- 著者
-
武田 千香
柴田 勝二
- 出版者
- 東京外国語大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2003
マシャード・デ・アシス(1839-1908)は、夏目漱石(1867-1916)とほぽ同時代に地球の反対側に生きたブラジル文学を代表する写実主義作家である。当時、日本とブラジル両国の間にはまだ活発な文化交流がなく、両作家の間にも接触はなかったと思われるにも拘わらず、双方の文学の間には親和性がある。本研究は、間テキスト性にその原因を求めることのできない親和性がなぜ生じたのか、その要因を明らかにすべく行なわれた両作家の文学の比較研究である。研究の結果、まずは両者がアレゴリーという文学的手法を用い、主要な登場人物にそれぞれの国やその外交関係を仮託することによって、当時の近代日本や近代国家ブラジルに対する批判的精神を盛り込んだことが明らかになった。そして、その批判的精神自体にも明らかな共通性がみてとれる。これはおそらく当時のブラジルと日本が、似たような地政的な状況に置かれていたことに起因するものであろう。すなわちブラジルも日本も19世紀に西欧の外圧を受けることにより、200年〜300年の長きにわたって閉ざしていた門戸を開け、突如すでに構築されていた地球規模的国際関係や西欧的知的枠組みに組み込まれ、新生近代国家として急速な近代化を進めざるを得なかったのである。いずれの作家もそうした激動の時代を生き抜き、その経験を各自の作品の中に描きこんだ。すなわち両者の文学はともに西欧から働きかけられた近代化の波に襲われた非西欧的周辺国で生まれたものなのである。このように考えれば、両者の文学の親和性は必然的な結果だということができる。以上は、11にある成果を通して明らかになったことである。