著者
横山 草介
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.205-225, 2018 (Released:2021-04-12)

本論の目的は,ブルーナーの「意味の行為」論本来の探求の射程を明らかにすることにある。ナラティヴ心理学 の展開におけるブルーナー受容においては,「意味の行為」は専ら物語を介して対象を「意味づける行為」とし て理解されてきた。だが,彼が本来の主張として訴えたのは,人間の意味生成の原理と,その機能の解明という主 題であった。これまでのブルーナー受容は,この論点を不問に処してきた傾向がある。これに対し我々は,ブルー ナーの「意味の行為」論本来の主題の解明に取り組んだ。我々の結論は次の通りである。ブルーナーの主張した 「意味の行為」とは,前提や常識,通例性の破綻として定義される混乱の発生に相対した精神が,その破綻を修復し, 平静を取り戻そうとする「混乱と修復のダイナミズム」の過程として理解することができる。この過程は,何ら かの混乱の発生に伴って生じた,今,この時点においては理解し難い出来事が,いずれ何らかの意味を獲得するこ とによって理解可能になるような「可能性の脈絡希求の行為」として定義することができる。最後に我々は,ブ ルーナーの「意味の行為」論は,心理学の探求による公共的な平和の達成という思想的展望を有することを指摘 した。この展望は特定の文化的脈絡の中で生きる我々が,他者と共に平穏な生活を営んでいくために精神が果た し得るその機能は何か,という問いと結びつくものであることが明らかとなった。
著者
横山 草介
出版者
学校法人 自由学園最高学部
雑誌
生活大学研究 (ISSN:21896933)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.1-8, 2016 (Released:2017-04-21)
参考文献数
7

本稿の目的は,教育実践研究の中にフォークペタゴジーという概念を導入することを提案するものである.フォークペタゴジーとは,広く教育という営みに従事する際に,それに携わる諸個人や集団が有している教育についての考え方や信念を包括する概念である.ある教育実践が個的にも,集団的にも,その担い手の保持するフォークペタゴジーに基づいて為されていると仮定する限りにおいて,当該の実践についての検討はそこに機能しているフォークペタゴジーを考慮する必要性を有する.本稿では以上に要約されるフォークペタゴジーという考え方を理解するための手だてとして,Deweyの『民主主義と教育』における「成長としての教育」という考え方,ならびに『学校と社会』に示された彼の実験室学校(laboratory school)における教育活動に係る議論を例に考察を進める.最後に我々は,特定の集団や諸個人が保持するフォークペタゴジーは彼らが日々の実践のなかで,あるいは日々の実践について語る言葉の内容や様式に反映されることを指摘する.この指摘によってフォークペタゴジーの研究は日常生活の中での人々の様々な「語り」を研究対象として行うことができることを示唆する.諸種の教育活動の背後に根付いているフォークペタゴジーの研究は,教育実践研究を教育の臨場と切り離さずに行うための一つの有効な手だてとなり得るはずである.