなった。まず修復遺伝子MutYHのhaplotypeを構築し、約800対の中規模の相関関係研究で、大腸癌リスクを有意に上昇させるハプロタイプを見いだした。もっとも重要とおもわれる多型はプロモーター部位にみられた多型であったが、機能差を確認することはできなかった。胃癌についても、喫煙歴と食事歴を調整可能な150-300例の症例対照相関研究をおこなった。ひとつは、inconsistentなdataが続いていた、CDH1promoterの多型であるが、ハプロタイプ構築の結果、日本人の胃癌への寄与が確認された。これで、北欧のdataとあわせて、2集団で確認されたことになるが、ともに症例数、寄与度とも少ない。胃癌発生背景粘膜の炎症の活動度を病理学的に評価して、炎症が少ない(これは酸化的DNA障害が比較的少ないのではないかと予想した)にもかかわらず、DNA付加体である、80H guanineが、上皮細胞、リンパ球などに強染し、多くのDNA障害が存在するという症例を、200例以上の胃癌手術例より抽出した。これちは、酸化的DNA障害修復遺伝子になんらかの機能低下をおこすような多型あるいは変異があるのではないかと期待した。そこで、酸化的DNA障害修復遺伝子である、OGG1、MutYH、NTH1、MTH1の全エクソンの塩基配列を決め、異常な変異や多型が存在しないかどうか確認した。結果として、このような胃癌例に重大な結果を及ぼすような変異は見つからなかったが、いくつか、機能差の可能性のある多型候補が見いだされた。この点についてさらに検討を続けている。家族集積性のある胃癌の例のなかから,あらたなP53多型を発見した。試験管内での検討では、明白な機能差がみられるのであるが、発見された例における発症は60代でありpopulation studyが必要と考えられた。