著者
橋本 初子
出版者
史学研究会 (京都大学文学部内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.p671-696, 1979-09

個人情報保護のため削除部分あり今日、神社に伝来している古文書のなかに、「御奉行所候也」という書止め文言の文書がある。この文書は、様式的には御教書であり、公刊の史料集では、すでに御教書として扱われてきている。しかし、これらの文書はたんなる御教書ではなく、実際には院宣・綸旨として機能していた。本来、院宣は院司奉書、綸旨は蔵人奉書という形式が、いずれも原則であるが、本稿に紹介する「御奉行所候也」の院宣・綸旨は、かかる普通の院宣・綸旨をさらに下位の庁務主典代や蔵人所出納がもう一度奉じて、宛所に伝達するという二段構えの奉書形式である。本来の院宣・綸旨は、官職を帯し、政治機構内に位置しなければもらえなかった。そして官職についていないが、上皇 (天皇) の命令が伝達されねばならない時、本来の院宣・綸旨とは別形態の「御奉行所候也」の形式によって、院宣・綸旨が伝達された。本稿では、従来の古文書学では扱われなかった、この別形態の院宣・綸旨の実態について考察するものである。