著者
水本 深喜 山根 律子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.254-265, 2010-09-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
7

本研究では,近年特に距離の近さを増しているとされる母娘関係に注目し,その距離が成人期へ移行しようとしている娘の自立や適応にどのように関わっているのかを明らかにする。これにあたり,大学生女子(n=173)とその母親(n=149)から質問紙調査により収集したペアデータを用い,青年期から成人期への移行期にある女性とその母親との距離にどのような特性があるのかを明らかにし,これらと女性の自立や適応との関連性を検討した。まず,母親との距離と精神的自立の各因子のプロフィールより,母娘関係を「密着型」,「依存型」,「母子関係疎型」,「自立型」に類型化した。次にこの類型を基に母親との距離がどのような場合に娘の自立や適応に促進的に働き,どのような場合に抑制的に働くのかを探った。その結果,母娘間距離には,遠近といった量的特性のみでなく,その関係性において娘が自己統制感を持つことができているかどうかという質的特性があり,これらが娘の自立や適応と関わっていることが明らかになった。さらに,この距離認知の母娘間におけるズレを検討した結果,このズレはその関係性における情緒的絆と関連して娘の自立や適応に影響を与える要因となるような個体差的側面と,自立に向けて関係性が変化していることを示す発達的側面を反映していると考えられ,自立の時期の親子関係を理解する手がかりとなり得ることが示唆された。
著者
水本 深喜
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.111-126, 2018-06-30 (Released:2018-08-10)
参考文献数
36
被引用文献数
8

本研究では,青年期後期にある子が捉える親との関係について「精神的自立」と「親密性」から捉え,それらの父息子・父娘・母息子・母娘関係の差を明らかにした。首都圏の大学生に質問紙調査を行い,まず「親子関係における精神的自立尺度」および「親への親密性尺度」を作成した(分析Ⅰ)。これらの尺度を用いて親子関係差を分析すると,娘が捉える母親との関係は,他の組み合わせの親子関係と比較して信頼関係が高く,親密性が総じて高かった。加えて,娘は父親とは分離した認識を強く持っていた(分析Ⅱ)。精神的自立と親密性との関連をみると,親子関係の組み合わせにより,親との信頼関係の築き方が異なっていた(分析Ⅲ)。最後に「信頼関係」と「心理的分離」の2軸による親子関係の4類型を用い,親との関係が子の自尊感情,自律性,主体性に与える影響について検討すると,父親との関係においては,心理的に分離することが,子の適応や発達を高めていた。自尊感情において性差が見られ,母親と信頼関係を築かないままに心理的に分離している場合の娘の自尊感情は低かった(分析Ⅳ)。総合考察では,これらの検討から明らかになった親子関係の性差について論じた。