著者
野村 武男 松内 一雄 榊原 潤 椿本 昇三 本間 三和子 高木 英樹 中島 求
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

工学分野で発展してきたPIV計測法(Particle Image Velocimetry)は、時々刻々変化する非定常な流れ場を可視化・解析することができる。これまでのこの手法を用いた研究は、細部の気流解析や魚などの小型遊泳動物、昆虫の飛翔メカニズムに関する研究のように測定領域が非常に小さいものしか行われていない。本研究では、PIV計測法を用いて、ヒト水泳時の身体周りの流れ場の可視化から流れの非定常性を明らかにし、競泳動作のダイナミクス解析、および泳シミュレーションモデルを作成する事で、ヒトの推進メカニズムを明らかにしようとした。ヒトを扱った測定領域の大きなPIV解析は世界的にも初である。PIV計測法を用いた研究結果から、ヒトは泳動作時に渦(運動量)をうまく利用し、効率よく推進力へと結び付けている事が明らかになった。泳者の手部および足部の複雑な動きは、それら推力発揮部位周りの循環の発生・放出と関係しており、特に手部の場合は、放出された渦と手部周りの束縛渦が渦対を作り、その渦対間にジェット流を生成し、運動量を作り出していることが分かった。この運動量の変化(増減)が推進力と結びついている。また、泳動作モデルの作成では、水泳時に身体各部位に働く流体力を算出するために用いられている3つの流体力係数(付加質量力係数、接線方向抵抗係数、法線方向抵抗係数)を分析の対象となる泳者の体型と泳動作に合うように調節することによって、水泳中のダイナミクスをシミュレーション上で再現することができ、水中ドルフィンキック泳動作中に発生する全身の推進力や各関節トルクなどを算出することができた。身体部位別の推進力を求めることによって、水中ドルフィンキックの推進力は主に足部によって発揮されていることがわかった。さらに、足部の柔軟性と泳パフォーマンスの関連性を示す事ができた。
著者
三輪 飛寛 鎌田 依里 松内 一雄 榊原 潤 野村 武男
出版者
社団法人 可視化情報学会
雑誌
可視化情報学会論文集 (ISSN:13465260)
巻号頁・発行日
vol.31, no.8, pp.33, 2011 (Released:2011-08-31)
参考文献数
25

本研究の目的は,PIV計測法を用いて泳者手部周りの非定常流れ場を可視化し,水泳スカーリング動作の推進メカニズムの知見を得ることである. 元競泳選手1名が本研究に参加し,回流水槽中でスカーリング動作を行った.PIV計測により,泳者左手周りにおける200枚の時系列粒子画像が瞬時に取得され,連続する2枚の粒子画像から流れ場の粒子速度ベクトルと渦度が計算された. スカーリング動作アウトスカル局面において泳者小指近傍に前縁渦が観察され,手部の移動方向が変化するアウトスカルからインスカルへの遷移局面において,その渦が手部から放出されているようであった.また,遷移局面後には手部周り循環の回転方向の変化が観られた.本研究の結果から,スカーリング動作を行っている泳者は,手部周りの循環と放出された渦による運動量変化によって推進力を生み出していることが示唆された.