著者
正岡 寛司
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.22-41,113, 1968

以上において、根場部落における同族組織と親族組織を検討したが、最後に簡単な要約をもって結語にかえたいと思う。<BR>根場部落における同族関係は本家が直接・間接の分家を包摂するほど発達した同族団に展開しなかった。同族関係はかなりはやくから水平的な結合関係に変化し、先祖を共通にするという意識にもとずいた同族神祭祀や先祖祭りを中心とした固有の儀礼的な交際を持続してきている。<BR>そこで、日常的な交誼や協力関係は、オヤコ、とりわけイチオヤコの間において展開している。イッケシュが日常的な交誼や協力のあるいは家族行事へ参上する場合には、オヤコ関係のいくつかの段階区分に一定のきまった地位(多くの場合、イトコないしイトコナミ)を与えられて参与している。イッケシュをオヤコ関係のうちへとりいれて日常的な社会関係を展開している事実は、性質を異にする複数の集団や組織の存在を調整する処置であると考えられる。キンジョやオヤブンをもこの関係に組入れていることは、この事実を証明するものであろう。したがって、オヤコ関係は部落内の家と家との関係ないし瀋密度を表現する意義をももった親族組織であるといえよう。このことからも根場におけるオヤコ関係が決して同族関係の解体にともなって機能を顕在化するにいたったのでないことが理解されるのである。
著者
正岡 寛司 藤見 純子 嶋崎 尚子 澤口 恵一 西野 理子 大久保 孝治 白井 千晶
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、19世紀・20世紀半ばまでの重量型資本主義の基盤を第一次エネルギー供給の面から下支えしてきた石炭鉱業の経済史的ならびに社会学的な意義と特殊性、そしてその発展と終焉過程とを緻密に記述することを目的としたものである。あわせて、それを比較歴史的な記録資料として利用可能な状態で保存する。具体的には以下の5点の作業をすすめ、成果をえた。(1)旧常磐炭砿株式会社磐城砿業所(福島県いわき市)で就労した労働者の職業キャリアの大規模なミクロ・データの構築。(2)入社から退社にいたるまでの個別砿員の職業を中心として各種キャリアの時系列データの分析。(3)磐城砿業所の閉山にともない解雇された労働者の炭砿での職業キャリアと閉山後に形成した職業キャリアとの連結と、その分析(非自発的職業中断の影響)。(4)炭砿で就労した経験をもち、かつそこを解雇された元炭砿労働者たちの職業生活から離脱過程のデータの構築と分析(解雇経験後の職業キャリアと引退後生活)。(5)以上の諸ミクロ・データをデジタル化したうえで、大規模ミクロ・データの公共利用。上記作業の結果、昭和30年代の「採解簿データ」(約80,000件)をデジタル化し、6,459名の入社から退職にいたる職業キャリアの大規模なミクロ・データを構築した。他方、4,209名の離職者の89%にあたる3,747名の追跡調査を終えた(調査終了1,427名(34%)、調査不能879名(21%)、死亡確認(34%)1,441名)。彼らの閉山後の職業キャリアデータと入社から退職までの職業キャリアデータとを連結し、生涯職業キャリアデータを構築した。これらの生涯職職業キャリアデータを用いて、非自発的職業中断の影響、解雇経験後職業キャリアと引退生活の分析をすすめ、その成果を報告書にまとめ刊行した。本研究で構築した大規模ミクロ・データについては、HP上でその一部を公開した。