著者
稲次 敏郎 田村 俊明 水野 雅生
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.58, pp.53-60, 1987-02-25 (Released:2017-07-25)

本稿は昭和61年に行なった中国福建省龍岩地区山間部に散在する客家民居の形態及び空間構成に関する調査報告である。本調査の目的は,多様に展開する漢民族の住居特質を把握することにより,現代日本都市住居の考察に資することにある。客家は古い時代に中原より南下した漢民族であるが,先住民より迫害を受けたが為に防御的な巨大土楼住居を構成し,大家族制を維持した。集落は耕地の少ない内陸山間部に川に沿って位置し,直径又は一辺約20〜60m,3〜5層,円形又は方形,外周生土・内部木造軸組,200〜400人の大集合住居が群をなしている。土楼の中央は祖堂を中心とした一族の集の場であり,住居部1階は厨房・食堂で家族の集の場である。2階倉庫,3・4階臥室と家族構成は上下縦系列に構成されるが,家族単位構成は極めて希薄となる。徽州民居が大集合住居においても家族単位構成が明確であり,一族構成への段階的構成を明確に示すのに対し,客家民居は一族構成が極めて強く,家族単位構成は希薄であり,防塞的色彩が強い。