著者
武田 真莉子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.150, no.3, pp.148-152, 2017 (Released:2017-09-09)
参考文献数
24
被引用文献数
1

鼻(鼻腔)は,生体にとって呼吸器系の入り口として必要不可欠な部位であると共に薬物投与部位としても古くから利用されてきた.鼻粘膜は低分子のみならず高分子物質に対しても比較的高い透過性を示すため,ペプチドやタンパク質に代表されるバイオ医薬品の投与部位としても利用され,1980年代頃より複数のペプチド薬物が鼻腔内投与製剤化され上市されるに至っている.また解剖学的には,鼻腔内で脳に直接つながっている経路(nose-to-brain経路)があることは古くから知られていたが,近年この経路が難治性中枢疾患治療薬の脳内送達において新たに着目されている.本稿では,鼻腔粘膜の構造と機能および鼻腔を薬物投与経路とする最近の基礎ならびに臨床研究の動向について紹介する.
著者
民輪 英之 武田 真莉子
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.10-19, 2020-01-25 (Released:2020-04-25)
参考文献数
34
被引用文献数
1

難吸収性薬物の経粘膜送達を実現するための有用な戦略の1つとして、吸収促進剤の利用があげられる。この戦略に基づいた研究は1980年代から盛んに行われており、現在においてはペプチドやタンパク質といったバイオ薬物を対象として、吸収促進剤を含有する製剤の臨床試験が多数進行している。そのような中、2019年においては、Novo Nordisk A/Sが開発した世界初となる経口GLP-1(glucagon-like peptide-1)アナログ製剤が米国で承認されて話題となった。本製剤には、経口吸収促進剤サルカプロザートナトリウム(SNAC)が含有されている。バイオ医薬品産業がますます拡大すると予測されている今、注射剤以外の製剤オプションを提供できる吸収促進技術の開発に新たな注目が集まっている。そこで本稿では、特に経口バイオアベイラビリティの改善を目指した経粘膜吸収促進剤に焦点をあてて、現在の開発状況と安全性に関する最新の知見、そして今後の展望について紹介する。
著者
武田 真莉子
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.440-449, 2016-12-25 (Released:2017-02-25)
参考文献数
20

近年、糖尿病治療薬は目覚ましい進歩を遂げている。糖尿病治療に有効な薬効成分は、低分子からバイオ医薬まであるが、それぞれ作用機序が異なり治療の選択肢の幅を広げている。バイオ医薬としては、1型糖尿病の第一選択薬であるインスリンが代表であるが、近年ではインクレチンの1つであるGLP-1(glucagon-like peptide-1)が2型糖尿病の治療薬として重要な位置を占めるようになった。これらバイオ医薬は注射で投与されるのが一般的であるが、非注射剤化の研究開発が世界中で活発に行われており、最も難しい経口製剤化も遠い夢ではなくなってきた。本稿では、GLP-1とインスリンに焦点を当てて、その非注射製剤化に利用されているDDS技術と臨床開発動向について紹介する。
著者
亀井 敬泰 武田 真莉子
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.287-299, 2013-09-25 (Released:2013-12-26)
参考文献数
46
被引用文献数
2 1

アルツハイマー病に代表される中枢疾患は、依然として治療満足度・薬剤貢献度の低い疾患群に分類されている。そのため、これら疾患に対して有用性の高い薬物治療法の確立が現在強く求められている。近年、中枢疾患治療として、内因性の脳内活性タンパク質や、治療部位をターゲットとするモノクローナル抗体などのバイオ薬物の利用に期待が集まっている。しかし、従来の投与法を介してバイオ薬物の脳内活性を得るためには、脳薬物移行性における最大の障壁である血液脳関門の透過性を著しく改善する、もしくは回避するストラテジーを確立する必要がある。本稿では、バイオ薬物の効率的脳内デリバリーを達成するためのさまざまなストラテジーについて、近年の研究例を紹介する。
著者
亀井 敬泰 武田 真莉子
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.360-367, 2019-11-25 (Released:2020-02-25)
参考文献数
37

末梢から脳への薬物輸送は血液脳関門により著しく制限されている。したがって認知症等の中枢疾患治療薬を開発するためには、脳への輸送障壁を突破する薬物送達法を構築しなければならない。そこで筆者らは、インスリンおよびGLP-1受容体作動薬等のペプチド薬物を新たな認知症治療候補薬物として用い、経鼻投与を介してそれら薬物を脳内に直接送達することを試みた。ペプチド薬物を細胞膜透過ペプチドと混合し経鼻投与することにより、鼻腔から脳への薬物輸送効率は飛躍的に増大した。さらに、本投与手法を介して脳に移行した薬物が、老化促進型認知症モデルマウスの認知機能障害を改善させることを明らかにした。本稿では、これらの研究成果を紹介する。