著者
日本サンゴ礁学会サンゴ礁保全委員会
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.73-84, 2008-12-01 (Released:2009-06-30)
参考文献数
31
被引用文献数
2

最近,造礁サンゴ移植の取組が活発になってきている。しかし,サンゴ礁保全・再生に移植がどの程度寄与するのか,また,どのようにすれば寄与できるのか,十分に検討されているわけではない。サンゴ礁生態系の攪乱要因は様々であり,これに対処するには移植だけでは不十分で,サンゴ移植は全体的なサンゴ礁保全策,統合沿岸管理の一部として位置づけるべきである。また,遺伝的攪乱やドナー群体の損傷など,移植が負の効果をもつ可能性を認識するとともに,不必要な開発の免罪符にされたり,より重要な保全行動へ向かうべき努力の「すり替え」に使われることには注意しなければならない。さらに,サンゴ礁の破壊と移植による再生のスケール,移植のコスト・便益も十分考慮し,システム技術として展開していく必要がある。移植活動は参加者にとってわかりやすく,サンゴ礁保全への導入点としては適している。このため,大きな普及啓発効果をもつと期待できるが,その後,より重要な保全策,例えば赤土・過剰栄養塩流入対策などにも運動を発展させられるかどうかが課題となっている。サンゴ移植の技術には大別して2種類の方法がある。天然海域からサンゴ断片を採取し,育成後,移植先に水中ボンド等で固定する「無性生殖を利用する方法」と,サンゴの卵や幼生を何らかの方法で採取し利用する「有性生殖を利用する方法」である。技術的な課題として特に重要なのは,移植適地の選定方法である。移植場所は,サンゴ幼生の自然加入が少ない,赤土の流入など陸域影響が少ない,高水温になりにくい,将来的に幼生の供給源となる可能性がある,等が選定基準となる。着生後のサンゴが減耗する要因として,漂砂や,死んだ枝状サンゴのレキ等が荒天時に海底を動いてサンゴを傷つけることが問題となっている。このため,サンゴを移植する場所,高さ,構造物などを決める際は,この点も意識するべきである。移植断片の固定方法には様々なものがあるが,サンゴが自分でしっかりと固着できるよう断片が容易に動かないこと,軟体部が基盤に接触することが重要である。有性生殖を利用する方法は,ドナー群体を傷つけることがなく,多様性のある種苗が使えるため有望だが,技術開発段階であり課題も多い。移植後の管理とモニタリングは,移植を成功させるために必須である。当然コストを伴うが,計画段階でこれを組み込んでおかなければならない。管理には,海藻類の除去,オニヒトデ等の食害生物の駆除,食害魚類対策などがある。モニタリングは,サンゴの生残率と成長を調べることが主となるが,サンゴの死亡要因や自然加入の状況なども記録しておくべきである。沖縄では造礁サンゴは原則採取禁止である。しかし,試験研究や養殖目的などでは,特別採捕許可をとることで採取が可能になる場合もある。特別採捕許可には,密漁の防止,ドナーサンゴの保護,流通段階での管理など課題が多いが,台風などで自然に断片化したサンゴ片を移植に利用する方法など,許可の運用を検討する余地もあると考えられる。
著者
中嶋 亮太 田中 泰章
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.3-27, 2014 (Released:2014-09-02)
参考文献数
134
被引用文献数
1 4

造礁サンゴが透明で粘性のある有機物(サンゴ粘液)を海水中に分泌することは古くから良く知られてきた。この粘液はサンゴの生育に欠かせない生理的機能に関与しており,例えばストレスに対する防御や餌の捕獲,細胞内の代謝調節など,様々な理由から分泌される。粘液の化学成分は糖質,タンパク質,脂質などから成り,海水中に放出されると大部分は溶存態有機物として従属栄養細菌に利用されながら微生物ループに取り込まれていく。一方,高分子の粒状態有機物はその粘性ゆえ,海水中の粒子を次々に捕捉しながらサイズを増大させ,効率良く高次の栄養段階に取り込まれる。このように,サンゴ粘液は多様な経路でサンゴ礁の生物群集に取り込まれていき,生態系の物質循環を構成する上でなくてはならない有機物エネルギーとして機能している。本総説では造礁サンゴが放出する粘液の形や化学組成,生産速度,従属栄養生物群集に対する役割などについて紹介し,サンゴ粘液の重要性について生物地球化学的・生態学的観点からまとめる。さらにこれまでの研究の問題点を整理し,今後の研究の方向性を述べる。
著者
藤田 和彦
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.57-77, 2013 (Released:2014-07-02)
参考文献数
104

本論では,サンゴ礁海域に棲息する大型底生有孔虫の系統分類・生理・生態について概説する。大型底生有孔虫(large benthic foraminifer: LBF)とは,サンゴ礁海域に分布する,比較的サイズの大きな底生有孔虫の総称である。現生種では少なくとも2目6科24属に及ぶ。化石記録によると,全ての現世属は第四紀(更新世)以前に出現した。大型底生有孔虫は,渦鞭毛藻・緑藻・珪藻・紅藻など様々な分類群の微細藻類と細胞内共生する。微細藻との共生は,貧栄養で透明度が高く光が十分なサンゴ礁海域において有利な戦略である。共生藻の光合成への依存度は,大型底生有孔虫の分類群によって異なり,ミリオリダ目有孔虫はロタリイダ目有孔虫よりも光合成に依存しない。各分類群にみられる形態形質には微細藻との共生への適応と考えられるものが多い。大型底生有孔虫の形態進化には微細藻との共生が駆動力となった可能性がある。大型底生有孔虫は細胞の増加に伴って室を付加させながら成長する。ガラス質殻を造るロタリイダ目有孔虫と磁器質殻を造るミリオリダ目有孔虫との間で室形成過程や細胞内の石灰化機構が異なる。大型底生有孔虫は二形性または三形性と呼ばれる生活環を示す。有性生殖は,成熟したガモントが配偶子を水中に放出する方法で行われる。無性生殖は多分裂による増員生殖であり,殻内または殻外で起こる。大型底生有孔虫の生物地理は,大きく西太平洋区,インド洋~中央太平洋区,インド洋西側から中東にかけての地区,カリブ海及び大西洋地区に区分される。共生藻をもつ大型底生有孔虫は光が届く有光層(水深0~130m)に分布する。水深や礁原の環境勾配に対して分類群間で棲み分けがみられる。大型底生有孔虫は海藻(海草)・礫・堆積物の表面に棲む。大型底生有孔虫の個体群密度や個体群構造は棲息環境や季節によって異なる。亜熱帯海域では春から夏に小型個体が増えて個体群密度が増加し,秋から冬にかけて徐々に死亡して個体群密度が減少する。大型底生有孔虫の寿命はほとんどの種が数ヶ月から1.5年の範囲にある。大型底生有孔虫の種による生存曲線の違いには,無性生殖様式と幼生のサイズが関係する可能性がある。サンゴ礁海域における大型底生有孔虫の殻(炭酸塩)生産量は,おおよそ10~103g CaCO3 m-2 yr-1である。
著者
樋口 富彦 湯山 育子 中村 崇
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.47-64, 2014 (Released:2014-09-02)
参考文献数
93
被引用文献数
1

サンゴ礁生態系は近年,人為起源によると考えられる様々なストレスに晒されており,その衰退が危惧されている。造礁性サンゴ類(以降略してサンゴと記載)はストレスを受けた際,『白化現象』をはじめ様々な応答を示す。サンゴはストレスに対する防御機構を備え持つと考えられているが,その機能の多くが解明されていないのが現状である。造礁性サンゴのストレス防御機構を知ることは,白化現象等,環境変化により生じる変化に対処する方法を探索することにもつながるため重要となる。近年,遺伝子解析技術の向上により,造礁性サンゴの一種であるコユビミドリイシの全ゲノム解読が完了したことから,今後サンゴのストレス防御機構についての研究が飛躍的に進むことが期待されている。本総説では,高水温や強光など環境ストレスに対する造礁性サンゴのストレス応答について,遺伝子,生理および生態の多角的な視点から理解の現状をまとめる。また,抗酸化物質やマイコスポリン様アミノ酸,蛍光タンパク質などサンゴの持つストレス防御機構についての知見をまとめ,今後サンゴのストレス耐性や防御に関する研究を進める上での展望を述べる。
著者
山崎 敦子 渡邊 剛 岨 康輝 中地 シュウ 山野 博哉 岩瀬 文人
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.91-107, 2009-12-01 (Released:2010-08-07)
参考文献数
34
被引用文献数
2 3

温帯域の造礁性サンゴは地球温暖化や海洋酸性化の影響を敏感に反映し,骨格に記録していることが期待される。温帯域に生息する造礁性サンゴ骨格を用いた古環境復元の可能性を検討するため,高知県土佐清水市竜串湾において塊状のPorites lutea(コブハマサンゴ)骨格のコア試料を採取し,骨格の酸素・炭素同位体比分析及び軟X線画像解析,蛍光バンド観察を行った。現場の水温変化と比較するとサンゴ骨格の酸素同位体比には低水温が反映されていなかった。また軟X線画像解析の結果,低水温時には高密度バンドを形成し,骨格伸長量及び石灰化量が高水温時に比べ大きく減衰することがわかった。以上の結果からも本研究試料のサンゴは低水温時に骨格成長速度が著しく低下していると考えられる。炭素同位体比の値は2001年から2008年にかけて増大傾向にあった。蛍光バンドは2001年から2005年の間で強く観察された。また,2001年に竜串湾で起こった集中豪雨による懸濁物質の流入から竜串湾の濁度は数年間を経て減少しており,サンゴの光合成量が徐々に増大していることが示唆された。本研究試料は今後,コア全尺の分析により過去数百年間の海水温の変化を検出できる可能性がある。また,同時に竜串湾沿岸の開発や漁業,災害を記録していると考えられ,長期間にわたる竜串湾の歴史を復元できることが期待される。
著者
Pillay Ruby Moothien 寺島 裕晃 川崎 博之
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌
巻号頁・発行日
vol.2002, no.4, pp.43-52, 2002
被引用文献数
8

大規模なサンゴ白化現象が1998年にアジア、インド洋、カリブ海など世界各地で観察・報告された。このような状況下、モーリシァスでは、サンゴ白化状況の把握、定量化を図るため、1998年3月から5月にかけて3期の潜水観察調査を沿岸8ヶ所の礁原と礁外縁斜面で行なった。初回はモーリシァスで白化現象が観察されてから2週間以内の3月初旬にクオドラットを用いた調査を4地点で行なった。初回調査が終了してから約1ヶ月後にあたる3月末からライントランセクトによる第2回目の調査を5地点で行ない、第2回目の調査が終了してから1週間後に第3回目の定性的な調査を2地点で行なった。サンゴ白化現象は、調査を行なった全ての地点で観察されたが、サンゴ群体全体が白化していることは少なく、モーリシァスのサンゴ白化現象は他のインド洋の島々と比べ軽微なものであった。礁原上で観察されたミドリイシ属サンゴはその他のサンゴに比べて相対的に白化している割合が高かった。しかし、対照的に礁外縁斜面では、ミドリイシ属以外のサンゴ類の白化傾向が強かった。このようなモーリシァスのサンゴ白化は、水温上昇や塩分濃度の減少などに起因するものと推測される。
著者
Naoko NAMIZAKI Hiroya YAMANO Rintaro SUZUKI Kenji OOHORI Hitoshi ONAGA Tamiko KISHIMOTO Teppei SAGAWA Yoshiko MACHIDA Shigeki YASUMURA Takanori SATOH Takashi SHIGIYA Tsuyoshi SHIBATA Megumu TSUCHIKAWA Yasuaki MIYAMOTO Kyoko HARUKAWA Koichi HIRATE Koji FURUSE Kenichi HOKOYAMA Yasushi YAMANAKA Toru WAGATSUMA
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
Galaxea, Journal of Coral Reef Studies (ISSN:18830838)
巻号頁・発行日
vol.15, no.Supplement, pp.391-395, 2013 (Released:2014-06-25)
参考文献数
10
被引用文献数
5

The Sango (Coral) Map Project began in 2008, an International Year of the Reef, and continued for two years. It is a monitoring program that allowed for easy participation via a web-based system that collected information on coral occurrence from various groups of people (e.g. divers, snorkelers, tourists, environmental educators, and researchers) with the aim of clarifying the current status of coral reefs in Japan. Participants simply submitted occurrences and location information with photographs of coral formations they encountered. The results are presented on the web using the Google Map API. Over the two-year period, 148 participants provided information on coral occurrence, and 367 data points were collected. Collaboration was developed with other activities including nature tours and diving programs. Data from the project have been used to validate national coral-reef distribution maps and have been published as a scientific paper. The project owes its success to the engagement with a wide range of networks and stakeholders and to the simplicity of the method. We hope that this project will be a first step towards encouraging people to participate in other monitoring programs such as ReefCheck. Citizen monitoring programs are a useful and important method for establishing collaboration between diverse stakeholders.
著者
仲栄真 礁 浪崎 直子 佐藤 崇範 高橋 志帆 森 愛理 高橋 麻美 石川 恵 田村 裕 棚谷 灯子 内藤 明
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.75-86, 2012 (Released:2014-09-02)
参考文献数
7
被引用文献数
1

日本サンゴ礁学会若手の会・環境教育ワーキンググループでは,主に日本サンゴ礁学会会員を対象として,サンゴ礁分野における教育活動の現状と課題を明らかにするためのアンケート調査を実施した。537 名の調査対象者に対し,アンケートの回収率は 15.1%で,回答者の 69.1%が何らかの教育活動への参加経験があり,また 98.8%がこうした教育活動に関心があると回答した。また教育活動が重要であると考える理由としては,「保全活動の一環として教育活動を重要視している」とする回答が 29.2%と最も多かった。活動実施の際の課題や必要な支援に関する主な意見としては,時間的負担,予算不足,人材不足が挙げられた。加えて,若手研究者が教育活動に参加することへの正の効果についても考察し,若手学会員の視点から今後の教育活動における連携や実施の促進に向けた活動案も提案する。
著者
斉藤 宏 石丸 隆 灘岡 和夫 渡邉 敦
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.91-105, 2013 (Released:2014-07-02)
参考文献数
24

世界的なサンゴの白化現象が起こり,気候変動が進行する現在,サンゴのモニタリングの必要性が急務である。しかし,モニタリングの手法は目視によるものが基本で,小さい変動はわからなかった。褐虫藻のモニタリングによりサンゴ健康状態をモニタリングできる可能性のある,青色光域と近赤外光域の二つの画像から求めた「サンゴ用正規化植生指標」(NDCI; Normalized Difference vegetation of Coral Index)(斉藤ら 2008)を用いて,石垣島白保サンゴ礁の礁池において2009-2010年と2011-2012年の2年間サンゴの季節変動と日周変動を数値化した。その結果,サンゴのNDCI値は水温に対しては負の相関を示しながら季節変動していること。サンゴの種類によりその変動幅に違いがあること。高水温ばかりでなく低水温や光量子,流入泥によるストレス等により,季節変動のみならず日周変動も行っている可能性を明らかにした。また,Porites sp.の強い白化と弱い白化の可視化,Favia sp.の台風の後のNDCI値の偏りも計測できた。
著者
Michael P. JANES
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
Galaxea, Journal of Coral Reef Studies (ISSN:18830838)
巻号頁・発行日
vol.15, no.Supplement, pp.195-200, 2013 (Released:2014-06-25)
参考文献数
29
被引用文献数
2

The Xeniidae are a major component of benthic coral reef communities in Lembeh, Indonesia. A two-week survey of the xeniids from this region was conducted. Scuba collections were carried out to a depth of 25 meters. A total of 48 samples were examined, encompassing a variety of species found in Lembeh Strait. Representatives of the genera Anthelia, Cespitularia, Heteroxenia, Sansibia, Sympodium, and Xenia were recorded using microscopic analysis. Visual estimates were made of the underwater abundance and distribution of these genera. Three habitats containing xeniids were identified. Sand slopes, which were limited to the genera Anthelia, and Xenia. Hard substratum patch reefs supported the greatest diversity, which included communities of Anthelia, Cespitularia, Heteroxenia, Sansibia, Sympodium, and Xenia. The genera Cespitularia, Heteroxenia and Xenia were found to colonize reef walls. Only one colony of Sansibia and one colony of Sympodium were recorded in this survey. Abundant assemblages of Xenia were found to occur at depths of 3-25 meters, primarily on sand slopes. Interestingly, most colonies of Cespitularia and Heteroxenia were observed below 10 meters on both patch reefs and reef walls.
著者
服部 昭尚
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.1-27, 2011-12-01 (Released:2012-03-13)
参考文献数
68
被引用文献数
1

クマノミ類が共生するイソギンチャクは,“宿主イソギンチャク”と呼ばれ,クマノミ類にとっての隠れ場所として重要な役割を果たしている。一方,“宿主イソギンチャク”にとってのクマノミ類の役割については,これまで曖昧な点が多かった。本稿では,まず,褐虫藻に注目した最近の研究をまとめ,クマノミ類との共生がイソギンチャクにもたらす利益について明確にした。このことにより,あるイソギンチャク1個体の着底後初期の生存と成長には,クマノミ類との潜在的共生種数が多いほど有利であろうと推察された。“宿主イソギンチャク”には,定着したクマノミ類のほとんど全てが繁殖場所として利用する種(4種)のほかに,定着したクマノミ類の中の特定の種のみが繁殖に利用する種(2種),ほとんど全てが繁殖場所には利用しない種(4種)があり,クマノミ類にとってのイソギンチャクの価値に格差が存在する。イソギンチャク1種にとってのクマノミ類の潜在的共生種数はそこで繁殖が確認されたクマノミ類の種数と極めて強く相関しており,クマノミ類が価値の高いイソギンチャクを選択的に利用する傾向が示唆される。“宿主イソギンチャク”は,クマノミ類との関係性,特に双方にとっての価値の高低に注目すると4タイプに類型化されるが,タイプ間で観察例数に大きな違いが見られ,地理的分布が重複する221例の組合せのうち,実在するのは37.1%(82例)であった。これまでの研究を概観することにより,実在する組合せには,1)“宿主イソギンチャク”とクマノミ類の地理的分布の重複のほかに,2)生息場所の一致,3)クマノミ類による宿主選択性,さらに,4)宿主をめぐるクマノミ類の種間競争が大きく影響していることが理解できる。クマノミ類よりも寿命が長く,浮遊幼生期間も長い“宿主イソギンチャク”の地理的分布には,暖流の影響が大きいことが文献情報の分析から明らかになった。“宿主イソギンチャク”の分類は日本では混乱しているが,多少の問題点があったとしても,世界で幅広く用いられている分類に従うことにより,日本近海で報告されているイソギンチャクとクマノミ類の分布や生態,関係性について,他海域で得られた知見との比較分析が可能となる。
著者
Patrick C. CABAITAN Hiromi YAMAMOTO Kazuhiko SAKAI
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
Galaxea, Journal of Coral Reef Studies (ISSN:18830838)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.27-40, 2012 (Released:2013-03-22)
参考文献数
33
被引用文献数
1 2

Coral communities at nine sites off the coast of Motobu, Okinawa, were examined 6 and 12 years after a 1998 mass coral bleaching event caused by anomalous seawater temperatures. Overall, mean coral coverage increased from 17% in 2006 to 28% in 2010 at these sites, although these percentages were lower than the coral coverage at a nearby reef at Sesoko Island. Some of the corals that had not recovered (the “losers”) at the Sesoko reef were found at some sites in the present study. Dominant coral taxa differed among sites, probably because of differences in the environmental conditions at the sites, e.g., the so-called massive-type coral Porites dominated at a protected site near a river, while branching-type Acropora was dominant at exposed sites. Acropora was one of the prominent short-term losers, but contributed significantly to coral coverage increases due to its fast growth at some exposed sites. Adjacent reefs, which may share similar environmental conditions, also showed some variability, possibly due to processes such as coral recruitment and post settlement survival, which acted on a smaller spatial scale. Multivariate analyses such as multidimensional scaling were more sensitive than univariate analyses. Overall, recruitment was low, especially at sites with high coral coverage, which implies that remnant corals may have contributed to the recovery of these reefs. Coral communities in this area are recovering and there has been no apparent shift to algae-dominated communities. The recovery of coral communities appears to be related to the life history traits of corals and environmental conditions.
著者
Janelle V. EAGLE Andrew H. BAIRD Geoffrey P. JONES Michael J. KINGSFORD
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
Galaxea, Journal of Coral Reef Studies (ISSN:18830838)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.5-22, 2012 (Released:2013-03-22)
参考文献数
86
被引用文献数
2 3

On coral reefs, sites that receive consistently high levels of recruitment relevant to other sites (“recruitment hotspots”) may be crucial to the persistence of populations. However, few studies of coral recruitment have the necessary replication in space and time required to detect recruitment hotspots. The aim of this study was to detect recruitment hotspots at One Tree Reef (southern Great Barrier Reef) and to explore associations between hotspots, hydrodynamics, adult abundance and reef benthos. Recruitment hotspots were detected on the reef slope and in the lagoon. Almost all hotspots were located on the leeward side of the reef, however, there was little congruence among hotspots for different families of coral recruits. Recruitment hotspots in some taxa in some habitats were correlated with water flow or adult abun-dance. A clear recruitment hotspot for two families (Pocilloporidae and Poritidae) in the lagoon had medium levels of water flow (∼4 cm s-1), but there was no re-lationship with water flow on the slope. In experimental aquaria, Acropora nasuta settlement was six to 10 times greater under low (2.1 cm s-1) compared to medium water flow (4.6 cm s-1). Abundance of pocilloporid and poritid, but not acroporid, recruits at each site was often correlated with adult cover indicating either aggregative settlement or limited dispersal. Recruitment hotspots are likely to be both sources and sinks for some taxa, and therefore identifying and protecting hotspots should be a high priority in marine reserve design.
著者
Hajime KAYANNE Chuki HONGO Ken OKAJI Yoichi IDE Takeshi HAYASHIBARA Hidekazu YAMAMOTO Nobuo MIKAMI Kiyoshi ONODERA Takaaki OOTSUBO Hiroyuki TAKANO Makoto TONEGAWA Shogo MARUYAMA
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
Galaxea, Journal of Coral Reef Studies (ISSN:18830838)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.73-95, 2012 (Released:2013-02-04)
参考文献数
37
被引用文献数
1 3 1

Ninety-three coral species have been identified at Okinotorishima (Okinotori Island), an isolated table reef located in the center of the Philippine Sea. The species composition of the island is similar to that of other islands in the northwestern Pacific, but the number of species is small in comparison with surrounding islands. The coral fauna at the island is characterized by a unique species composition that is independent of the Ryukyu Islands, mainland Japan, Palau, and the Mariana Islands. No endemic species were found, but the dominant Acropora species (A. aculeus, A. sp. aff. divaricata, and A. globiceps) were morphologically different from corresponding species at the Ryukyu Islands. The relatively low species diversity at the island despite the close proximity to an area of high diversity is explained by its small habitat diversity and isolation from other islands. The island is located in a subtropical gyre and is isolated from major currents. Thus, only coral larvae with a long competency period (as long as 70 days) can settle at the island from surrounding islands. This unique species composition seems to have been maintained for at least the last 7600 years, since the last stage of sea level rise in the post-glacial period (Holocene).
著者
J.E.N. VERON Lyndon M. DEVANTIER Emre TURAK Alison L. GREEN Stuart KININMONTH Mary STAFFORD-SMITH Nate PETERSON
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
Galaxea, Journal of Coral Reef Studies (ISSN:18830838)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.91-100, 2009 (Released:2010-08-07)
参考文献数
49
被引用文献数
114 183

Spatial analyses of coral distributions at species level delineate the Coral Triangle and provide new insights into patterns of diversity and endemism around the globe. This study shows that the Coral Triangle, an area extending from the Philippines to the Solomon Islands, has 605 zooxanthellate corals including 15 regional endemics. This amounts to 76% of the world's total species complement, giving this province the world's highest conservation priority. Within the Coral Triangle, highest richness resides in the Bird's Head Peninsula of Indonesian Papua which hosts 574 species, with individual reefs supporting up to 280 species ha-1. Reasons for the exceptional richness of the Coral Triangle include the geological setting, physical environment and an array of ecological processes. These findings, supported by parallel distributions of reef fishes and other taxa, provide a clear scientific justification for the Coral Triangle Initiative, arguably one of the world's most significant reef conservation undertakings.
著者
杉原 薫 園田 直樹 今福 太郎 永田 俊輔 指宿 敏幸 山野 博哉
出版者
日本サンゴ礁学会
雑誌
日本サンゴ礁学会誌 (ISSN:13451421)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.51-67, 2009-12-01 (Released:2010-08-07)
参考文献数
57
被引用文献数
9 12

高緯度域の造礁サンゴ群集は,地球温暖化による表層海水温(SST)の上昇や海洋酸性化といった地球規模での撹乱の影響指標として,現在注目されつつある。そこで本研究では,高緯度域の造礁サンゴに関する基礎データを収集することを目的として,鹿児島県甑島列島から島根県隠岐諸島にかけてみられる造礁サンゴの生息環境と群集構造の定量調査を2002年から2009年にかけて行った。その結果,生息種数と被覆率がともに高い造礁サンゴ群集は,どの海域でも波浪エネルギーが中程度で濁度が小さいと推定される地点(外洋に近い島陰あるいはやや遮蔽的な湾口)の水深10m以浅で多くみられた。また,これらの生息範囲は,緯度の増加に伴ってより波浪の影響の少ない内湾の浅海域あるいは外洋に近くても水深の深い環境へと局所化する傾向が認められた。甑島列島上甑島でみられた造礁サンゴ群集の優占種は,亜熱帯性の卓状・枝状Acropora(A. hyacinthusやA. muricata)と板状のPavona decussataであった。長崎県五島列島の福江島と若松島では,外洋側で温帯性の卓状Acropora(A. glauca, A. japonicaやA. solitaryensis)が,内湾側で被覆状~塊状種(Leptastrea pruinosa,Mycedium elephantotusやHydnophora exesaなど)と温帯性の枝状Acropora(A. tumidaやA. pruinosa)がそれぞれ卓越していた。長崎県壱岐と対馬では,温帯性の卓状Acropora種は全くみられず,塊状のFavia spp.と葉状~被覆状種(Echinophyllia spp.やLithophyllon undulatumなど)が大部分を占めていた。隠岐諸島では,塊状~被覆状のOulastrea crispata,Alveopora japonicaとPsammocora profundacellaの生息が確認されたのみで,これらの種は生息群体数も少なく散在的な分布を示す群集(個体群)を構成するに過ぎなかった。