著者
横井 修一 現代行動科学会誌編集委員会
出版者
現代行動科学会
雑誌
現代行動科学会誌 (ISSN:13418599)
巻号頁・発行日
no.19, pp.1-8, 2003

筆者は1979年に行動科学研究講座に着任して以来、社会調査の授業や社会調査関係の特別研究・「特殊実験調査」あるいは修士論文等の担当学生に調査の指導を行ってきたが、常に頭を離れない問題があった。それは、「機縁法による調査結果の信頼性」という問題である。 筆者自身の調査経験に基づく「機縁法でも信頼性はもちうる」という確信はあったものの、調査方法論に依拠した明確な説明は調査法関連の文献にはまったく見当たらなかった。「見当たらなかった」と敢えて過去形にする必要もない位に、調査法に関するどのような文献でも問題そのものに触れられることすらないのである。 筆者自身の学問的な立場としては、プラグマティズムの考え方に影響を受けて実践指向が強く、「応用社会学」(今流には"臨床社会学的")のパラダイムに賛成なので、そうしたパラダイムに基づく方法論的考え方はできているつもりではあるが、そうした考え方からの説明が必ずしも受け入れられるとは限らない。 指導している学生諸君に説明すると、何やら分かったような顔をするのであるが、そうした学生諸君がいざ発表会の場で、「機縁法調査では信頼性がないのではないか」という批判を受けると、たちまち自信を失って批判に同調するか、「後で考えてみます」と逃げるのがせいぜいとなる。それはそれで無理からぬことで、(指導)教官の言うことだから「そうなんだろう」とその場では一応納得したように思えても、明確な論理として示されることがない以上、現代的な("過度の")実証主義の風潮の下では十分に納得するのは困難である。 そこで、この小論では、機縁法による調査(すなわち「サンプリング調査」でない調査)であっても信頼性を持ちうることを、調査事例(いずれも行動科学研究室の「特殊実験調査と社会調査実習で得られた調査結果)を用いて論証してみたい。
著者
横井 修一 現代行動科学会誌編集委員会
出版者
現代行動科学会
雑誌
現代行動科学会誌 (ISSN:13418599)
巻号頁・発行日
no.27, pp.1-17, 2011

2008年6月8日午後、日曜の歩行者天国で賑わう秋葉原の交差点で、26歳の青年が7人死亡10人重傷という無差別殺傷事件を起こした。この秋葉原事件は人々に大きな衝撃を与え、直後からマスコミの集中報道が続き、事件をめぐって数多くの論評がなされたが(注1)、報道・論評において注目されたのは無差別大量殺傷という事件の凶悪さよりもむしろ、犯人Kの犯行に至るプロセス・背景である。 「無差別殺傷事件」とは、犯人と特定の関係性がない人々が殺害される事件であるが、社会的に衝撃を与えるのはその「凶悪」性ではなく犯行が常識では理解できないというその不条理性であり、それ故にその社会的な背景要因が注目されるのである(注2)。 秋葉原事件が社会学的にも注目される理由は、この事件が「<現在>の全体を圧縮して代表(大沢真幸)(注3)しており、事件は「戦後日本に何回かあった大きな転換点の一つ」(見田宗介)(注4)と見られるからである。この事件は現代日本社会、とりわけ青年世代が直面する人間関係の希薄化問題(注5)を考察する<範例>(注6)となる。 この事件は、①Kの犯行までの生活体験に現代青年の人間関係の問題性が典型的に表出されていて世代論的に論じるのに妥当な<範例>であるとともに、②反響の大きかった事件なので事例として考察するための情報が多く、③社会的な関心が大きいので読者に分かりやすい事例ともなる点でも<範例>(注7)に適している。 本稿の課題は人間関係希薄化問題の検討であり、犯行要因の究明自体を課題としているのではないが、考察の<範例>に適していると言えるためには、犯人Kの人間関係の希薄さが犯行要因として重要であったことが前提となる。そこで、はじめに犯行要因をめぐる議論を検討し、その後でKのケースを<範例>として青年世代の人間関係の問題点を明らかにしてゆく。
著者
横井 修一 現代行動科学会誌編集委員会
出版者
現代行動科学会
雑誌
現代行動科学会誌 (ISSN:13418599)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.1-11, 2012-08-31

「学問にはどんな意義があるのか」という疑問や悩みをもつことは、近年少なくなったと言われるが、恐らく現在も大学では、漠然とであれ新入生から教師まで一度は持たれる問いであろう。それは大学卒業後の人であれば、学問・研究に関わらない立場で学問と関わる意味は何かという問題であり、本紙の読者には職業上の専門知識との関係なしに<行動科学>という学問に関わる意味は何かという問題で、より広げて言えば<行動科学>(注1)という学問は私たちの生活でどのような意義をもつかという問題である。 この『現代行動科学会誌』の読者である現代行動科学会会員の大半が<行動科学>を学んだ卒業生であるが、職業として学問(教育・研究)に関わる人は一部であるし、臨床心理学関連の専門職のように<行動科学>が職業的な専門知識として必要とされている人々も多数派ではない。大多数の会員にとっては職業上の「専門知識」と直結しないとすれば、その<行動科学>の学問的な知識はどのような意味を持つのであろうか。 本稿では以上の問題について、<行動科学>をひとまず「社会学」に置き換え、私たちの日常生活において社会学がどのような意味をもつかという問題として、M.ブラウォイの「公共社会学」論を踏まえながら考えてみたい。 ブラウォイ(Michael Burawoy)は公共社会学論に関する論文を2004年以前にもいくつか著しているが、中心となるのはアメリカ社会学会における会長講演(2004年)をそのまま活字化した次の論文である。講演の全文はきわめて明晰なもので、その後に書かれた論文で取り上げられている論点が、本稿に関連する限りではすべて展開されている。 Michael Burawoy, 2004, For Public Sociology PRESIDENTIAL ADRESS, American Sociological Review, 2005, Vol.70(February:4-28) 本稿におけるブラウォイの紹介は主としてこの論文に基づいており、その引用や参照箇所は単に該当頁だけを付記する。引用文中の「・・・・」は省略を、「[]」は原文にない補いを示す。なお、本稿の「注」は研究論文の作法としての論拠の提示や補足であり、本稿の内容自体は本文だけでも理解されるのではないかと思う。 本稿の1~4節はブラウォイの公共社会学論の―本稿の主張の基礎となる部分の―紹介で、5~6節がブラウォイの議論を踏まえた筆者の主張である(注2)。
著者
横井 修一 現代行動科学会誌編集委員会
出版者
現代行動科学会
雑誌
現代行動科学会誌 (ISSN:13418599)
巻号頁・発行日
no.28, pp.1-11, 2012

「学問にはどんな意義があるのか」という疑問や悩みをもつことは、近年少なくなったと言われるが、恐らく現在も大学では、漠然とであれ新入生から教師まで一度は持たれる問いであろう。それは大学卒業後の人であれば、学問・研究に関わらない立場で学問と関わる意味は何かという問題であり、本紙の読者には職業上の専門知識との関係なしに<行動科学>という学問に関わる意味は何かという問題で、より広げて言えば<行動科学>(注1)という学問は私たちの生活でどのような意義をもつかという問題である。 この『現代行動科学会誌』の読者である現代行動科学会会員の大半が<行動科学>を学んだ卒業生であるが、職業として学問(教育・研究)に関わる人は一部であるし、臨床心理学関連の専門職のように<行動科学>が職業的な専門知識として必要とされている人々も多数派ではない。大多数の会員にとっては職業上の「専門知識」と直結しないとすれば、その<行動科学>の学問的な知識はどのような意味を持つのであろうか。 本稿では以上の問題について、<行動科学>をひとまず「社会学」に置き換え、私たちの日常生活において社会学がどのような意味をもつかという問題として、M.ブラウォイの「公共社会学」論を踏まえながら考えてみたい。 ブラウォイ(Michael Burawoy)は公共社会学論に関する論文を2004年以前にもいくつか著しているが、中心となるのはアメリカ社会学会における会長講演(2004年)をそのまま活字化した次の論文である。講演の全文はきわめて明晰なもので、その後に書かれた論文で取り上げられている論点が、本稿に関連する限りではすべて展開されている。 Michael Burawoy, 2004, For Public Sociology PRESIDENTIAL ADRESS, American Sociological Review, 2005, Vol.70(February:4-28) 本稿におけるブラウォイの紹介は主としてこの論文に基づいており、その引用や参照箇所は単に該当頁だけを付記する。引用文中の「・・・・」は省略を、「[]」は原文にない補いを示す。なお、本稿の「注」は研究論文の作法としての論拠の提示や補足であり、本稿の内容自体は本文だけでも理解されるのではないかと思う。 本稿の1~4節はブラウォイの公共社会学論の―本稿の主張の基礎となる部分の―紹介で、5~6節がブラウォイの議論を踏まえた筆者の主張である(注2)。
著者
細江 達郎 横井 修一 PRIMA Oky Dicky A 細越 久美子
出版者
岩手県立大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

盛岡市と周辺町村を対象とし、犯罪発生場面を物的・人的環境との動的関係から調査し、その発生抑制条件を明らかにした。そのことから地方における犯罪防止対策の基礎データを分析し、今後の研究の手がかりを提供した。本年度は具体的には以下について実施した。(1)GISによる犯罪分析窃盗犯とその地理的環境要因との関連分析を継続して行い、利用形態別の建物の割合と面積に基づいてクラスタ分析を行い、町丁目ごとに特徴を把握することが可能となった。その結果、対象地域は繁華街地域、繁華街・住宅混在地域・住宅中心地域に分類され、犯罪手口との関連が明らかとなった。これまで市町村(区)単位、交番管轄単位で分析されていたが、本研究によりさらに詳細な分析が可能となるだけでなく、防犯の面でも地域特性に応じた対策の検討が可能となった。(2)防犯意識向上のための地域安全マップ作製の効果に関する調査地域安全マップの効果は被害防止能力、コミュニケーション能力、地域への愛着心、非行防止能力の向上がある。それぞれの尺度を作成し、岩手県内農村部の一小学校児童を対象に調査を実施した。地域住民を含む地域安全活動に児童が参加し、実施前・後・3ヶ月後の能力の変化を調査し、安全活動の関与の効果について明らかにした。まとめとして、地方における犯罪発生は都市およびその周辺部においては罪種とその地域の建物利用形態との関係により発生の態様が異なり、農村部においては地域住民の安全対策への関与により犯罪発生・抑制に差異が出ることが確認され、今後、地方における犯罪防止はそれぞれの地域特性に応じたきめ細かい施策が必要とされる。3年間に渡る本研究はその基礎的な資料を提供するものである。