著者
水落 次男 小島 直也
出版者
東海大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2001

感染症に対する生体防御において細胞性免疫反応の重要性が報告され、病原体に対する細胞性免疫を誘導するワクチンの開発が感染防御や発症の制御に重要であることが指摘されており、そのためには細胞性免疫を誘導できるアジュバントが必要である。しかし、ヒトに対して使用できる安全なアジュバントは見あたらない。そのため、細胞性免疫誘導能をもち、しかもヒトに対して毒性がなく安全なアジュバントの開発は、今後の感染症に対するワクチンの開発にとって非常に重要である。我々は、ヒトの生体内に広く存在する糖蛋白質の特定の糖鎖と脂質から成る人工糖脂質の作製に成功し、この人工糖脂質で被覆したリポソームに封入抗原に対する細胞性免疫を強く誘導するアジュバント作用があることを見いだした。そこで本研究では、この人工糖脂質被覆リポソームを様々な感染症に対する細胞性免疫誘導型ワクチンのアジュバントとして利用するために、感染モデルとしてHIVおよびリーシュマニア原虫を用いて、これら病原体に対する蛋白質・ペプチドワクチンやDNAワクチンを試作し、そのワクチン効果を評価し、抗原提示細胞を用いて人工糖脂質の作用機構を解析する。本年度は、リーシュマニア原虫を用いたワクチン効果の評価系の確立を試みた。マンノペンタオース(M5)とジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)を還元アミノ化反応で化学的に結合させM5-DPPEを合成した。また、リーシュマニア原虫から可溶性蛋白質を調製し、この可溶性蛋白質を抗原とし、この抗原を封入した人工糖脂質被覆リポソームを作製した。この抗原封入人工糖脂質被覆リポソームでBalb/cマウスを免疫後、リーシュマニア原虫をマウスのfoot padに経皮感染させ、感染によるfoot padの腫脹を経時的に測定し、人工糖脂質被覆リポソームワクチンのリーシュマニア原虫感染に対する有効性の評価を行った。その結果、抗原のみあるいは人工糖脂質で被覆していない抗原封入リポソームで免疫したマウス群は著しいfoot padの腫脹が認められたが、この抗原封入人工糖脂質被覆リポソームで免疫した群のマウスではfoot padの腫脹は対照群と比べて顕著に小さかった。この結果は、この抗原封入人工糖脂質被覆リポソームで免疫することによって、リーシュマニアの感染がある程度予防できたことを意味している。
著者
藤田 禎三 ターナー マルコム リード ケネス エゼコビッツ アラン 水落 次男 小林 邦彦 松下 操 TURNER Malcolm w REID Kenneth b m
出版者
福島県立医科大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

1).マンノース結合蛋白(MBP)はマン-スやN-アセチルグルコサミンに結合特異性を持つ血清レクチンの一つで、補体活性化能が有り、生体防御上重要な役割を演じている。MBPによる補体活性化のメカニズムに関しては次の2つの説が提唱されている。一つは、補体第一成分C1と同様にMBPはC4,C2の分解にプロテアーゼ成分としてC1の亜成分C1rとC1sを用いるとする考え方である。これはイギリスのReid博士らのMBP-C1r/C1s複合体が形成し得ることを示した再構成実験に基づく。一方,我々の連休からヒト血清MBP画分からC4,C2分解活性能を有するプロテアーゼMASP(MBP-associteel sereine pntease)が単離されたことより、MBPはMBP-MASP複合体を形成して働いているとする見方である。生体的でMBPによる補体活性化(レクチン経路)のメカニズムを解明する上で、MBPとC1r/C1s,MBPとMASPなどの結合性が重要な手がかりとなる。そこで、MBP-MASP,C1の亜成分間の結合性を結合定数の測定により検討した。Reid博士らの調製したC1と我々の調製したMBP-MASPを材料として蛋白成分間の結合状態を調べる装置であるBiacoreを用いてMBP-MASP,MBP-C1r/C1s,C1g-MASP,C1q-C1r/C1s各々の結合定数を求めたところ、これらの値はほぼ同程度てあることが判明した。血清中よりMBP-MASP,C1q-C1r/C1sのみ得られることを考慮すると以上の結果は、これら2つの複合体は何らかの制御機構を受けてin vivoで形成される可能性を示唆している。2).MBP欠損患者が高頻度(白人で5-7%)で知られており、幼児における易感染性との関連が報告されている。これらMBP欠損患者のMBP遺伝子では塩基230の点突然変異でコドン54がGGC→GACに変化していることが明らかにされている。これはMBP蛋白のグリシン(G)がアスパラギン酸(D)への置換につながる変異であり、この結果,変異MBPは合成されても生体内で分解が速いものと推定されている。アメリカのEzekouitg博士らは正常タイプのMBP(MBPG)と変異MBP(MBPD)のリコンビナント体を作製して両MBPの性状を検討した。その結果MBPGがヒト血清中の補体活性化能を示したのに対して、MBPDには本活性が損われていた。そこで,このような活性の違いの原因を解明する目的でMBPとMASPとの反応性に着目して検討を行った。その結果、EZRkouitg博士の調製したリコンビナントMBPのうち、MBPGはヒト血清MBPと同様にMASP共存下、補体成分C4,C2分解を伴なう補体活性化能を示したが、MBPDにはその活性が見られなかった。更に、MBPとMASPとの結合性を検討したところ、MBPGはMASPと結合したのに対して、MBPDは結合しなかった。以上の結果より、MBPDに補体活性化能が損なわれている原因として、MASPとの結合活性がないことが明らかとなった。(投稿中)。3).リウマチ患者血清中のIgGの多くは、非還元末端のガラクトースが欠損して次のN-アゼチルグルコサミン残基が末端に位置している異常な糖鎖構造をしている。MBPはN-アセチルグルコサミンに親和性を持つので、このガラクトース欠損IgGにMBPが結合すると補体活性化をおこし、それがリウマチの病態と関連がある可能性が考えられる。そこで、リウマチ患者血清IgGへのMBPの結合性を調べたところ、正常人のIgGに比べて、より多くのMBPが結合することがわかった。更に、このMBP結合性IgGをプロテインGカラム及びMBPカラムを用いて単離後、MBP-MASPによる補体活性化能をC4消費を指標に調べたところ、明らかな活性化を示した。また、このIgGはIgMタイプのリウマチ因子と複合体を形成していた。これらの結果より、リウマチ患者血清中の異常な糖鎖構造をもつIgGを含大複合体がMBP-MASPを介したレクチン経路の活性化を起すことが明らかとなった。