著者
江玉 睦明 影山 幾男 熊木 克治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AbPI2033, 2011

【目的】大腿直筋の肉離れはハムストリングスに続いて多く,発生部位は近位部に集中している.今回,大腿直筋について肉眼解剖学的に筋構造を明らかにし,肉離れ発生部位との関連を検討した.<BR><BR>【方法】日本歯科大学新潟生命歯学部に献体された成人3遺体5側を用いた.検索方法は主に肉眼解剖学的手法を用いた.<BR><BR>【説明と同意】本研究は死体保護法で同意を得て行った.<BR><BR>【結果】大腿直筋は下前腸骨棘と寛骨臼蓋上縁から起こり,遠位1/4から内側広筋,外側広筋,中間広筋とで共同腱を形成し膝蓋骨上縁に停止した.表面の近位1/3まで幅広い起始腱膜があり,そこから遠位1/3まで筋内腱が存在した.裏面では停止腱膜が近位1/4まで幅広く存在した.下前腸骨棘と寛骨臼蓋上縁から起こる起始腱は混同して起始腱膜となり,近位部で徐々にねじれて筋内腱を形成した.筋内腱は起始腱膜の延長であり,薄い膜状構造を呈した.近位部の特徴として,起始腱膜から筋内腱の筋線維は両側へ走行し羽状構造を呈して停止腱膜に停止していた.起始腱(下前腸骨棘)からの筋線維は,半羽状構造を呈し,起始腱(臼蓋上縁)からの筋線維は長軸方向に平行に停止腱膜に付着しており,表層と深層では異なる筋線維走行を呈した.また起始腱膜の形状は一様ではなく,加えて近位部で徐々にねじれて筋内腱を形成していることで近位部表面の筋線維走行は部位により異なる走行を呈した.<BR><BR>【考察】肉離れの発生メカニズムとして羽状構造,筋腱移行部,遠心性収縮がポイントとして挙げられる.大体直筋は羽状筋であり,サッカーのシュート動作時などに受傷することが多く,近位部の筋内腱部,筋束の筋膜が好発部位とされている.今回の結果から近位部は,表層と深層では異なる筋線維走行をしており,また,起始腱膜の形状は一様ではなく,加えて近位部から徐々にねじれて筋内腱を形成しているため,近位部前面は部位により異なる筋線維走行を呈していた.このため,近位部は収縮時に部位により異なる収縮動態を呈する可能性があり,このことが肉離れの発生に関与しているのではないかと考えられた.今後は,超音波を使用しての筋収縮の動的評価を行い近位部の収縮動態を明らかにしていきたい. <BR><BR>【理学療法学研究としての意義】本研究は,肉眼解剖学的観点から大腿直筋の肉離れの発生原因を考察しており今後更に発展させていくことにより肉離れの治療や予防の一助となるものと考える.
著者
間宮 未来 亀田 翠 時田 幸之輔 小島 龍平 相澤 幸夫 影山 幾男 熊木 克治
出版者
コ・メディカル形態機能学会
雑誌
形態・機能 (ISSN:13477145)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.4-10, 2022 (Released:2022-10-04)
参考文献数
16

一般に筋皮神経は腕神経叢の腹側神経、橈骨神経は背側神経とされている。今回筋皮神経の皮枝と尺骨神経と手背での皮枝の交通が観察され、手背の母指から第2指まで分布していた。また、橈骨神経の皮枝としては、上腕への皮枝は貧弱であり、前腕・手背への皮枝(橈骨神経浅枝)は欠損して筋皮神経の皮枝(外側前腕皮神経)によって補われている特殊な所見に遭遇した。手背の皮神経分布について詳細に観察した結果、筋皮神経の皮枝には腹側成分だけでなく、背側成分も含まれている可能性があり、手背において両神経の関係は今後さらに考察すべき問題であることが示された。
著者
江玉 睦明 久保 雅義 大西 秀明 稲井 卓真 高林 知也 横山 絵里花 渡邉 博史 梨本 智史 影山 幾男
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0563, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】アキレス腱(AT)障害の発生メカニズムとしては,これまで踵骨の過回内による「whipping action(ムチ打ち)」が要因であると考えられてきた。しかし,近年では,踵骨の回内時にAT内の歪みが不均一であることが要因として重要視されてきている。この原因としては,ATの捻れ構造が関与している可能性が示唆されていが,ATの捻れの程度の違いを考慮して検討した報告はない。従って,本研究は,踵骨を回内・回外方向に動かした際にATを構成する各腱線維束に加わる伸張度(%)を捻れのタイプ別に検討することを目的とした。【方法】対象は,我々が先行研究(Edama,2014)で分類したATの3つの捻れのタイプ(I:軽度,II:中等度,III:重度の捻れ)を1側ずつ(日本人遺体3側,全て男性,平均年齢:83±18歳)使用した。方法は,下腿部から踵骨の一部と共に下腿三頭筋を採取し,腓腹筋の筋腹が付着するAT線維束とヒラメ筋の筋腹が付着するAT線維束(以下,Sol)を分離し,腓腹筋内側頭が付着するAT線維束(以下,MG)と外側頭の筋腹が付着するAT線維束(以下,LG)とに分離した。そして,各腱線維束の踵骨付着部の配列を分析して3つの捻れのタイプに分類し,各線維束を3-4mm程度にまで細かく分離を行った(MG:4~9線維,LG:3~9線維,Sol:10~14線維)。次に,下腿三頭筋を台上に動かないように十分に固定し,Microscribe装置(G2X-SYS,Revware社)を使用して,各腱線維の筋腱移行部と踵骨隆起付着部の2点,踵骨隆起の外側の4点をデジタイズして3次元構築した。最後に,任意に規定した踵骨隆起の回転中心を基準に作成した絶対座標系上で踵骨を回内(20°)・回外(20°)方向に動かした際の各腱線維の伸張度(%)をシミュレーションして算出した。解析には,SCILAB-5.5.0を使用した。統計学的検討は,Microscribe装置測定の検者内信頼性については,級内相関係数(ICC;1,1)を用いて行った。【結果】級内相関係数(ICC;1,1)は,0.98であり高い信頼性・再現性が確認できた。タイプ毎の伸張度(%)は,タイプIでは,回内(MG:-1.6±0.9%,LG:-2.2±0.2%,Sol:1.7±3.4%),回外(MG:1.3±0.7%,LG:2.0±0.3%,Sol:-1.4±3.3%),タイプIIでは,回内(MG:-1.2±0.7%,LG:-0.4±0.6%,Sol:2.4±1.4%),回外(MG:0.8±0.7%,LG:0.4±0.5%,Sol:-3.2±1.5%),タイプIIIでは回内(MG:-1.7±0.4%,LG:-0.4±1.4%,Sol:3.7±6.0%),回外(MG:1.3±0.4%,LG:0.4±1.3%,Sol:-5.4±6.2%)であった。【考察】AT障害の発生メカニズムとして,踵骨の回内時にAT内の歪みが不均一であることが要因として報告されている。また,好発部位は,踵骨隆起から近位2-6cmであり,外側よりも内側に多いことが報告されている。今回,踵骨を回内すると3つの捻れのタイプ全てにおいて,MG・LGは短縮し,Solは伸張された。特にタイプIII(重度の捻れ)では,回内時のSolの伸張度が他のタイプに比べて最も大きく,更にSolを構成する各腱線維の伸張度のばらつきが多い結果であった。従って,タイプIII(重度の捻れ)では,踵骨回内時には,ATを構成するMG,LG,Solの伸張度が異なるだけでなく,他のタイプに比べてSolの伸張度が大きく,更にSolを構成する各腱線維の伸張度も異なるため,AT障害の発生リスクが高まる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】AT障害は,重症化するケースは少ないが再発率が高く,管理の難しい疾患の一つとされている。近年,有効な治療法はいくつか報告されているが,予防法に関しては有効なものが存在していない。その原因として,発生メカニズムが十分に解明されていないことが懸念されている。本研究結果は,AT障害の発生メカニズムの解明に繋がり,有効な予防法や治療法の考案,更には捻れ構造の機能解明に繋がると考える。
著者
江玉 睦明 大西 秀明 久保 雅義 熊木 克治 影山 幾男 渡辺 博史 梨本 智史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】長母趾屈筋の停止部位に関しては多くの報告がなされており,長母趾屈筋が第II趾,第III趾に分岐するものが最も多く,今村ら(1948)は64%,川島ら(1960)は49%,Chelmer et al.(1930)は62%であったと報告している。また,今村ら(1948)は長母趾屈筋が母趾末節骨のみに停止する例は0%,Chelmer et al.(1930)は0.5%であったと報告している。このように停止部位に関しての報告は多数認められるが,長母趾屈筋が足趾の屈曲にどの程度関与しているかは検討されていない。Fukunaga et al.(2001)は,筋力や筋パワーは筋の解剖学的断面積より生理学的断面積と比例し,筋の体積は生理学的断面積と高い相関関係にあると報告している。また,佐々木ら(2012)は,下腿三頭筋の体積とアキレス腱横断面積には有意な相関関係があることを報告している。従って,足趾へ分岐する長母趾屈筋腱の横断面積を計測することで長母趾屈筋の足趾屈曲作用を定量的に検討することができると考えられる。そこで本研究では,長母趾屈筋腱を母趾と足趾に分岐する腱に分け,それぞれの横断面積の割合から長母趾屈筋がどの程度足趾の屈曲に関与しているかを検討することを目的とした。【方法】日本人遺体13体21側(平均年齢:75±11歳,男性:17側,女性4側)を用いた。足底部より皮膚,皮下組織を除去し,長母趾屈筋,長趾屈筋の停止腱を丁寧に剖出した。次に,長母趾屈筋が母趾へ向かう腱と足趾へ向かう腱に分岐した部分で各腱を横断した。また,足趾の屈筋腱(長趾屈筋,足底方形筋,長母趾屈筋が合わさった腱)をII趾~V趾の基節骨部で横断した。そうして各腱の断面をデジタルカメラ(Finepix F600EXR,Fujifilm)にて撮影し,画像解析ソフト(Image J, NIH, USA)を使用して横断面積を計測した。長母指屈筋腱において,母趾・第II~第V趾に分岐する腱の横断面積の総和を長母指屈筋腱の総横断面積として各腱の割合を算出し,更に第II~第V趾の屈筋腱に対する長母趾屈筋腱の割合を算出した。【倫理的配慮,説明と同意】死体解剖保存法と献体法に基づき本学に教育と研究のために献体された遺体を使用した。また,本研究は所属大学倫理委員会にて承認を受けて行われた。【結果】長母指屈筋が母指末節骨のみに停止する例は存在せず,長母指屈筋からの分束(外側枝)が腱交叉部(足底交叉)から分かれて長趾屈筋の腱構成に加わった。その内,外側枝が第II指へ分岐するものが6例(29%),第II・III指へ分岐するものが11例(52%),第II・III・IV指へ分岐するものが4例(19%)であった。長母趾屈筋腱は,母趾へ向かう腱が65±14%,第II趾が23±6%,第III趾が9±9%,第IV趾が3±5%の割合で構成されていた。足趾の屈筋腱における長母趾屈筋腱の割合は,母趾・第II趾へ分岐するものでは,第II趾では36±3%であった。母趾・第II・III趾に分岐するものでは,第II趾では55±5%,第III趾では46±3%であった。母趾・第II・III・IV趾に分岐するものでは,第II趾では67±28%,第III趾では34±12%,第IV趾では30±2%であった。【考察】長母趾屈筋の停止部位に関しては,第II・III趾へ分岐するものが52%で最も多く,長母趾屈筋が母趾のみに停止するものは存在せず,先行研究とほぼ同様の結果であった。長母趾屈筋腱は,分岐状態にかかわらず約60%が母趾に停止する腱で構成され,第II・III・IV趾に分岐する割合は,それぞれ23%,16%,10%と減少していく傾向であった。しかし,第II・III趾の屈筋腱における長母指屈筋腱の割合は,概ね30%~60%を占めていた。従って,停止部位と横断面積の割合から考えると,長母趾屈筋の主作用は母趾の屈曲であり,第II・III趾の屈曲が補助作用であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,長母趾屈筋の足趾屈曲作用を考える上で貴重な情報となり,臨床的応用も期待できる。
著者
江玉 睦明 影山 幾男 熊木 克治
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI2033, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】大腿直筋の肉離れはハムストリングスに続いて多く,発生部位は近位部に集中している.今回,大腿直筋について肉眼解剖学的に筋構造を明らかにし,肉離れ発生部位との関連を検討した.【方法】日本歯科大学新潟生命歯学部に献体された成人3遺体5側を用いた.検索方法は主に肉眼解剖学的手法を用いた.【説明と同意】本研究は死体保護法で同意を得て行った.【結果】大腿直筋は下前腸骨棘と寛骨臼蓋上縁から起こり,遠位1/4から内側広筋,外側広筋,中間広筋とで共同腱を形成し膝蓋骨上縁に停止した.表面の近位1/3まで幅広い起始腱膜があり,そこから遠位1/3まで筋内腱が存在した.裏面では停止腱膜が近位1/4まで幅広く存在した.下前腸骨棘と寛骨臼蓋上縁から起こる起始腱は混同して起始腱膜となり,近位部で徐々にねじれて筋内腱を形成した.筋内腱は起始腱膜の延長であり,薄い膜状構造を呈した.近位部の特徴として,起始腱膜から筋内腱の筋線維は両側へ走行し羽状構造を呈して停止腱膜に停止していた.起始腱(下前腸骨棘)からの筋線維は,半羽状構造を呈し,起始腱(臼蓋上縁)からの筋線維は長軸方向に平行に停止腱膜に付着しており,表層と深層では異なる筋線維走行を呈した.また起始腱膜の形状は一様ではなく,加えて近位部で徐々にねじれて筋内腱を形成していることで近位部表面の筋線維走行は部位により異なる走行を呈した.【考察】肉離れの発生メカニズムとして羽状構造,筋腱移行部,遠心性収縮がポイントとして挙げられる.大体直筋は羽状筋であり,サッカーのシュート動作時などに受傷することが多く,近位部の筋内腱部,筋束の筋膜が好発部位とされている.今回の結果から近位部は,表層と深層では異なる筋線維走行をしており,また,起始腱膜の形状は一様ではなく,加えて近位部から徐々にねじれて筋内腱を形成しているため,近位部前面は部位により異なる筋線維走行を呈していた.このため,近位部は収縮時に部位により異なる収縮動態を呈する可能性があり,このことが肉離れの発生に関与しているのではないかと考えられた.今後は,超音波を使用しての筋収縮の動的評価を行い近位部の収縮動態を明らかにしていきたい. 【理学療法学研究としての意義】本研究は,肉眼解剖学的観点から大腿直筋の肉離れの発生原因を考察しており今後更に発展させていくことにより肉離れの治療や予防の一助となるものと考える.
著者
加藤 征 影山 幾男 竹内 修二
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

江戸時代は現代に比較的近く形質的にも最も近いことが想定される。しかし、江戸時代は士農工商で知られる通り階級制度が明確であり、鈴木の徳川将軍の形質調査から階級制度の頂に立つ者の貴族形質が明らかにされているが、それ以外は江戸時代人として一様の形質を有するか否かは論じられいない。江戸は1590年徳川家康が関東8カ国に移住させられたことから始まり平成元年で丁度400年になる。江戸時代は武士と町人の階級は厳確に維持され、増上寺およびその子院群は徳川幕府に関与なる武家しか檀家となることを許されなかったとされている。研究者等は港区三田済海寺から出土した長岡藩主の人骨、港区芝の増上寺子院群の跡地の発掘で得られた人骨とそれより多少格式の高いと言われる天徳寺子院の発掘で得られた人骨群を武家々族とした。一方上野7丁目の上車坂町出土人骨および湯島無縁坂出土人骨群を庶民家族とした。これら武家と庶民の他に江戸の先代である鈴木の鎌倉時代人骨、後代である森田の現代関東地方人骨とを比較した。そのほか江戸時代人骨として鈴木らの雲光院、森本らの一橋高校地点出土人骨などは東京都内のもので、更に脇の熊本県桑島、中橋の福岡市天福寺出土の江戸時代人骨を参考とした。この様に多くの人骨群を比較し、藩主、武士、庶沢と思われる人骨の形質を明らかにした。頭長は鎌倉時代人が最も長く、次いで湯島・上車坂の江戸庶民、芝公園1丁目・天徳寺の武士、現代関東地方人が短く、長岡藩主が最も短い値を示した。頬骨弓幅は江戸庶民が最も広く、次いで鎌倉・江戸時代武士がこれに次ぎ、現代人は132.9mmと狭いが藩主ではさらに狭くなっている。このほかいくつかの計測項目において庶民、武士、現代人、藩主へと計測値の上で連続した形態がみられた。