著者
村上 幸士 齋藤 昭彦 永井 康一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AcOF2028, 2011

【目的】近年、スポーツ現場や医療現場において、体幹の安定化を目的とした体幹深部筋群のトレーニングやそのメカニズムを解明するための研究が注目されている。また、リアルタイムに深部組織を、非侵襲的に確認できる超音波診断装置を使用した腹横筋の収縮を筋厚としてとらえる研究も行われている。その一方、腹横筋の収縮に伴う筋膜の変化や腰痛との関連性を比較する研究は少ない。本研究では、腹横筋の収縮による胸腰筋膜の変化を腰痛の有無にて比較することを目的として、腹横筋の筋厚変化と筋・筋膜移行部の変化を同一画像にて検証した。<BR>【方法】研究に対して、同意を得られた男性51名(22.9±4.0歳)を対象とした。まず、腰痛評価表にて、腰痛に対する問診・アンケートを行い、腰痛にて受診経験のある群(以下、A群)、ときどき腰痛を認めるが受診経験のない群(以下、B群)、腰痛を経験したことのない群(以下、C群)に分類した。<BR>次に、超音波診断装置(東芝社製NEMIO SSA-550A)での測定は、臍レベルに統一し、腹部周囲にマーキングを行い、画像での確認をもとに最終的なプローブ(7.5MHz、リニア形PLM-703AT)位置を決定した。測定肢位は腹臥位とし、安静時は腹横筋の先端(筋・筋膜移行部)を画像右端に合わせ、収縮時に変化する腹横筋をイメージングし、動画画像としてDVDに記録した。この時、腹横筋の収縮は、口頭指示および超音波画像による視覚的フィードバックにて行った。なお、すべての測定は左右行い、くじ引きにて順不同に実施した。<BR>記録した動画画像より画像編集ソフトWin DVDを用いて、静止画像を抽出し、画像解析ソフトImage Jを用いて、安静時および腹横筋収縮時の筋厚および画像左端と腹横筋先端との距離を測定し、変化量を算出した。これらの変化量に対し、一元配置分散分析およびBonferroniの多重比較検定を用い、各群を比較した。統計処理はSPSS version 10.0J for Windowsを用い、有意水準を5%とした。<BR>【説明と同意】得られたデータは研究責任者が責任を持って管理し、倫理的な配慮や研究内容・目的・方法および注意事項などを記載した研究同意書を作成した。この研究同意書を元に、個別に研究責任者が被験者に対し説明を行い、被験者が十分に研究に対し理解した上で必ず同意を求め、直筆での署名を得た。<BR>【結果】腰痛に対する問診の結果、被験者51名は、A群20名、B群17名、C群14名に分類された。左側、右側ともに、筋厚の変化量は有意差を認めなかった。一方、腹横筋先端の移動距離の変化量は、左側:A群2.0±1.6mm、B群5.1±2.3mm、C群5.1±1.7mm、右側:A群2.5±2.3mm、B群5.2±2.2mm、C群6.0±1.9mmであり、両側ともにA群に対し有意差を認め、いずれも低値を示した。<BR>【考察】腹横筋は、深部(中心部)に位置し脊椎分節を安定させるローカル筋システムに分類され、後方では胸腰筋膜に、前方では腹部筋膜に停止し、その筋膜系を介して腰椎骨盤の安定性に影響を与える。また、胸腰筋膜の中層の線維は腰椎横突起に収束し、椎骨の動きは筋膜の長さの変化に関係し、筋・筋膜移行部を外側方向に引く(緊張増加)ことで前額面上の運動をコントロールする。この胸腰筋膜の緊張には腹横筋の収縮が関与する。<BR>本研究の結果、B群およびC群では腹横筋の収縮(筋厚増加)に伴い筋・筋膜移行部の移動距離も大きくなり、胸腰筋膜は側方に引かれた。しかし、A群では、腹横筋の収縮(筋厚増加)に伴う筋・筋膜移行部の外側方向への動きが低下していた。この要因として筋膜自体の可動性の低下が考えられる。つまり、腰痛にて受診経験のある群では、腹横筋の収縮がみられても、胸腰筋膜を外側へ引くことができず、筋膜を介した脊椎の分節的安定性を得ることができない可能性が示唆された。今後は、腹横筋のトレーニングを効果的に行う目的でも、腰部(腰胸筋膜)へのアプローチが必要と考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】最近では、超音波診断装置での測定が有用である腹横筋の筋厚測定などの体幹深部筋に関する研究が注目されている。しかし、胸腰筋膜を介して脊椎の分節的安定性に作用する腹横筋の収縮による筋厚増加を、胸腰筋膜の変化と同一画像にて比較する研究はあまり行われていない。さらに、腹横筋と筋膜の関係や腰痛との関連性を検討した研究は少ない。<BR>よって、同一画像にて測定した腹横筋の収縮による胸腰筋膜の変化と腰痛との関連性を明らかにすることは、腰痛の1つの影響因子や病態の把握がより明らかになると考えられる。今後、超音波診断装置にて腹横筋の筋厚を測定する時に、加えて、腹横筋の先端の移動距離まで測定を行い、胸腰筋膜の動きも分析することは,腰痛の影響因子や脊椎の分節的安定性を考える上で有用である。以上を本研究にて明らかにできた。<BR>
著者
村上 幸士 齋藤 昭彦 永井 康一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AcOF2028, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】近年、スポーツ現場や医療現場において、体幹の安定化を目的とした体幹深部筋群のトレーニングやそのメカニズムを解明するための研究が注目されている。また、リアルタイムに深部組織を、非侵襲的に確認できる超音波診断装置を使用した腹横筋の収縮を筋厚としてとらえる研究も行われている。その一方、腹横筋の収縮に伴う筋膜の変化や腰痛との関連性を比較する研究は少ない。本研究では、腹横筋の収縮による胸腰筋膜の変化を腰痛の有無にて比較することを目的として、腹横筋の筋厚変化と筋・筋膜移行部の変化を同一画像にて検証した。【方法】研究に対して、同意を得られた男性51名(22.9±4.0歳)を対象とした。まず、腰痛評価表にて、腰痛に対する問診・アンケートを行い、腰痛にて受診経験のある群(以下、A群)、ときどき腰痛を認めるが受診経験のない群(以下、B群)、腰痛を経験したことのない群(以下、C群)に分類した。次に、超音波診断装置(東芝社製NEMIO SSA-550A)での測定は、臍レベルに統一し、腹部周囲にマーキングを行い、画像での確認をもとに最終的なプローブ(7.5MHz、リニア形PLM-703AT)位置を決定した。測定肢位は腹臥位とし、安静時は腹横筋の先端(筋・筋膜移行部)を画像右端に合わせ、収縮時に変化する腹横筋をイメージングし、動画画像としてDVDに記録した。この時、腹横筋の収縮は、口頭指示および超音波画像による視覚的フィードバックにて行った。なお、すべての測定は左右行い、くじ引きにて順不同に実施した。記録した動画画像より画像編集ソフトWin DVDを用いて、静止画像を抽出し、画像解析ソフトImage Jを用いて、安静時および腹横筋収縮時の筋厚および画像左端と腹横筋先端との距離を測定し、変化量を算出した。これらの変化量に対し、一元配置分散分析およびBonferroniの多重比較検定を用い、各群を比較した。統計処理はSPSS version 10.0J for Windowsを用い、有意水準を5%とした。【説明と同意】得られたデータは研究責任者が責任を持って管理し、倫理的な配慮や研究内容・目的・方法および注意事項などを記載した研究同意書を作成した。この研究同意書を元に、個別に研究責任者が被験者に対し説明を行い、被験者が十分に研究に対し理解した上で必ず同意を求め、直筆での署名を得た。【結果】腰痛に対する問診の結果、被験者51名は、A群20名、B群17名、C群14名に分類された。左側、右側ともに、筋厚の変化量は有意差を認めなかった。一方、腹横筋先端の移動距離の変化量は、左側:A群2.0±1.6mm、B群5.1±2.3mm、C群5.1±1.7mm、右側:A群2.5±2.3mm、B群5.2±2.2mm、C群6.0±1.9mmであり、両側ともにA群に対し有意差を認め、いずれも低値を示した。【考察】腹横筋は、深部(中心部)に位置し脊椎分節を安定させるローカル筋システムに分類され、後方では胸腰筋膜に、前方では腹部筋膜に停止し、その筋膜系を介して腰椎骨盤の安定性に影響を与える。また、胸腰筋膜の中層の線維は腰椎横突起に収束し、椎骨の動きは筋膜の長さの変化に関係し、筋・筋膜移行部を外側方向に引く(緊張増加)ことで前額面上の運動をコントロールする。この胸腰筋膜の緊張には腹横筋の収縮が関与する。本研究の結果、B群およびC群では腹横筋の収縮(筋厚増加)に伴い筋・筋膜移行部の移動距離も大きくなり、胸腰筋膜は側方に引かれた。しかし、A群では、腹横筋の収縮(筋厚増加)に伴う筋・筋膜移行部の外側方向への動きが低下していた。この要因として筋膜自体の可動性の低下が考えられる。つまり、腰痛にて受診経験のある群では、腹横筋の収縮がみられても、胸腰筋膜を外側へ引くことができず、筋膜を介した脊椎の分節的安定性を得ることができない可能性が示唆された。今後は、腹横筋のトレーニングを効果的に行う目的でも、腰部(腰胸筋膜)へのアプローチが必要と考える。【理学療法学研究としての意義】最近では、超音波診断装置での測定が有用である腹横筋の筋厚測定などの体幹深部筋に関する研究が注目されている。しかし、胸腰筋膜を介して脊椎の分節的安定性に作用する腹横筋の収縮による筋厚増加を、胸腰筋膜の変化と同一画像にて比較する研究はあまり行われていない。さらに、腹横筋と筋膜の関係や腰痛との関連性を検討した研究は少ない。よって、同一画像にて測定した腹横筋の収縮による胸腰筋膜の変化と腰痛との関連性を明らかにすることは、腰痛の1つの影響因子や病態の把握がより明らかになると考えられる。今後、超音波診断装置にて腹横筋の筋厚を測定する時に、加えて、腹横筋の先端の移動距離まで測定を行い、胸腰筋膜の動きも分析することは,腰痛の影響因子や脊椎の分節的安定性を考える上で有用である。以上を本研究にて明らかにできた。
著者
村上 幸士 桜庭 景植 永井 康一
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.893-897, 2010 (Released:2011-01-28)
参考文献数
14
被引用文献数
2 3

〔目的〕腰痛経験の有無と腹部筋群との関連を明らかにすることを目的とした。〔対象〕平均年齢23.7±3.3歳の男性64名である。〔方法〕問診を行い,腰痛経験の有無にて3群に分類した。また,超音波診断装置にて安静時の腹横筋・内腹斜筋・外腹斜筋を測定し,筋厚の差を腰痛経験の有無にて比較し,分析した。〔結果〕腰痛にて受診経験のある群は,腰痛を認めるが受診経験のない群および腰痛経験のない群と比較して腹横筋筋厚が低値であり,他筋は有意差がなかった。〔結語〕腰痛経験が有ることは,腹横筋の筋活動低下による安静時の筋厚減少および内腹斜筋と外腹斜筋を合わせた表在筋の過剰な筋活動による安静時の筋厚増大と関連することが示唆された。