著者
橋本 重倫 土田 拓輝
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B-33_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに】 体幹失調を呈する患者に対して理学療法では、固有感覚情報による大脳半球の代償により運動協調性改善を図っていく事が推奨されている。古典的な方法として、腹部圧迫による弾性包帯緊縛法により正常歩行に類似した運動パターンを再現することが出来るとされている。また固有受容性神経筋促通法(PNF)による運動の再学習も有効とされており、難易度としては単純な屈曲・伸展から開始し、抵抗運動を加え、さらに運動パターンを複雑化していくことで、神経筋の再教育を行っていく。しかしながら、固有感覚情報を入力し、体幹筋群を刺激しながら歩行練習を行なうことは徒手的な介入では困難であることを臨床場面で経験する。勝平らは抗力を具備した継手付き体幹装具トランクソリューション(以下、TS)を開発し、骨盤前傾と体幹伸展を促しながら持続的な腹筋群の活動を促すことを可能にした。TSの特徴である、抗力により骨盤前傾、体幹伸展および腹筋群の活動を促すという機構は体幹失調に対する抵抗運動により筋収縮を促通しつつ、正常歩行を再現するという治療戦略と類似している。 そのため、本研究の目的は、体幹失調患者の歩行におけるTS装着の有効性を検討することとした。【方法】 対象は、A病院回復期病棟に入院している橋出血により失調歩行を呈した患者1名とした。はじめに10m歩行速度と歩数を計測した後、TSを装着し、80m歩行練習を実施した。TSを装着した歩行練習の直後およびTSを外した後に、再度10m歩行速度・及び歩数を計測した。介入期間として5日間連続で測定及び介入を実施し、即時効果及び持ち越し効果を検討した。【結果】 初日の介入前の10m歩行速度および歩数は18.3秒29歩であったの対し、TSを外した後は14.4秒24歩と介入による即時効果を認めた。翌日の介入前の計測においても14.6秒26歩と持ち越し効果を認めた。介入後においては、毎日即時効果を認めたが、持ち越し効果は3日目までは認めていたが、その後は停滞及び一時速度低下しながらも、最終的には13.0秒22歩まで改善した。【考察】 TS装着により、失調歩行患者への歩行速度に対する即時効果および翌日以降への持ち越し効果が認められた。歩行中に持続して抗力による腹筋群の促通が図れることにより、体幹動揺軽減及び垂直性が保たれることで歩行パフォーマンスが向上すること、固有感覚情報の入力に伴う正常運動の反復及び腹筋群の筋力強化により、装具を外した後も学習効果の持続が期待できることが示唆された。失調に対する治療用装具としての可能性を示唆されたことは新しい知見となると考える。しかしながら、単症例での報告であり、介入期間も短い為、今後更なる症例数・介入期間の検討が必要である。【倫理的配慮,説明と同意】竹川病院倫理委員会の規定に則り、説明と同意を得て実施している。
著者
可児 利明 橋本 重倫 勝平 純司 丸山 仁司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A4P2032, 2010

【目的】<BR> メタボリックシンドロームという言葉が市民権を得たわが国では,食事や運動療法を含めた生活習慣の改善,高血糖・高血圧・肥満に対する取り組みを国家レベルで始めている。とりわけ運動習慣・運動変容に関して理学療法が果たすべき役割は極めて大きなものになると予測される。また,肥満による下肢関節荷重時痛,変形性関節症などの運動器疾患の治療においても,減量と関節障害改善のための理学療法が実施されることにより,運動機能が改善し活動量増加や生活の質向上に繋がると考えられる。<BR> 本研究では,歩行スピードを変化させて平地歩行や階段降段動作を行った際に,体重の増加が下肢関節にどのように影響するかを三次元動作解析装置と床反力計を用いて算出した関節角度・関節モーメントを指標として客観的に比較・検討した。<BR>【方法】<BR> 対象は下肢に重大な既往のない健常成人女性10名(年齢22.4±1.3歳,身長160.4±3.3cm,体重52.0±4.0kg)とした。体重の増加は重錘バンドをウエストポーチ,固定用ベルトを用いて検者の下腹部に負荷し,それぞれ0kg,7.5kg,15.0kgの3通りとした。歩行速度は歩幅を一定としメトロノームを用いケイデンスを116と138の2通りとした。平地歩行,階段降段の2条件で測定し,上記の組み合わせ12通りについてそれぞれ3回ずつ測定した。12通りの順番については乱数表を用い順不同とした。身体動作計測には,三次元動作解析装置VICON MX(VICON MOTION SYSTEMS社製),床反力計(AMTI社製)6枚,赤外線カメラ(周波数100Hz)8台を用いた。被験者には身体各部27箇所に赤外線マーカーを貼付した。計測用階段は中央で分離し,床反力計上に左右別々に設置した。下肢3関節における違いを分析するために,股関節・膝関節・足関節それぞれの関節角度・関節モーメントを計測項目とした。関節角度およびモーメントの算出にはVICON BODYBUILUDERを用い,木藤らの方法を参考にした。統計学的検討は一元配置分散分析を行ったのち,多重比較検定Bonferroni法を実施した。危険率は5%未満をもって有意とした。<BR>【説明と同意】<BR> ヘルシンキ宣言に基づき,実験の目的と方法を口頭と書面にて説明し同意を得たうえで実施した。その際,研究への参加は対象者の自由意志によるものとし研究への参加・協力が得られない場合であっても不利益は生じないこと。参加している場合であってもいつでも研究への参加を中止することが可能であること。得られたデータは本研究以外に使用せず,プライバシーを守ることなどを保障した。<BR>【結果】<BR> 一歩行周期における左下肢関節モーメントの値は,右足指離地時(以下,RTO時)と右足指接地時(以下RTC時)に増加していた。この傾向は全ての被験者に共通してみられるため,これら二つの時期の値と最大値・最小値を抽出して比較検討することとした。歩行において体重の増加によりRTO時, 膝関節屈曲角度,膝関節伸展モーメントが有意に増加した(p<0.05)。また, 膝内反角度には変化がみられず外反モーメントが有意に増加した(p<0.05)。階段降段動作においては膝内反角度に変化がみられず外反モーメントにおいて有意に増加した(p<0.05)。<BR>【考察】<BR> 体重の増加により歩行においてRTO時,すなわち左下肢のloading response時に膝屈曲角度,膝伸展モーメントが有意に増加していた。これは体重が増加したことにより下肢関節特に膝関節伸筋群の遠心性収縮により衝撃吸収を多く行うようになったためと考える。内外反については歩行・階段降段動作ともにアライメントに変化が見られず,関節モーメントのみが増加していた。これは膝関節の構造上,前額面でのアライメントに変化をきたしにくいが,増加した外反モーメントがストレスとしてかかり続けることにより関節の構造に破綻をきたすことが予想された。また歩行速度の変化については有意差がみられなかったことから体重の増加は下肢アライメントの変化に大きな影響を及ぼすものと考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 体重の増加が下肢関節にどのように影響するかを関節角度・関節モーメントを指標として客観的に比較・検討した。体重を減らすことは下肢関節にかかる負担を軽減させることが示唆された。これらの結果が、膝関節症など障害を評価・分析する上で非常に役立つと考える。