著者
池田 怜吉
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.125, no.2, pp.107-111, 2022-02-20 (Released:2022-03-10)
参考文献数
19

医師主導治験を経て, 難治性耳管開放症に対する耳管ピン手術が薬事承認ならびに保険適応となったので, その概要について述べる. 耳管開放症は, 耳管が常時あるいは長時間開放することにより, 自声強聴, 耳閉感, 自己呼吸音聴取などの不快な耳症状を呈する疾患である. 多くの症例では前述のように生活指導ならびに保存的治療にて症状がコントロールされるため, 第一選択となるが, 保存的治療にて改善し得ない難治性耳管開放症が存在する. 耳管ピン手術は, 最低6カ月以上の保存的治療にて症状が改善しない症例を対象としている. 2017年6月~2019年1月に薬事承認・保険医療化を目的として, 難治例を対象としたシリコン製耳管ピンの非盲検非対照多施設共同臨床試験を, 30症例を対象に医師主導治験として行った. 有効率は82.1%であり, 過去の臨床研究での報告とほぼ同等の成績であった. その後, 薬事承認を経て, 2020年12月に保険収載となった. 本手術は, 日本耳科学会「耳管ピン手術実施医」のもとで手術の施行が義務付けられている. 今回の耳管ピンの保険収載においては, 1. 長年にわたる耳管開放症に対する臨床研究の蓄積, 2. 多職種との連携・協力, 3. 全国の耳鼻咽喉頭頸部外科医の協力, 4. 全国の患者さんへ有益な治療を届けたいという思いが重要であった.
著者
山内 大輔 川村 善宣 本藏 陽平 小林 俊光 池田 怜吉 宮崎 浩充 川瀬 哲明 香取 幸夫
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.159-166, 2020 (Released:2021-04-05)
参考文献数
25

上半規管裂隙症候群は,1998年マイナーによって最初に報告され,これまでいくつかの手術法について報告されてきた.正円窓閉鎖術はいわゆる“third window theory”に基づいた術式であるが,その効果は限定的であることが報告されている.一方,中頭蓋窩法によるpluggingまたはresurfacingの場合は,ほとんどの症例で裂隙部を直接確認できる.しかし,裂隙部が上錐体静脈洞に位置している場合は困難となる.さらに頭蓋内合併症のリスクのため,安易には手術を勧められないジレンマがある.そのため,耳鼻咽喉科医にとって中頭蓋窩法よりも経乳突洞法によるpluggingの方が容易な術式であるが,下方からでは裂隙部を確認しづらく,また感音難聴の合併症のリスクが潜んでいる.著者らは経乳突洞法によるpluggingに水中内視鏡を用いることで安全性を高める方法に改良した.乳突削開術後,浸水下に内視鏡を用いることで,膜迷路と裂隙部を明瞭に観察することが可能であった.たとえ裂隙部が上錐体静脈洞に位置していても,内側からアプローチできるので有用であった.本術式の方法や適応,術後成績について報告する.