著者
米地 文夫 リヒタ ウヴェ
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.13-31, 2009-12

宮沢賢治の作品のなかでも最も有名なものの一つである「銀河鉄道の夜」の物語のなかに「ケンタウル祭」という不思議な名前の祭りが登場する。物語の中心が星座をめぐる夢の旅であるため、この名はケンタウルス星座に因むものと考えられてきた。しかしこの名は賢治の若き日の短歌が初出であり、その内容や時期から星座には関係なく、ギリシャ神話の半人半馬の怪物ケンタウロスのドイツ語ケンタウルスをそのまま祭の名に用いたものであることがわかった。この時期、賢治は盛岡高等農林学校で馬の飼育管理とドイツ語を学んでおり、ちゃぐちゃぐ馬ッこをはじめとする馬産地岩手の人と馬との祭から発想したのである。また、キメラに関心があった賢治は人間の上半身と馬体の下半身をもつケンタウルを、理性と本能的欲望との葛藤に悩む自分になぞらえた。岩手と同じく、馬を祝福することで春の農耕の始まりに豊饒を祈るドイツにもある民俗を賢治はおそらく学び、若い男性としての高揚感をケンタウル祭と表したのである。のちに少年のための物語「銀河鉄道の夜」にこの名の祭を組み込むが、静謐な物語にはなじまず、結局は、削除されたり「銀河の祭」や「星祭」という名が加えられて、ケンタウル祭のイメージは希薄になってゆくのであった。
著者
高野 泰志
出版者
岩手県立大学
雑誌
言語と文化 (ISSN:13475967)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.41-52, 2003-01-31

ヘミングウェイの最初期の短編「インディアン・キャンプ」は、作家の半自伝的登場人物、ニッタ・アダムズを主人公とする物語である。まだ幼いニッタは父親のヘンリー・アダムズ医師とジョージおじさんに連れられ森でキャンプをしていたが、インディアンの女性の出産を手助けするため、深夜のインディアン・キャンプへと赴くことになる。その女性は子供を生むことができずに三日間も悲鳴を上げ続けていた。アダムズ医師は逆子であることを知ると、麻酔をかけることなくジャックナイフで帝王切開を行い、釣り用の針と糸で傷口を縫い合わせるという、非人間的な状況下での手術をなんとか成功させる。母子ともに命を救うことのできた医者は、非常に高揚した気分で、そばの寝台にいた夫にそのことを伝えようとするが、夫はすでに剃刀で喉を切り裂いて自殺していた。そのような場面を幼いニッタに見せたことを後悔しながら、父子は湖を渡ってもとのキャンプへと帰っていく。この作品は非常に多くの謎を抱えた作品であるが、頻繁に問題にされるのは、インディアンの夫がなぜ自殺をしたかという問題である。この謎を最初に取り上げたジェフリー・マイヤーズは、答えを未開民族の間に見られる「偽娩」という風習に求めている。しかし、このマイヤーズの説もインディアンの夫の唐突な死を十分に説明しきってはいない。この謎の死の持つ意味は、当時の出産をめぐる医学のイデオロギーと、帝国主義へと向かうアメリカの政治的イデオロギーが複雑に絡み合った歴史的背景を鑑みてはじめて立ち現れてくるのである。世紀転換期の医学は、それまでは産婆の領域であった出産を産科学という医学の一分野に組み込み、男性の身体にはない生殖に関する現象を、本来は自然な身体反応であるにもかかわらず、「病」=「異常」とみなしていた。このことを考慮に入れると、この作品で描かれる十分な設備のない未開の地での乱暴な帝王切開手術は、いわば自然の領域へと踏み込む近代医学のイデオロギーを表象していると考えられる。さらに、19世紀半ばに発明された「麻酔」は当時の文明の最先端技術であり、痛みに敏感な文明人のすべてが享受すべき恩恵であると考えられていた。その一方で、未開民族は痛みに対して鈍感であり、麻酔が必要であるとは考えられていなかった。作品中で描かれているように、アダムズ医師は麻酔なしの手術を行うに際して、インディアンの女性の痛みに一切注意を払っていないのである。このように、麻酔の発明は自らの痛みの感覚を顕在化させる一方で、他者の痛みの存在を不可視なものにしてしまうのである。そしてこのような考え方が当時のアメリカの帝国主義的領土拡張政策を推し進めることになるのである。それに対してヘミングウェイの描くインディアンたちは自然との共感能力が高く、他者の痛みに対して敏感である。この点を考慮に入れると、麻酔なしで腹を切り裂かれる妻を目の当たりにした夫がその痛みを自分のものとして受け止めていたとしたら、そもそもこの夫の死は「謎」であるといえるのだろうか。むしろこの問題を謎として取り上げたマイヤーズをはじめとするこれまでの批評家たち自身が、インディアンの痛みに対してあまりにも鈍感になっていたといえるのではないだろうか。本論文では、これまでもっぱらニッタの成長物語として読まれてきたこの作品を、「痛み」の表象を通して人種的観点から読み直す試みである。
著者
工藤 純也
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.1-19, 2015-11

東北地方太平洋沖地震により、岩手県沿岸地域は甚大な被害を被った。地域の産業としての観光業は機能の多くを失ったが、被災地では「復興応援」や「支援」と銘打ったパッケージツアーが多数実施されている。被災地における観光を通じて、被災地の住民と観光客との間に意識のギャップが生じたり、地域の社会的アイデンティティが消費されるという問題は従前から指摘されてきた。そこで、これまで明らかになっていなかった、震災後に増加した「復興応援バスツアー」の全体像を、独自に構築したデータベースによって把握するとともに、観光客、観光地に暮らす住民、観光業従事者への聞きとり調査・質問紙調査を通じて、岩手県沿岸地域における東日本大震災後の観光の実態把握を行った。調査の結果、多数の復興応援バスツアーが被災地で実施されている一方、観光業従事者、地域住民、被災地を訪れる観光客との間の意識と関係性には、ズレが生じていることが明らかになった。このことをふまえ、地域住民と観光客、観光業従事者とを結びつける仕掛けの必要性について論じた。
著者
鈴木 眞理子
出版者
岩手県立大学
雑誌
岩手県立大学社会福祉学部紀要 (ISSN:13448528)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.31-41, 2005-03

In the previous article (Suzuki, 2003), there introduced two high school graduates who had no knowledge on welfare, but started acquiring professional skill and knowledge enthusiastically through their work. We followed how they become qualified as social workers. They learned to gain professional knowledge and more they leveled up more they had incentive. After they became qualified, they still grew up as well-experienced workers. In present two cases, they start from actual workers without much professional knowledge but eventually they acquire national qualification as social workers. That gives them self esteem and high level of profession. In other words, qualification has more meaning than only gaining skill and knowledge. It gives satisfaction to the ones who acquired the qualification and that leads to their self esteem on their work. This has a good effect on the quality of their work because more confident social workers become, they serve better. There is also a fact that qualification changes nothing in what they can do compared with other qualification which legally allows the profession such as lawyers and doctors. However, qualified social workers tend to be proud of their work and skill. The workers brush up their skill and as a result they are accepted as skilled and experienced workers. There are also qualified social workers who graduated from non-welfare department, but happened to start working as social workers. Although they are similar to the workers in previos article, some differences are discussed.
著者
三浦 修 平塚 明
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.411-428, 2004-03-31

かつて生活や生産のための資源として利用され管理・維持されてきた里山が、現在いろいろな方面から注目され、その保全のための研究、管理の実践運動、地域資源としての景観評価が試みられている。 ほぼ80年前に活躍した宮沢賢治は多くの文学作品を残したが、そこには、その後岩手県域でリストアップされた希少植物も登場する。その多くは草地、二次林、溜め池、河川などの里山に生育していた植物である。 作品中の希少種を手掛かりとして、1910年代後半から1920年代の岩手県における、草地を中心にした里山植生のダイナミズムを復元した。この80年間に植生が大きく変化した原因は、人々の生活と生産が里山依存を弱めた結果、植生管理が放棄されたことにある。シバ草地やススキ草地の遷移により、遷移初期相に適応した植物(オキナグサ、キキョウ、オミナエシなど)が衰退し、消滅した。また、サクラソウは管理が放棄された薪炭林や農用林の林冠層が発達した結果、林床の光環境が悪化して衰退した。
著者
細江 達郎 青木 慎一郎 細越 久美子 糸田 尚史 小野 澤章子
出版者
岩手県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

青森県下北半島出身者(昭和39年中卒者)の職業的社会化過程に関する追跡調査の一環として、現住地面接調査(有効面接数47)・質問紙調査(有効回答数125)を実施した。その結果、老年期移行期は都市周辺地域居住型と出身地域回帰型に分けられ、後者は対象者の50歳台時点での予測(40%以上)とは異なり少数であった。前者は、都市周辺地域社会内で生活基盤を形成してきたものが多く、再適応が比較的安定している一方で、都市不安定就労を継続し出身地域とも交流に欠ける者も少なくない
著者
藤井 義久
出版者
岩手県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は、児童生徒の「キレやすさ」と「学校嫌い」を客観的に測定できる尺度を開発し、その尺度を用いて、問題行動を生み出すメカニズムを解明するとともに、「キレやすさ」と「学校嫌い」との関連性について分析することである。まず、大学生162名を対象にして、「友達関係」、「教師関係」、「怠学感情」という3つの下位尺度、計24項目から成る「大学生版学校嫌い尺度」を開発した。そして、その尺度を用いて、大学生における学校嫌い水準は特に小学校時代の経験が大きく影響していること、学校嫌い水準と怒り水準との間には密接な関連性のあることなどを明らかにした。次に、小学生(1〜6年生)708名を対象にして、項目分析及び因子分析等、様々な統計解析手法を用いて、「怒り感情」、「攻撃行動」、「生理的反応」という3つの下位尺度、計16項目から成る「児童版キレやすさ尺度」及び「怠学感情」、「学業不安」、「教師関係」、「友達関係」という4つの下位尺度、計20項目から成る「児童版学校嫌い尺度」を開発した。そして、それらの尺度を用いて、家庭において音楽を聴いたりお風呂に入ったりするといったリラクレーション時間の長い児童ほど学校嫌い傾向の強いこと、「学校嫌い」と「キレやすさ」は密接に関連していて特に教師関係や友達関係における何らかのトラブルによる学校嫌い傾向の強い生徒ほどキレやすい傾向のあることなどを明らかにした。さらに、中学生(1〜3年生)442名を対象にして、「敵意」、「興奮」、「生理的反応」という3つの下位尺度、計16項目から成る「中学生版キレやすさ尺度」及び「怠学感情」、「劣等感」、「友人関係」という3つの下位尺度、計22項目から成る「中学生版学校嫌い尺度」を開発した。そして、それらの尺度を用いて、分散分析の結果、「キレやすさ」と「学校嫌い」との間には密接な関連のあること、重回帰分析の結果、学校嫌い傾向の強い生徒は特に両親に対する怒り水準の高いことなどを明らかにした。以上の研究を通して、児童生徒の「キレやすさ」と「学校嫌い」を多面的にかつ客観的に測定できる尺度が開発され、それらの尺度には一定の妥当性が備わっていることを示した。また、発達段階を問わず、一貫して「キレやすさ」と「学校嫌い」との間には密接な関連があり、両者を一緒に研究していくことの重要性が浮き彫りになった。さらに、問題行動の形態がどうであれ、人間関係における何らかのトラブルが児童生徒の問題行動を生み出す最も大きな原因であることが判明した。今後は、本研究で開発された様々な尺度の信頼性、妥当性の検証及び問題行動を生み出すメカニズムについて更に詳細に分析していきたいと考えている。
著者
信夫 隆司
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.243-265, 2004-02-10

本稿は、1970年代終わりから今日までの国際政治理論の系譜を探ることを目的とした。本稿で、主として取り上げた国際政治理論は、ケネス・ウォルツのネオリアリズム、ロバート・コヘインの国際制度論、アレクサンダー・ウェントのコンストラクティヴィズムである。これらの国際政治理論について、存在論と認識論という視点から新たな分析を試み、その上で、アナーキーと国家のインタレストのとらえ方について言及した。
著者
岩渕 光子
出版者
岩手県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

3〜4ヵ月児を持つ母親の睡眠に関する実態は認識が高いとはいえないことを明らかにし、乳児期早期からの生体リズムを考慮し母親への健康支援を実施した。集団の場での健康支援の結果、生活習慣改善のきっかけとなっており、また、個別への支援をすることで母親の睡眠状況の改善がみられる事例もあった。一方で、乳児期の睡眠発達は著しく、睡眠問題の出現により母親の睡眠への影響も見られていた。
著者
三宅(志柿) 禎子
出版者
岩手県立大学
雑誌
岩手県立大学社会福祉学部紀要 (ISSN:13448528)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.81-88, 2004-03-30

In Puerto Rico, the women started to keep their distance from the divisive political issue of the island's status as a US territory when they united to address women's issues. This has caused the established parties to rethink their politics and also has accelerated the argument objectively about the island's political status. Meanwhile, in the US, the influence of Puerto Rican women is felt in grass roots movements and in women of color movements. They have added their Latina perspective to the mainly white middle class American feminist movement. Also, with their different circumstances and concerns, they are a new addition to the Puerto Rican national identity. Both on the island and in the mainland US, Puerto Ricans are creating a new paradigm in politics. Their movement is growing rapidly in the group of minorities in sovereign nations and in feminism on the outskirts of a sovereign nation. We can recognize the case of Puerto Rican women as one of post colonial feminism.
著者
菊池 直子
出版者
岩手県立大学
雑誌
岩手県立大学盛岡短期大学部研究論集 (ISSN:13489720)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.29-37, 2001-03-01
被引用文献数
1

The fatigue distribution in a brassiere is considered to be affected by the deformation resulting from wearing. To clarify the tendency of brassieres to deform, by using the circular stamping method, circular areas of two sample frames were studied as test subjects took up six different postures. The following results were obtained. 1) In sample 1, the areas at the strap joints and close to the center of the back expanded, regardless of the posture. In sample 2, the area of each circle expanded or shrank when a change in posture deformed the skin; and close to the center of the back, the area only became larger regardless of the posture, which is similar to the effect seen in sample 1. Since a brassiere is subject to a remarkable amount of fatigue at the strap joints and the center of the back, the fatigue may be attributable to frame configuration factors, including the method used to attach the strap and the small width of the frame close to the center of the back. 2) Anteflexion enlarged the area remarkably at the lower part of a frame. This posture may be a factor that greatly increases frame fatigue. 3) Elevation of the right or left arm showed a tendency to enlarge the area on the elevated side and reduce the area on the opposite side. A sideways rotation showed a tendency to reduce the size of the area on the side of rotation and increase it on the opposite side. However, the distribution of areal changes as a subject moved from a normal standing posture to every one of the other postures did not match the fatigue distribution. These postures therefore have almost no effect on the fatigue distribution.
著者
伊東 栄誌郎
出版者
岩手県立大学
雑誌
言語と文化 (ISSN:13475967)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.11-23, 2004-01-31

James Joyce (1882-1941) Iearned much about Buddhism through Theosophy and referred to it in Stephen Hero, Ulysses and Finnegans Wahe. Buddhism and Oriental paciflsm were concepts that interested Joyce. In this paper I discuss how Buddhism influenced Joyce's works in comparison with his contemporary, Kenji Miyazawa (1896-1933). One major source of Joyce's Buddhist allusions was Henry Steel Olcott's The Buddhist Catechism. Joyce's copy of the book was dated May 7, 1901. With the booklet's world-wide fame, Olcott, known as a "White Buddhist" among the Japanese Buddhists, was invited to Japan to give many lectures all over Japan. He was the key Bliddhist linking Joyce with Miyazawa. There are numerous allusions to Buddhism in Joyce's works. In Stephen Hero, Stephen monologues," but Buddha's character seems to have been superior to that of Jesus with respect monologues" to unaffected sanctity" (SH 190). Buddhist or Hindu doctrines of Reincarnation and Karma, which are the central beliefs for Theosophists, are found everywhere in Ulysses. Numerous allusions to the Buddha's biography can be found in Finnegans Wake. Kenji Miyazawa, writer of children's stories, poet, etc. was born in Hanamaki Iwate Unlike Joyce, who left his city Dublin and became an exile in Europe, Miyazawa spent most of his short life in the countryside of Iwate. He wrote many poems and stories influenced by Mahayana Buddhist philosophy, especially the Lotus Sutra. Joyce and Miyazawa lived apart without knowing each other, but both of them tried to find a "path" in Buddhism at the beginning of the age of world war.
著者
米地 文夫 三浦 修 平塚 明
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.391-409, 2004-03-31

宮沢賢治の作品にしばしば登場する「標本」と「証拠」という語について、自然科学の立場から検討を加えた。自然愛好家であり教師でもある賢治は、「標本」を、展示用、教材用の見せる「もの」としての「標本」sampleと考えていた。彼は本質的に研究者ではなく、彼の「標本」には, 研究者がより重要と考える《研究の材料、研究の保証となる証拠としての「標本」specimen》は含まれていなかった。「標本」specimenを、研究者は「こと」を説明する科学的な「証拠」voucherとして用いる。しかし賢治はこれらは「標本」と呼ばず、「証拠」と書いている。賢治は一種の不可知論者でもあったので、学者が挙げる「証拠」が描く世界像は、時代とともに変わると考えていたのである。
著者
黒岩 幸子
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.247-261, 2006-03-01

1855年の日魯通好条約で日露国境が画定し、南千島は日本領となった。明治期から定住者も増えて、北千島とは異なり、根室と有機的に結びついた経済圏が成立してゆく。漁業・水産業を中心とする内国植民地的な発展は、1945年のソ連軍侵攻とその後の日本人強制退去によって終焉し、ソ連/ロシアによる実効支配が現在まで続いている。日本は、1960年代から南千島を「北方領土」と呼び、「日本固有の領土」としてロシアに返還要求しているが、南千島90年間の日本時代の実態を知る人は少ない。本稿は、南千島における日本人社会の成立とその構造、ソ連侵攻と占領下の南千島、日本人強制退去のプロセスを、元島民の目から明らかにするものである。
著者
リヒタ ウヴェ 渡部 貞昭
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.255-261, 0000

2001年1月31日、ドイツ連邦政府は急進右翼のドイツ国民民主党(NPD)の禁止を連邦憲法裁判所に申し立てた。その理由は、外国人への暴行及びユダヤ人施設への冒涜・破壊行為の件数が増大したからであった。本稿はホロコーストと同胞のユダヤ人にたいする西ドイツ戦後社会の態度の考察である。
著者
島田 直明 米地 文夫
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.119-131, 2006-03-01

カラマツは宮沢賢治作品への登場頻度の高い樹木である。そのカラマツ林やその周辺の景観について賢治の描写を分析するとともに、同時代の代表的詩人北原白秋の作品と比較検討を行った。本論文では特に心象スケッチ『春と修羅』のなかの作品群に描かれたカラマツに着目した。それらの多くは岩手山麓の牧草地や放牧地の防風林としてのカラマツ林であった。賢治の作品から1920年代の岩手山麓は、草地や草地から遷移が進んだ森林、カシワ林などさまざまな植生タイプがみられ、また草地を囲むようにカラマツ林が列状に連なる景観であったと読み取れた。旧版地形図や岩手県統計書などの資料から判読した当時の景観も同様であり、賢治が『春と修羅』の作品群において正確に景観を描写していたことが検証できた。一方、北原白秋の有名な詩「落葉松」は、カラマツ林の中に歩み入り、また歩み去る己れを抒情的に詠いあげた。この詩人の絶唱ともいうべき作品ではあるが、カラマツ林の景観そのものについては全く描写していない。これに対して、賢治はカラマツ林の景観をナチュラリストの眼で観察し、心象スケッチという形で具体的に描写・記録した。彼はのち,カラマツを用いて景観を造る「装景」をも考えていたのであった。
著者
井上 一彦
出版者
岩手県立大学
雑誌
リベラル・アーツ (ISSN:18816746)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.45-55, 2013

本研究では打撃成績とストライクカウントが打撃結果に及ぼす影響を調査した。調査の対象は,関甲新学生野球連盟で2012年度に開催された春季リーグ戦,全32試合とした。打撃成績上位選手10名と下位選手10名を抽出し,抽出した選手の打撃結果から,安打数,打率,カウント別安打率を算出した。その後,それぞれについて打撃成績とストライクカウントを要因とする2要因の分散分析を行った。その結果,本研究で得られた結論は以下の通りであった。打撃成績上位者は打撃成績下位者に対して,安打数,打率において有意に良い成績を示した。安打数において,打撃成績上位者はストライクカウントが進むにつれて安打数が増加したのに対して,打撃成績下位者は1st.ストライクと比較して2nd.ストライク,3rd.ストライクの時の安打数が少ない傾向にあった。打率において,1st.ストライクと3rd.ストライクにおいてストライクカウントによる違いが認められた。
著者
鎌田 滋子
出版者
岩手県立大学
雑誌
岩手県立大学社会福祉学部紀要 (ISSN:13448528)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.57-63, 2002-09-30

In many holy stories in the Old Testament and also the New Testament, there are a great deal of episodes of music. These episodes are not only historically interesting but also tell us the fact that music has some power of treatment for psychological symptoms, which gives us hints for music therapy and therapists. European music has been developed by Christianism, and Christianism raised music to Art. Suported by the Arts, music has power for human spirit.