著者
武田 知樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>キャリアアンカー(career anchor)とは,個人が仕事をしていく上でそのやり甲斐(達成感)や意味の実感(有意義感)の拠り所となる中心的な価値観のことをいう。</p><p></p><p>本研究の目的は,臨床業務に従事する理学療法士のキャリアアンカーの特徴を明らかにして,キャリア支援のための基礎的知見を得ることである。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は大分県内の医療機関に勤務する理学療法士142名(男性68名,女性74名,平均年齢26.6±4.7歳)であった。</p><p></p><p>調査方法は,県内で開催された研修会に参加した者に対して,E.H. Scheinにより開発された「キャリア指向質問票」を配布して無記名で回答を依頼した。この質問票は ①専門・職能別コンピタンス(TF),②全般管理コンピタンス(GM),③自律・独立(AU),④保障・安定(SE),⑤起業家的創造性(EC),⑥奉仕・社会貢献(SV),⑦純粋な挑戦(CH),⑧生活様式(LS)の8領域のキャリアアンカーで構成されている。</p><p></p><p>分析は各キャリアアンカー得点(5~30点)を性別および臨床経験年数別,職場規模別に比較して,キャリア意識の特性を明らかにすることを試みた。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p><b>1</b><b>)性別の比較</b></p><p></p><p>各キャリアアンカーを性別に比較したところ,キャリアアンカー8領域中6領域(TF,GM,AU,SE,EC,SV)で男性は女性に比べて有意に高値であった(Mann-Whitney U-test,p<0.05)。</p><p></p><p><b>2</b><b>)臨床経験年数別の比較</b></p><p></p><p>経験年数別(10年未満,10年以上)で比較すると,AUでは経験年数10年未満16.0±4.1点に対し10年以上は13.4±3.2点であり,経験年数10年以上の者が有意に低値であった(Mann-Whitney U-test,p<0.05)。</p><p></p><p><b>3</b><b>)職場規模別の比較</b></p><p></p><p>職場規模別に比較してみると,SVについて10名未満の職場では20.0±4.2点,10~29名では21.5±4.0点,30名以上は22.1±3.7点であった。30名以上の理学療法士が勤務する職場は10名未満に比べてSVが有意に高値であった(Kruskal Wallis test,p<0.01)。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>医療機関に勤務する理学療法士において,性差によるキャリア意識の違いが顕著であった。また,臨床経験年数別では10年以上の方が10年未満の者に比べて自律・独立に関するキャリアアンカーで低値であった。この事は,一定期間の就業経験を通してチーム医療が重要視される医療機関の組織風土に適応した結果であると考えられた。</p><p></p><p>さらに,職場規模については職員が多い職場の方が奉仕・社会貢献に関連するキャリアアンカーが高値であったことは,職場規模に応じた教育や研修体制の充実が影響したものと考えられた。</p><p></p><p>以上の事より,キャリア意識の性差や経験年数,さらには職場規模を踏まえたキャリア支援のあり方が議論され,それぞれのキャリアラダー構築に反映させる必要性が示唆された。</p>
著者
河野 美華 武田 知樹 大平 高正 山野 薫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.A0076, 2007

【目的】<BR> 自転車エルゴメーターは,下肢関節への負担が少なく筋力増強が得られるため,運動療法の中で幅広く利用されている.しかし,その特性について,臨床で使用が容易な低強度での筋活動,また駆動肢位についての報告は少なく,不明な点もみられる.今回は,自転車エルゴメーター駆動時における,強度や膝関節位置の相違が駆動時の大腿四頭筋活動に与える影響について考察する.<BR>【方法】<BR> 対象は本研究に同意した健常成人4名(男女各2名)とした.平均年齢は24.0±4.0歳,平均身長は171.5±6.5cm,平均体重は62.0±7.5kgであった.自転車エルゴメーターは,Cateye社製ergociserMODEM EC-1000を用い,運動強度は60Watt(1.0kp×60rpm:低強度),120Watt(2.0kp×60rpm:高強度)の2条件を選択した.サドルの高さは膝関節最大伸展時30°に設定した.駆動肢位は,大腿中央-膝蓋骨中央-下腿中央を結んだ線を中間位とし,それより膝が内側へ入った場合(内側位),外側へ出た場合(外側位)の3肢位を設定した.筋活動の測定は,表面筋電図NORAXON社製テレマイオ2400を用い,大腿直筋,内側広筋,外側広筋の筋活動を測定した.得られたデータは全波整流し,1サイクルごとの平均振幅を求め,14サイクル分の平均値を代表値とした.さらに,各筋の最大等尺性収縮時の筋活動量に対する相対値(%MVC)を算出した.肢位別の比較検討では,各筋ごとに中間位の平均振幅値を100%とし,内側位と外側位の活動量を比較した.<BR>【結果】<BR> 強度別の比較において,大腿直筋では低強度10.8%に対し,高強度21.4%であった.外側広筋では低強度23.4%に対し高強度46.6%,内側広筋では低強度46.8%に対し,高強度85.3%であった.低強度は高強度の約半分の活動量であり,最も高値を示したのは内側広筋であった.肢位別に比較した場合,低強度において外側位で大腿直筋の活動量の増加が認められ,同じく内側位で外側広筋と内側広筋に活動量の増加が認められた.高強度では大きな増加はみられなかった.<BR>【考察】<BR> 低強度による自転車エルゴメーター駆動では,筋力増強が得られにくいとされているが,今回の結果より低強度でも内側広筋では約50%の活動量が得られ,他筋と比較して高い活動量を示したことより,内側広筋に対して有効性が示唆された.また,肢位別比較では,二関節筋である大腿直筋の起始・停止の関係が影響していると考えられ,拮抗筋である大腿二頭筋の活動量測定を行う検討の必要がある.高齢者や術後早期の患者に対しては,低強度の施行が多く用いられるが,目的とする筋に対して駆動肢位設定を確認する必要がある.<BR>
著者
武田 知樹 大嶋 崇 尾方 英二 川江 章利 大野 智之 平野 真子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100442, 2013

【はじめに、目的】 医療分野においても患者中心の医療を推進する流れがますます強まる中,患者満足度(Patient Satisfaction)に関する研究も散見されるようになった. 医療機関において提供されている各種サービスの中でも,理学療法士や作業療法士等が行うリハビリテーションに関連するサービス(以下,リハサービス)は,患者自身の主体的参加が不可欠な点や,患者のモチベーションがそのまま治療効果として反映されるなどの特徴があることから,リハ領域における患者満足度の特徴やその影響性を把握することは効果的なリハサービス実施に向けて重要な知見となる. そこで今回,リハビリテーションに関する患者満足度と患者の運動に対する動機づけとの関連性について検討した.【方法】 調査協力の得られた医療機関を受診している入院および外来患者の内,理学療法を含むリハビリテーションサービスを受療している患者88名(男性23名,女性65名,平均年齢73.8±9.0歳)を対象とした. なお,言語による意思疎通が困難な者または知的機能の低下が疑われる者は対象より除外した. 調査方法は,担当理学療法士によって調査協力の依頼およびアンケート用紙の配布を行い,患者は自室もしくは自宅にて記入後,専用の返送用封筒にて郵送してもらった.なお,その際の回収率は59%であった. 調査内容について,リハビリテーション部門の理学療法サービスに関する患者満足度(以下,リハ満足度)の評価については,田中らが作成した「欲求充足に基づく顧客満足測定尺度(Customer Satisfaction Scale based on Need Satisfaction;CSSNS)」,また,患者が利用した医療機関のサービス全般に対する満足度(以下,病院満足度)の評価は「サービス満足度評価(SERVQUAL)」をそれぞれ使用した. さらに,患者の運動に対する動機付けについては,大友らの先行研究をもとに「高齢者用運動動機尺度(以下,運動動機)」を用いた. また,顧客満足度に関連する要因として,年齢,性別等の基本的属性データも同時に調査した.【倫理的配慮、説明と同意】 調査実施にあたっては,対象者の十分な同意を得るために調査協力依頼書を作成し,研究の趣旨および内容に対し理解および同意が得られた者を対象とした.【結果】1)性別の比較 リハ満足度を示すCSSNS得点(平均値±SD)は,男性20.8±3.4点に対し女性20.6±3.4点で明らかな性差は認められなかった(Unpaired t-test, N.S.). 2)年齢別の比較 中年者(65歳未満)のCSSNS得点は19.7±3.3点,前期高齢者(65~74歳)21.3±3.4点,後期高齢者(75歳以上)20.6±3.4点で年齢別の有意差を認めなかった(Kruskal Wallis test, N.S.).3)リハ満足度別の運動動機の比較 CSSNS得点を低得点グループ(17点以下:低満足),中得点グループ(18~24点:中満足),高得点グループ(25点以上:高満足)の3群に分類した上で,それぞれのグループの運動動機を比較した. 結果,低得点グループの運動動機は35.2±6.1点に対して,中得点グループ39.3±5.1点,高得点グループ43.1±2.4点で,CSSNS得点が高いほど運動動機が高い傾向にあることが確認された(Kruskal Wallis test, p<0.01).4)患者満足度と運動に対する動機付けとの関連性 患者満足度と運動動機との関連性について,CSSNSと運動動機(r=0.48),SERVQUALと運動動機(r=0.42)ともに中等度の相関関係を認めた(無相関の検定 p<0.01). 【考察】 患者満足度に関する性差や年齢差を調査した先行研究では,女性または高齢者で満足度が高くなりやすいとした報告が散見される中,本研究では満足度の性差および年齢差は明確にすることができなかった. リハ満足度別に運動に対する動機付けの高さを比較してみたところ,リハ満足度が高い患者ほど,動機付け(アドヒアランス)が高い傾向にあった. また,それぞれの患者満足度と運動に対する動機付けとの関連性を検討したところ,リハ満足度(CSSNS)のみならず,病院満足度(SERVQUAL)においても有意な相関を示した.つまり,リハ部門のみならず病院全体での患者満足度を高めていく取り組みは,患者の運動に対する動機づけを高める上で有益であることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 リハビリテーションに関する患者満足度が運動に対する動機づけに肯定的な影響を及ぼしていることが示唆された.理学療法士個々人の技能に加えて,リハビリテーション部門および病院全体の取り組みとして良質なサービスを提供することは,患者の運動動機を高めて疾病管理や介護予防を図るうえで有意義であるといえる.
著者
武田 知樹 波多野 義郎 平松 義博
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.33, no.7, pp.377-385, 2006
参考文献数
13
被引用文献数
3

本調査の目的は,生活習慣病を罹患した在宅高齢者における身体運動の習慣化を目的とした援助プログラム立案に先立ち,そのライフスタイルの特性と身体運動の関係を健常高齢者と比較して明らかにすることである。対象は医療機関へ定期的な通院加療を必要としている65歳以上の生活習慣病(糖尿病,虚血性心疾患,脳卒中)の在宅高齢者100名,および比較対照として健常高齢者100名を設定した。調査方法は郵送による自己記入式の質問紙法とした。結果,生活習慣病の在宅高齢者は定期的なスポーツを行うなどの連動習慣に加え,日常生活上の歩行量,外出やレクリエーションなど日常生活全般にわたって身体活動の低下が顕著であった。特に,主成分分析を用いたライフスタイル特性の分析結果より,生活習慣病の高齢者は家族団欒などの対人交流や運動やスポーツといった積極的な健康行動への取り組みに乏しい傾向が認められた。これらの事より,生活習慣病の在宅高齢者に対しては,生活習慣全般を見直して,家族の協力や社会活動などによる対人関係の充実を通して心身両面において活動的なライフスタイルへ是正していく働きかけが不可欠である事が示唆された。