著者
日本サンゴ礁学会サンゴ礁保全委員会
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.73-84, 2008-12-01 (Released:2009-06-30)
参考文献数
31
被引用文献数
2

最近,造礁サンゴ移植の取組が活発になってきている。しかし,サンゴ礁保全・再生に移植がどの程度寄与するのか,また,どのようにすれば寄与できるのか,十分に検討されているわけではない。サンゴ礁生態系の攪乱要因は様々であり,これに対処するには移植だけでは不十分で,サンゴ移植は全体的なサンゴ礁保全策,統合沿岸管理の一部として位置づけるべきである。また,遺伝的攪乱やドナー群体の損傷など,移植が負の効果をもつ可能性を認識するとともに,不必要な開発の免罪符にされたり,より重要な保全行動へ向かうべき努力の「すり替え」に使われることには注意しなければならない。さらに,サンゴ礁の破壊と移植による再生のスケール,移植のコスト・便益も十分考慮し,システム技術として展開していく必要がある。移植活動は参加者にとってわかりやすく,サンゴ礁保全への導入点としては適している。このため,大きな普及啓発効果をもつと期待できるが,その後,より重要な保全策,例えば赤土・過剰栄養塩流入対策などにも運動を発展させられるかどうかが課題となっている。サンゴ移植の技術には大別して2種類の方法がある。天然海域からサンゴ断片を採取し,育成後,移植先に水中ボンド等で固定する「無性生殖を利用する方法」と,サンゴの卵や幼生を何らかの方法で採取し利用する「有性生殖を利用する方法」である。技術的な課題として特に重要なのは,移植適地の選定方法である。移植場所は,サンゴ幼生の自然加入が少ない,赤土の流入など陸域影響が少ない,高水温になりにくい,将来的に幼生の供給源となる可能性がある,等が選定基準となる。着生後のサンゴが減耗する要因として,漂砂や,死んだ枝状サンゴのレキ等が荒天時に海底を動いてサンゴを傷つけることが問題となっている。このため,サンゴを移植する場所,高さ,構造物などを決める際は,この点も意識するべきである。移植断片の固定方法には様々なものがあるが,サンゴが自分でしっかりと固着できるよう断片が容易に動かないこと,軟体部が基盤に接触することが重要である。有性生殖を利用する方法は,ドナー群体を傷つけることがなく,多様性のある種苗が使えるため有望だが,技術開発段階であり課題も多い。移植後の管理とモニタリングは,移植を成功させるために必須である。当然コストを伴うが,計画段階でこれを組み込んでおかなければならない。管理には,海藻類の除去,オニヒトデ等の食害生物の駆除,食害魚類対策などがある。モニタリングは,サンゴの生残率と成長を調べることが主となるが,サンゴの死亡要因や自然加入の状況なども記録しておくべきである。沖縄では造礁サンゴは原則採取禁止である。しかし,試験研究や養殖目的などでは,特別採捕許可をとることで採取が可能になる場合もある。特別採捕許可には,密漁の防止,ドナーサンゴの保護,流通段階での管理など課題が多いが,台風などで自然に断片化したサンゴ片を移植に利用する方法など,許可の運用を検討する余地もあると考えられる。
著者
中嶋 亮太 田中 泰章
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.3-27, 2014 (Released:2014-09-02)
参考文献数
134
被引用文献数
1 4

造礁サンゴが透明で粘性のある有機物(サンゴ粘液)を海水中に分泌することは古くから良く知られてきた。この粘液はサンゴの生育に欠かせない生理的機能に関与しており,例えばストレスに対する防御や餌の捕獲,細胞内の代謝調節など,様々な理由から分泌される。粘液の化学成分は糖質,タンパク質,脂質などから成り,海水中に放出されると大部分は溶存態有機物として従属栄養細菌に利用されながら微生物ループに取り込まれていく。一方,高分子の粒状態有機物はその粘性ゆえ,海水中の粒子を次々に捕捉しながらサイズを増大させ,効率良く高次の栄養段階に取り込まれる。このように,サンゴ粘液は多様な経路でサンゴ礁の生物群集に取り込まれていき,生態系の物質循環を構成する上でなくてはならない有機物エネルギーとして機能している。本総説では造礁サンゴが放出する粘液の形や化学組成,生産速度,従属栄養生物群集に対する役割などについて紹介し,サンゴ粘液の重要性について生物地球化学的・生態学的観点からまとめる。さらにこれまでの研究の問題点を整理し,今後の研究の方向性を述べる。
著者
藤田 和彦
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.57-77, 2013 (Released:2014-07-02)
参考文献数
104

本論では,サンゴ礁海域に棲息する大型底生有孔虫の系統分類・生理・生態について概説する。大型底生有孔虫(large benthic foraminifer: LBF)とは,サンゴ礁海域に分布する,比較的サイズの大きな底生有孔虫の総称である。現生種では少なくとも2目6科24属に及ぶ。化石記録によると,全ての現世属は第四紀(更新世)以前に出現した。大型底生有孔虫は,渦鞭毛藻・緑藻・珪藻・紅藻など様々な分類群の微細藻類と細胞内共生する。微細藻との共生は,貧栄養で透明度が高く光が十分なサンゴ礁海域において有利な戦略である。共生藻の光合成への依存度は,大型底生有孔虫の分類群によって異なり,ミリオリダ目有孔虫はロタリイダ目有孔虫よりも光合成に依存しない。各分類群にみられる形態形質には微細藻との共生への適応と考えられるものが多い。大型底生有孔虫の形態進化には微細藻との共生が駆動力となった可能性がある。大型底生有孔虫は細胞の増加に伴って室を付加させながら成長する。ガラス質殻を造るロタリイダ目有孔虫と磁器質殻を造るミリオリダ目有孔虫との間で室形成過程や細胞内の石灰化機構が異なる。大型底生有孔虫は二形性または三形性と呼ばれる生活環を示す。有性生殖は,成熟したガモントが配偶子を水中に放出する方法で行われる。無性生殖は多分裂による増員生殖であり,殻内または殻外で起こる。大型底生有孔虫の生物地理は,大きく西太平洋区,インド洋~中央太平洋区,インド洋西側から中東にかけての地区,カリブ海及び大西洋地区に区分される。共生藻をもつ大型底生有孔虫は光が届く有光層(水深0~130m)に分布する。水深や礁原の環境勾配に対して分類群間で棲み分けがみられる。大型底生有孔虫は海藻(海草)・礫・堆積物の表面に棲む。大型底生有孔虫の個体群密度や個体群構造は棲息環境や季節によって異なる。亜熱帯海域では春から夏に小型個体が増えて個体群密度が増加し,秋から冬にかけて徐々に死亡して個体群密度が減少する。大型底生有孔虫の寿命はほとんどの種が数ヶ月から1.5年の範囲にある。大型底生有孔虫の種による生存曲線の違いには,無性生殖様式と幼生のサイズが関係する可能性がある。サンゴ礁海域における大型底生有孔虫の殻(炭酸塩)生産量は,おおよそ10~103g CaCO3 m-2 yr-1である。
著者
樋口 富彦 湯山 育子 中村 崇
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.47-64, 2014 (Released:2014-09-02)
参考文献数
93
被引用文献数
1

サンゴ礁生態系は近年,人為起源によると考えられる様々なストレスに晒されており,その衰退が危惧されている。造礁性サンゴ類(以降略してサンゴと記載)はストレスを受けた際,『白化現象』をはじめ様々な応答を示す。サンゴはストレスに対する防御機構を備え持つと考えられているが,その機能の多くが解明されていないのが現状である。造礁性サンゴのストレス防御機構を知ることは,白化現象等,環境変化により生じる変化に対処する方法を探索することにもつながるため重要となる。近年,遺伝子解析技術の向上により,造礁性サンゴの一種であるコユビミドリイシの全ゲノム解読が完了したことから,今後サンゴのストレス防御機構についての研究が飛躍的に進むことが期待されている。本総説では,高水温や強光など環境ストレスに対する造礁性サンゴのストレス応答について,遺伝子,生理および生態の多角的な視点から理解の現状をまとめる。また,抗酸化物質やマイコスポリン様アミノ酸,蛍光タンパク質などサンゴの持つストレス防御機構についての知見をまとめ,今後サンゴのストレス耐性や防御に関する研究を進める上での展望を述べる。
著者
藤田 道男 山崎 麻里 藤田 和也
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.51-59, 2017 (Released:2018-04-20)
参考文献数
1

気候変動等により影響を受ける脆弱なサンゴ礁生態系を保全するためには,国,地方公共団体,事業者,研究者,国民といったあらゆる主体が気候変動対策及びサンゴ礁生態系の保全に向けた取組を理解し行動していくことが重要である。本稿では,環境省の取組として,サンゴ礁生態系に影響を与える気候変動の現状及び将来予測を紹介し,パリ協定の目標達成に向けて各主体が取り組むべき気候変動対策について解説するとともに,「サンゴ礁生態系保全行動計画2016-2020」について概説し,最後に,西表石垣国立公園の石西礁湖におけるサンゴ礁生態系保全の取組の内容について解説する。
著者
比嘉 義視 新里 宙也 座安 佑奈 長田 智史 久保 弘文
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.119-128, 2017
被引用文献数
3

<p>恩納村漁協では,サンゴ礁保全に積極的に取り組むため,1998年から養殖やサンゴの植え付けにより親サンゴを育て,これら親サンゴが産卵することでサンゴ礁の自然再生を助ける「サンゴの海を育む活動」を行ってきた。この活動の一環として,砂礫底に打ち込んだ鉄筋の上や棚上でサンゴを育成する「サンゴひび建て式養殖」と呼ばれる方法を行っている。養殖しているサンゴは,2017年3月末現在で約24,000群体,養殖している種類は11科15属54種である。サンゴ養殖の効果として,一年間の養殖群体の産卵数が約57億,産卵後2日後の幼生数は約27億が供給されると期待される。また,養殖サンゴに棲み込む魚は,スズメダイ科Pomacentridae魚類を中心として約33種,約67万個体と推定された。養殖しているウスエダミドリイシ<i>Acropora tenuis</i> 163群体の遺伝子型を調べたところ,これらは81群体由来であることが判明した。2016年夏季には,高水温により恩納村地先でも大規模な白化現象が見られたが,養殖サンゴの生存率は,養殖場周辺に植付けたサンゴや天然サンゴの生存率と比較して高かった。サンゴひび建て式養殖で大規模にサンゴを育成することは,サンゴ礁再生の一助になるものと期待できる結果となった。</p>
著者
深見 裕伸
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.107-113, 2013 (Released:2014-07-02)
参考文献数
17
被引用文献数
1

近年発表されたイシサンゴ類の分子系統解析の結果および詳細な形態解析を基に,2012年にAnn Budd博士らによって,オオトゲサンゴ科およびキクメイシ科の分類体系の改変が行われた。この改変では,大西洋産のオオトゲサンゴ科およびキクメイシ科を独立した科として扱うこととし,それに伴い太平洋産の両科およびいくつかの属も改編される運びとなった。特に,これまで一般的に良く利用されていた科であるMussidaeやFaviidae,さらに属のFaviaやMontastraeaが大西洋限定となったために,これらの科および属名の変更が行われた。そのため,今後の論文投稿でもかなりの混乱が予想される。そこで本稿では,これらの改変された理由および現時点での改変をまとめた。
著者
豊島 淳子 灘岡 和夫
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.11-24, 2016 (Released:2017-03-22)
参考文献数
35

日本のサンゴ礁海域では,スキューバダイビングをはじめとする観光業や漁業などの経済活動が行われているが,その利用にあたっては異なる業種間での利害の対立や軋轢などがあり,沿岸資源管理の効率を妨げている。これまでに,日本各地でこのような対立が個別に発生し,各地で解決のための努力がなされてきたが,本研究では,これらの事例を横断的に比較することにより,両者が協調して海域の資源管理を行うためにどのような要件が必要かを明らかにすることを試みた。その結果,解決に至る共通点として①観光業者と漁業者が共同して協議会組織を設立し調整の場を設けること,②観光客(ダイバー)から利用料を徴収して保全活動を行うこと,の2点が特に有効であると考えられることがわかった。そして,この環境保全に関する料金徴収の仕組みを,類似する「生態系サービスへの支払い(payment for ecosystem services : PES)」制度と比較検討することにより,PESの概念をさらに発展的に適用することで,より効果的な沿岸生態系保全・管理スキームへと発展させ得る可能性が示唆された。
著者
中嶋 亮太 田中 泰章
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.3-27, 2014
被引用文献数
4

造礁サンゴが透明で粘性のある有機物(サンゴ粘液)を海水中に分泌することは古くから良く知られてきた。この粘液はサンゴの生育に欠かせない生理的機能に関与しており,例えばストレスに対する防御や餌の捕獲,細胞内の代謝調節など,様々な理由から分泌される。粘液の化学成分は糖質,タンパク質,脂質などから成り,海水中に放出されると大部分は溶存態有機物として従属栄養細菌に利用されながら微生物ループに取り込まれていく。一方,高分子の粒状態有機物はその粘性ゆえ,海水中の粒子を次々に捕捉しながらサイズを増大させ,効率良く高次の栄養段階に取り込まれる。このように,サンゴ粘液は多様な経路でサンゴ礁の生物群集に取り込まれていき,生態系の物質循環を構成する上でなくてはならない有機物エネルギーとして機能している。本総説では造礁サンゴが放出する粘液の形や化学組成,生産速度,従属栄養生物群集に対する役割などについて紹介し,サンゴ粘液の重要性について生物地球化学的・生態学的観点からまとめる。さらにこれまでの研究の問題点を整理し,今後の研究の方向性を述べる。
著者
磯村 尚子 渡邊 謙太 西原 千尋 安部 真理子 山城 秀之
出版者
The Japanese Coral Reef Society
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.41-48, 2010

沖縄県名護市大浦湾のアオサンゴ群集は,その大きさと特異な形状から保全が求められており,大浦湾のサンゴ礁生態系を代表する存在である。2009年に見られたアオサンゴの白化は,オオギケイソウがサンゴ表面に繁茂することでサンゴにダメージを与え,健康な状態を阻害された結果起きたものと考えられている。今回,アオサンゴ上にオオギケイソウとは異なる藻体が発見された。慶良間諸島で確認されたアミメヒラヤギにからむクダモの状況と類似していたことから,藻体はシアノバクテリアであると考えた。サンゴ礁域では,栄養塩の増加によって大発生したシアノバクテリアがサンゴにからみついてサンゴが死亡した例や,複数属のシアノバクテリアが引き起こす致死性の病気が知られている。そこで本研究では,大浦湾のアオサンゴ群体表面とその周辺の岩盤から採集した藻体の形態を顕微鏡で観察し,また16SrDNA配列を調べて,既知のシアノバクテリアの配列と比較して藻体の正体を明らかにし,さらにシアノバクテリアがアオサンゴへ及ぼす影響について検討することを目的とした。解析の結果,アオサンゴと岩盤から得られた藻体は,レプトリングビア属を始めとした複数属および複数種からなるシアノバクテリアのコンソーシアムであることがわかった。この中には,海水中の栄養塩濃度が高まると大量発生することもある<I>Lyngbya majuscula</I>や<I>Hydrocoleum lyngbyaceum</I>が含まれていた。今回確認されたシアノバクテリアがアオサンゴ群体に与えている影響は現段階では小さいと考えられるが,微少な生物ながらその繁茂については警戒が必要である。
著者
山崎 敦子 渡邊 剛 岨 康輝 中地 シュウ 山野 博哉 岩瀬 文人
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.91-107, 2009-12-01 (Released:2010-08-07)
参考文献数
34
被引用文献数
2 4

温帯域の造礁性サンゴは地球温暖化や海洋酸性化の影響を敏感に反映し,骨格に記録していることが期待される。温帯域に生息する造礁性サンゴ骨格を用いた古環境復元の可能性を検討するため,高知県土佐清水市竜串湾において塊状のPorites lutea(コブハマサンゴ)骨格のコア試料を採取し,骨格の酸素・炭素同位体比分析及び軟X線画像解析,蛍光バンド観察を行った。現場の水温変化と比較するとサンゴ骨格の酸素同位体比には低水温が反映されていなかった。また軟X線画像解析の結果,低水温時には高密度バンドを形成し,骨格伸長量及び石灰化量が高水温時に比べ大きく減衰することがわかった。以上の結果からも本研究試料のサンゴは低水温時に骨格成長速度が著しく低下していると考えられる。炭素同位体比の値は2001年から2008年にかけて増大傾向にあった。蛍光バンドは2001年から2005年の間で強く観察された。また,2001年に竜串湾で起こった集中豪雨による懸濁物質の流入から竜串湾の濁度は数年間を経て減少しており,サンゴの光合成量が徐々に増大していることが示唆された。本研究試料は今後,コア全尺の分析により過去数百年間の海水温の変化を検出できる可能性がある。また,同時に竜串湾沿岸の開発や漁業,災害を記録していると考えられ,長期間にわたる竜串湾の歴史を復元できることが期待される。
著者
Pillay Ruby Moothien 寺島 裕晃 川崎 博之
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌
巻号頁・発行日
vol.2002, no.4, pp.43-52, 2002
被引用文献数
8

大規模なサンゴ白化現象が1998年にアジア、インド洋、カリブ海など世界各地で観察・報告された。このような状況下、モーリシァスでは、サンゴ白化状況の把握、定量化を図るため、1998年3月から5月にかけて3期の潜水観察調査を沿岸8ヶ所の礁原と礁外縁斜面で行なった。初回はモーリシァスで白化現象が観察されてから2週間以内の3月初旬にクオドラットを用いた調査を4地点で行なった。初回調査が終了してから約1ヶ月後にあたる3月末からライントランセクトによる第2回目の調査を5地点で行ない、第2回目の調査が終了してから1週間後に第3回目の定性的な調査を2地点で行なった。サンゴ白化現象は、調査を行なった全ての地点で観察されたが、サンゴ群体全体が白化していることは少なく、モーリシァスのサンゴ白化現象は他のインド洋の島々と比べ軽微なものであった。礁原上で観察されたミドリイシ属サンゴはその他のサンゴに比べて相対的に白化している割合が高かった。しかし、対照的に礁外縁斜面では、ミドリイシ属以外のサンゴ類の白化傾向が強かった。このようなモーリシァスのサンゴ白化は、水温上昇や塩分濃度の減少などに起因するものと推測される。
著者
高田 宜武 阿部 寧 長尾 正之 鈴木 淳 小林 都 大井 理恵 橋本 和正 渋野 拓郎
出版者
The Japanese Coral Reef Society
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.7, pp.37-48, 2005
被引用文献数
5

サンゴ礁生態系は世界的に劣化しつつあるといわれており、陸域から流入する「赤土」等の懸濁物粒子による海水濁度の上昇が、その要因の一つとして挙げられている。そこで、サンゴ礁池における海水濁度の変動レベルとその要因を知るために、石垣島浦底湾において2年間の採水観測を行った。岸近くの突堤表層では、濁度は2.26NTUを中央値とするが、変動幅が大きく、最高値92.9NTUを記録した。サンゴの生育している湾奥 (150m沖) と湾中央部 (370m沖) では、0.58NTUと0.36NTU (それぞれ表層の中央値) となった。海水濁度の変動要因として、降雨と風向の影響を解析したところ、降雨量と濁度の相関は弱いが、北西風により濁度が上昇する傾向があった。冬期に濁度が高くなるのは、冬期に多い北よりの風の影響だといえる。浦底湾のように、河川流入の影響が小さい礁池では、風波によって底質に沈殿していた粒子が再懸濁することと、表層に発達する高濁度かつ低塩分水の吹送が、礁池内の海水濁度に大きく影響すると考えられた。
著者
棚原 朗 仲栄 真史哉 鈴木 秀隆 金城 嘉哉
出版者
The Japanese Coral Reef Society
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.79-89, 2013
被引用文献数
1

沖縄県那覇市の国場川と饒波川の下流域に広がる漫湖干潟において柱状試料を採取し,それに記録された金属元素濃度の経年変化を解析した。干潟は人口密集地に位置し,周辺および河川上流域の開発に伴い重金属が土壌と共に流入していると考えられる。得られた柱状試料の <sup>210</sup> Pb <sub>ex</sub> 法による堆積速度は1.1~1.9cm・y <sup>-1 </sup>(2.1~3.7g・cm <sup>-2</sup>・y <sup>-1</sup> )と比較的速いことが分かった。金属元素濃度の経年変化として,主成分元素の一つであるアルミニウムの濃度変動は小さく,カルシウムは1900年代から増加傾向を示した。鉛は1950年代から増加傾向を示したが,1980年代から減少傾向にあり,自動車ガソリンの無鉛化が影響している。その他の重金属(Ni,Cu,Hg)は,饒波川下流では少なく両方の川が合流する地点で高い濃度を示したことから,主な起源として国場川からの流入が示唆された。
著者
仲栄真 礁 浪崎 直子 佐藤 崇範 高橋 志帆 森 愛理 高橋 麻美 石川 恵 田村 裕 棚谷 灯子 内藤 明
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.75-86, 2012 (Released:2014-09-02)
参考文献数
7
被引用文献数
1

日本サンゴ礁学会若手の会・環境教育ワーキンググループでは,主に日本サンゴ礁学会会員を対象として,サンゴ礁分野における教育活動の現状と課題を明らかにするためのアンケート調査を実施した。537 名の調査対象者に対し,アンケートの回収率は 15.1%で,回答者の 69.1%が何らかの教育活動への参加経験があり,また 98.8%がこうした教育活動に関心があると回答した。また教育活動が重要であると考える理由としては,「保全活動の一環として教育活動を重要視している」とする回答が 29.2%と最も多かった。活動実施の際の課題や必要な支援に関する主な意見としては,時間的負担,予算不足,人材不足が挙げられた。加えて,若手研究者が教育活動に参加することへの正の効果についても考察し,若手学会員の視点から今後の教育活動における連携や実施の促進に向けた活動案も提案する。
著者
斉藤 宏 石丸 隆 灘岡 和夫 渡邉 敦
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.91-105, 2013 (Released:2014-07-02)
参考文献数
24

世界的なサンゴの白化現象が起こり,気候変動が進行する現在,サンゴのモニタリングの必要性が急務である。しかし,モニタリングの手法は目視によるものが基本で,小さい変動はわからなかった。褐虫藻のモニタリングによりサンゴ健康状態をモニタリングできる可能性のある,青色光域と近赤外光域の二つの画像から求めた「サンゴ用正規化植生指標」(NDCI; Normalized Difference vegetation of Coral Index)(斉藤ら 2008)を用いて,石垣島白保サンゴ礁の礁池において2009-2010年と2011-2012年の2年間サンゴの季節変動と日周変動を数値化した。その結果,サンゴのNDCI値は水温に対しては負の相関を示しながら季節変動していること。サンゴの種類によりその変動幅に違いがあること。高水温ばかりでなく低水温や光量子,流入泥によるストレス等により,季節変動のみならず日周変動も行っている可能性を明らかにした。また,Porites sp.の強い白化と弱い白化の可視化,Favia sp.の台風の後のNDCI値の偏りも計測できた。
著者
服部 昭尚
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.1-27, 2011-12-01 (Released:2012-03-13)
参考文献数
68
被引用文献数
3

クマノミ類が共生するイソギンチャクは,“宿主イソギンチャク”と呼ばれ,クマノミ類にとっての隠れ場所として重要な役割を果たしている。一方,“宿主イソギンチャク”にとってのクマノミ類の役割については,これまで曖昧な点が多かった。本稿では,まず,褐虫藻に注目した最近の研究をまとめ,クマノミ類との共生がイソギンチャクにもたらす利益について明確にした。このことにより,あるイソギンチャク1個体の着底後初期の生存と成長には,クマノミ類との潜在的共生種数が多いほど有利であろうと推察された。“宿主イソギンチャク”には,定着したクマノミ類のほとんど全てが繁殖場所として利用する種(4種)のほかに,定着したクマノミ類の中の特定の種のみが繁殖に利用する種(2種),ほとんど全てが繁殖場所には利用しない種(4種)があり,クマノミ類にとってのイソギンチャクの価値に格差が存在する。イソギンチャク1種にとってのクマノミ類の潜在的共生種数はそこで繁殖が確認されたクマノミ類の種数と極めて強く相関しており,クマノミ類が価値の高いイソギンチャクを選択的に利用する傾向が示唆される。“宿主イソギンチャク”は,クマノミ類との関係性,特に双方にとっての価値の高低に注目すると4タイプに類型化されるが,タイプ間で観察例数に大きな違いが見られ,地理的分布が重複する221例の組合せのうち,実在するのは37.1%(82例)であった。これまでの研究を概観することにより,実在する組合せには,1)“宿主イソギンチャク”とクマノミ類の地理的分布の重複のほかに,2)生息場所の一致,3)クマノミ類による宿主選択性,さらに,4)宿主をめぐるクマノミ類の種間競争が大きく影響していることが理解できる。クマノミ類よりも寿命が長く,浮遊幼生期間も長い“宿主イソギンチャク”の地理的分布には,暖流の影響が大きいことが文献情報の分析から明らかになった。“宿主イソギンチャク”の分類は日本では混乱しているが,多少の問題点があったとしても,世界で幅広く用いられている分類に従うことにより,日本近海で報告されているイソギンチャクとクマノミ類の分布や生態,関係性について,他海域で得られた知見との比較分析が可能となる。