- 著者
-
横井 功
- 出版者
- 岡山大学
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1993
頭部外傷後に発症するけいれん発作やてんかんの成因には活性酸素種が関与していることが示唆されている。すなわち、頭部外傷の際に脳内に出血した赤血球より遊離したヘモグロビン及び鉄イオンを会して発生した活性酸素種が神経細胞膜の脂質を過酸化させるために神経細胞は機能障害を起し、外傷性てんかん発症の重要なリスクファクターとされる早期けいれんが発現し、外傷性てんかん焦点が形成されるものと考えられている。このために、発生した活性酸素を抗酸化剤により消去することにより早期けいれん発現を抑えると、外傷性てんかん発症は予防され得ることが示唆される。本研究においてはラット大脳皮質感覚運動領のに塩化第二鉄を投与して作成した外傷性てんかんの実験モデルを使用して下記の成果をあげた。(1)エピガロカテキン類やEPCなどの抗酸化剤を鉄イオン投与後に投与すると、鉄イオンにより誘発される発作脳波や尾状核内でのドーパミン放出量の増加、あるいはメチルグアニジンなどの内因性けいれん誘発物質量の増加、などの変化を予防できる。(2)活性酸素を消去するアデノシンやその構造類似物質は鉄イオンの誘発する発作脳波の発現を予防する。(3)一酸化窒素(NO)及びその合成酵素(NOS)活性の測定法を開発し、ラット脳に鉄イオンを注入するとNOS活性が低下することを明らかにした。けいれん発現にNOは抑制性に働くことにより、NOS活性低下が外傷性てんかん発症に関与している可能性が示唆された。以上のごとく、頭部外傷部位で発生する活性酸素種を抗酸化剤により消去すれば、外傷性てんかん発症は抑えうることを明らかにした。活性酸素種は頭部外傷のみならず、脳内血腫や脳梗塞時などにも脳内で生成され、脳浮腫やてんかん焦点などの形成に関与している。このため、本研究は外傷性てんかん発症予防の道を明らかにしたばかりでなく、脳内血腫や脳梗塞時などの脳浮腫の予防や治療を考える一助ともなる。