著者
樋口 富彦 湯山 育子 中村 崇
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.47-64, 2014 (Released:2014-09-02)
参考文献数
93
被引用文献数
1

サンゴ礁生態系は近年,人為起源によると考えられる様々なストレスに晒されており,その衰退が危惧されている。造礁性サンゴ類(以降略してサンゴと記載)はストレスを受けた際,『白化現象』をはじめ様々な応答を示す。サンゴはストレスに対する防御機構を備え持つと考えられているが,その機能の多くが解明されていないのが現状である。造礁性サンゴのストレス防御機構を知ることは,白化現象等,環境変化により生じる変化に対処する方法を探索することにもつながるため重要となる。近年,遺伝子解析技術の向上により,造礁性サンゴの一種であるコユビミドリイシの全ゲノム解読が完了したことから,今後サンゴのストレス防御機構についての研究が飛躍的に進むことが期待されている。本総説では,高水温や強光など環境ストレスに対する造礁性サンゴのストレス応答について,遺伝子,生理および生態の多角的な視点から理解の現状をまとめる。また,抗酸化物質やマイコスポリン様アミノ酸,蛍光タンパク質などサンゴの持つストレス防御機構についての知見をまとめ,今後サンゴのストレス耐性や防御に関する研究を進める上での展望を述べる。
著者
樋口 富彦 PONNAPPA B.C KRAAYENHOF R DEVENISH R.J NAGLEY Phill 寺田 弘 PONNAPPA Biddanda C
出版者
徳島大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

本プロジェクトでは,主として下記の2つの方向の研究成果を得た.1.異方性阻害剤のリピド平面二重膜における電気生理学的解析研究代表者らが発見した異方性阻害剤のリピド平面二重膜における電気生理学的解析を行い,以下の重要な事実を明らかにした.1)TPP^+よりも阻害活性の高い(4〜5倍)triphenyltetrazolium(TPT^+)ではほとんど膜電流を発生しなかった。また、TPP^+により発生した膜電流は、TTC^+の添加により逆に減少した.これらの結果は,異方性阻害剤によるリピド平面二重膜における膜電流産生と異方性阻害剤のエネルギー変換阻害能との間には相関性がないことを示している.2)TPT^+の膜透過性がTPP^+に比べて低いということは、current-clamp法を用いた膜電位変化によっても明らかにされた。TPP^+存在下にTPT^+を加えることによる膜電位の変化からGoldman-Hodgkin-Katz式に基づき計算したそれらの透過比(P_<TTC>/P_<TPP>)は、約0.3であった。これらのことは、異方性阻害剤の阻害活性がその膜透過性とは相関しないことを示している。3)TPP^+による膜透過電流の産生には、数秒のlag timeが存在した。TPP^+による阻害反応にlag timeが存在しないので、TPP^+の膜透過はその阻害作用とは無関係と考えられる。これらの発見は,エネルギー変換の分子コンデンサー仮説を強く支持している.2.ラットH^+-ATP合成酵素の活性制御システムの解明高等動物におけるミトコンドリアH^+-ATP合成酵素活性が,Ca^<2+>-依存性の細胞内情報伝達システムによって,″低レベル″から″高レベル″に可逆的にスイッチされ細胞内のエネルギー要求量に応じて制御されていることがラットで明らかにされているが,その分子機作は解明されていなかった.研究代表者らは,1991年ラット肝ミトコンドリアの内膜にATP感受性K^+-チャネルが存在することを発見した[Nature352,244-247(1991)].このチャネルは,ATP濃度が低下すると開き,逆に増大するとCa^<2+>の存在に依存して閉じる.研究代表者らは,このチャネルの特異的阻害剤であるグリベンクラミド等により,ミトコンドリアにおけるATP合成反応が阻害されATPの分解活性が増大することを見出した.これらの結果は,ミトコンドリアに存在するATP感受性K^+-チャネルがCa^<2+>-ポンプと共同して,H^+-ATP合成酵素の活性の制御に関わっていることを強く示唆している.他方,研究代表者らは,ラット肝ミトコンドリアからH^+-ATP合成酵素を精製する方法を開発し,各サブユニットを単離しそれらの一次構造を解明してきた[Biochemistry30,6854(1991);J.Biol.Chem.(1992)267,22658など].驚いたことに,それらのサブユニットの一つであるsubunit eの34〜65残基のアミノ酸配列が,トロポニンTのCa^<2+>依存性トロポミオシン結合部位の共通配列と高いホモロジーがあることが当研究室で明らかになった.従ってこのタンパク質がCa^<2+>情報伝達システムに依存したH^+-ATP合成酵素活性の制御に関わる本体である可能性が示唆されていた.本プロジェクトでは,トロポニンTのCa^<2+>依存性トロポミオシン結合部位の共通配列と高いホモロジーがあるsubunit eの34〜65残基のペプチドを合成し,このペプチドに対する抗体をウサギを用いて作製し,以下の新事実を明らかにした.a)今回作製した抗subunit e抗体を,H^+-ATP合成酵素から単離精製したsubunit e,H^+-ATP合成酵素精製品,SMP(亜ミトコンドリア粒子)をそれぞれ電気泳動して,ウエスタンブロットしたものと反応させたところ,分子量8,000付近に単一のバンドを示した.従ってこの抗体が,subunit eを特異的に認識する抗体であること,また,subunit eがH^+-ATP合成酵素を構成するサブユニットであることが明かとなった.b)今回作製した抗subunit e抗体を用いて,H^+-ATP合成酵素精製標品及びSMPのATPase活性に対する抗体の添加効果を調べたところ,H^+-ATP合成酵素精製標品に大しては何の変化も見られなかったが,驚いたことに,ミトコンドリア内膜が存在するSMPに対して,抗subunit e抗体を添加したとき活性が上昇することが明かとなった.従って,subunit eがH^+-ATP合成酵素活性の制御に関わる本体である可能性が強く示唆されてきた.