著者
高林 知也 江玉 睦明 横山 絵里花 徳永 由太 久保 雅義
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム (ISSN:13487116)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.67-73, 2016 (Released:2017-08-01)
参考文献数
32
被引用文献数
1

ウィンドラス機構 (WM) とは歩行時の蹴り出し時の推進力を生み出す足部機能のひとつであり, 効率的な歩行を実現するために重要な役割を担っている. しかし, 走行におけるWMはいまだ明らかとなっていない. 本研究は, 走行と歩行の動作様式の違いがWMにおよぼす影響を検証した. 対象は健常成人男性9名とし, 課題動作はトレッドミル上での走行と歩行とした. 解析項目として, WMの指標である内側縦アーチ角度と母趾背屈角度を立脚期で算出した. 走行と歩行で内側縦アーチ角度最小値は変化がみられなかったが (157.4±6.0°, 156.9±4.9°), 走行は歩行と比較して母趾背屈角度ピーク値が有意に低値を示した (32.9±7.3°, 39.9±9.0°; p<0.05). 本研究結果より, 走行時のWMの役割は限局的である可能性が示唆された.
著者
江玉 睦明 久保 雅義 大西 秀明 稲井 卓真 高林 知也 横山 絵里花 渡邉 博史 梨本 智史 影山 幾男
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0563, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】アキレス腱(AT)障害の発生メカニズムとしては,これまで踵骨の過回内による「whipping action(ムチ打ち)」が要因であると考えられてきた。しかし,近年では,踵骨の回内時にAT内の歪みが不均一であることが要因として重要視されてきている。この原因としては,ATの捻れ構造が関与している可能性が示唆されていが,ATの捻れの程度の違いを考慮して検討した報告はない。従って,本研究は,踵骨を回内・回外方向に動かした際にATを構成する各腱線維束に加わる伸張度(%)を捻れのタイプ別に検討することを目的とした。【方法】対象は,我々が先行研究(Edama,2014)で分類したATの3つの捻れのタイプ(I:軽度,II:中等度,III:重度の捻れ)を1側ずつ(日本人遺体3側,全て男性,平均年齢:83±18歳)使用した。方法は,下腿部から踵骨の一部と共に下腿三頭筋を採取し,腓腹筋の筋腹が付着するAT線維束とヒラメ筋の筋腹が付着するAT線維束(以下,Sol)を分離し,腓腹筋内側頭が付着するAT線維束(以下,MG)と外側頭の筋腹が付着するAT線維束(以下,LG)とに分離した。そして,各腱線維束の踵骨付着部の配列を分析して3つの捻れのタイプに分類し,各線維束を3-4mm程度にまで細かく分離を行った(MG:4~9線維,LG:3~9線維,Sol:10~14線維)。次に,下腿三頭筋を台上に動かないように十分に固定し,Microscribe装置(G2X-SYS,Revware社)を使用して,各腱線維の筋腱移行部と踵骨隆起付着部の2点,踵骨隆起の外側の4点をデジタイズして3次元構築した。最後に,任意に規定した踵骨隆起の回転中心を基準に作成した絶対座標系上で踵骨を回内(20°)・回外(20°)方向に動かした際の各腱線維の伸張度(%)をシミュレーションして算出した。解析には,SCILAB-5.5.0を使用した。統計学的検討は,Microscribe装置測定の検者内信頼性については,級内相関係数(ICC;1,1)を用いて行った。【結果】級内相関係数(ICC;1,1)は,0.98であり高い信頼性・再現性が確認できた。タイプ毎の伸張度(%)は,タイプIでは,回内(MG:-1.6±0.9%,LG:-2.2±0.2%,Sol:1.7±3.4%),回外(MG:1.3±0.7%,LG:2.0±0.3%,Sol:-1.4±3.3%),タイプIIでは,回内(MG:-1.2±0.7%,LG:-0.4±0.6%,Sol:2.4±1.4%),回外(MG:0.8±0.7%,LG:0.4±0.5%,Sol:-3.2±1.5%),タイプIIIでは回内(MG:-1.7±0.4%,LG:-0.4±1.4%,Sol:3.7±6.0%),回外(MG:1.3±0.4%,LG:0.4±1.3%,Sol:-5.4±6.2%)であった。【考察】AT障害の発生メカニズムとして,踵骨の回内時にAT内の歪みが不均一であることが要因として報告されている。また,好発部位は,踵骨隆起から近位2-6cmであり,外側よりも内側に多いことが報告されている。今回,踵骨を回内すると3つの捻れのタイプ全てにおいて,MG・LGは短縮し,Solは伸張された。特にタイプIII(重度の捻れ)では,回内時のSolの伸張度が他のタイプに比べて最も大きく,更にSolを構成する各腱線維の伸張度のばらつきが多い結果であった。従って,タイプIII(重度の捻れ)では,踵骨回内時には,ATを構成するMG,LG,Solの伸張度が異なるだけでなく,他のタイプに比べてSolの伸張度が大きく,更にSolを構成する各腱線維の伸張度も異なるため,AT障害の発生リスクが高まる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】AT障害は,重症化するケースは少ないが再発率が高く,管理の難しい疾患の一つとされている。近年,有効な治療法はいくつか報告されているが,予防法に関しては有効なものが存在していない。その原因として,発生メカニズムが十分に解明されていないことが懸念されている。本研究結果は,AT障害の発生メカニズムの解明に繋がり,有効な予防法や治療法の考案,更には捻れ構造の機能解明に繋がると考える。
著者
高林 知也 江玉 睦明 稲井 卓真 横山 絵里花 徳永 由太 久保 雅義
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0386, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】歩行速度は,運動機能を推測するための‘バイタルサイン'とされており,歩行における重要な評価指標である。先行研究では,多くの整形疾患で歩行速度が低下することや,認知機能との関連性があることも指摘されている。さらに,Winterらは片麻痺患者を対象に歩行速度を検証し,屋外および屋内歩行レベルは歩行速度により決定されると報告した。したがって,歩行速度の低下は社会参加制約に直結する因子である。歩行速度に関与する足部機能のひとつに,ウィンドラス機構(WM)がある。WMとは,足指背屈により内側縦アーチが拳上し,蹴り出し時の推進力を生み出す機構である。しかし,歩行速度の変化とWMの関連性については現在まで検証されていない。その要因として,足指角度や内側縦アーチ挙上角度(MLAEA)の動的な定量化が困難であり,詳細な足部評価が確立していないことが挙げられる。そこで,本研究は足指角度とMLAEAを動的に評価できる3DFoot modelを用いて,歩行速度の変化とWMの関連性について明らかにすることを目的とした。【方法】対象者は健常成人男性6名とした(年齢23.5±3.8歳,身長171.2±4.6 cm,体重60.0±5.5 kg)。課題動作は通常歩行(NG:4.8 km/h),低速歩行(SG:2.9 km/h),超低速歩行(VSG:1.0 km/h)の3条件とした。歩行速度は先行研究に準じ,SGは脳卒中患者の屋外歩行,VSGは脳卒中患者の屋内歩行レベルに規定した。トレッドミル(AUTO RUNNER AR-100)にて歩行速度を設定し,課題動作を実施した。課題動作の順序は無作為に実施し,各条件で10回の成功試行を計測した。動作解析には赤外線カメラ11台を含む3次元動作解析装置(VICON MX)を使用し,サンプリング周波数100Hzにて右下腿と足部に貼付した15個の反射マーカーを計測した。データ解析にはScilab(5.5.0)を使用し,計測した反射マーカーに対し遮断周波数6Hzの2次Zero-lag butterworth low pass filterを施した。その後,足指角度とMLAEAを評価可能な3DFoot modelを構築した。母趾は足指の中でWMに最も関与するとされているため,母趾背屈角度(HDFA)とMLAEAを算出し,WMの指標とした。なお,3DFoot modelで算出されるMLAEAは低値であるほど高アーチを示す。解析区間である踵接地から爪先離地(TO)までの立脚期を100%正規化し,各被験者で課題条件毎に解析項目を加算平均した。統計は,TO時におけるHDFAとMLAEAの平均値に対し,課題条件を因子としたフリードマン検定,事後検定としてSteel-Dwass法にて解析した。また,HDFAとMLAEAの関連性を相関係数にて検証した。有意水準は5%とし,統計ソフトstatics R(3.0.0)を用いた。【結果】HDFAとMLAEAの相関関係において,NGでは強い負の相関を示し(r=-0.91),SGおよびVSGでは中等度の負の相関を示した(r=-0.50,-0.57)。TO時のHDFAにおいて,NG(34.5±5.7°)はVSG(8.0±6.7°)と比較して有意に高値を示したが(p<0.05),SG(23.1±5.0°)はNGおよびVSGと比較して有意差を示さなかった。TO時のMLAEAは課題条件間にて有意差を示さなかったが,歩行速度増加に伴い高アーチの傾向を示した(NG:159.2±3.8°,SG:164.5±4.9°,VSG:167.1±6.3°)。【考察】本研究において,歩行速度の変化とWMの間には高い関連性が存在していることが示唆された。WMは足指背屈により生じるため,足指の動きがWMのトリガーの役割を担っている。また,内側縦アーチの低下はWMが破綻するとされているため,MLAEAもWMに関与する重要な因子である。本研究において,NGのHDFAはVSGと比較して有意に増加し,MLEAは歩行速度の増加に伴い高アーチの傾向を示した。さらに,HDFAとMLAEAの相関関係は,NGにおいて強い負の相関を示した。そのため,NGはWMがより働き,SGとVSGはWMへの関与が少ない可能性が考えられた。課題条件で用いたSGとVSGは,脳卒中患者の歩行レベルに準じて規定した。本研究結果より,脳卒中患者の歩行速度を通常歩行レベルに向上させるためには,WMを考慮する必要性が示唆された。なお,本研究で用いた3DFoot modelは,他のMulti-segment foot modelと比較して再現性が高いことが確認されている。また,算出したHDFAとMLAEAは,3DFoot modelを報告した先行研究と類似した波形パターンと値を示したため,本研究結果は妥当性が高いと考えられた。【理学療法学研究としての意義】理学療法において歩行速度を向上させることは,実用的および効率的な歩行を実現するために重要な課題である。本研究の知見は,歩行動作にアプローチする上で有益な基礎情報に成り得る。