著者
工藤 和俊 鳥越 亮 根本 真和 進矢 正宏 沢田 護 三嶋 博之
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.52-53, 2016-09-01 (Released:2021-01-27)
参考文献数
4

本研究では,自動車運転による間隙通過の際の注視点計測を行うことにより,運転時の視覚-運動協調について検討した.実験では7名の参加者が乗用車を運転して100m 先の障害物(パイロン)間を通過する間隙通過課題を行った.この際の注視点をアイマークレコーダーを用いて計測した.また,車両幅の知覚における個人差を明らかにするため,静止した車両の前方に置かれたパイロン位置を車両の左右端に合わせる車両幅知覚課題を行った.その結果,知覚課題における誤差(実際の車両幅と知覚された車両幅の差)と間隙通過課題時の障害物注視確率との間に正の中程度の相関が認められた.この結果は,車両幅知覚の誤差が小さかった参加者は運転時に進行方向である間隙中心を注視していた一方で,車両幅を過大に知覚していた参加者は障害物を注視することによって車両の接触可能性を確認するという注視行動が生じていたことを示唆している.これらの注視パターンはそれぞれ,目標方向への移動および障害物の回避課題において典型的に認められることから,自動車運転による間隙通過時の注視行動は拡張された身体である車両の行為可能性を反映していると考えられる.
著者
伊藤 精英 丸尾 海月 沢田 護
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.149-156, 2022-05-01 (Released:2022-06-27)
参考文献数
16

本研究は可聴域外の空気振動が無自覚的な生体活動に対する影響を明らかにすることを目的と した.予備実験では,可聴域上限以上の空気振動(超音波)を含む自然環境音を聴取している際の人の耳周辺の血流量を解析した.その結果,超音波付加時には血流量の速度に変化が認められ,超音波が生体活動へ影響することが示唆された.そこで,次の実験では,心拍変動解析及び皮膚表面温度解析結果を超音波付加の有無で比較した.その結果,超音波が可聴音に重畳すると,皮膚表面温度が上昇すること,自律神経系の均衡の指標とされる値の変動パターンに特徴的な傾向が現れることが認められた.これらを元に,自然界に存在する空気振動を知覚することが自覚的及び無自覚的な行為調整に果たす役割について議論する.
著者
野澤 光 沢田 護 工藤 和俊
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.167-172, 2022-05-01 (Released:2022-06-27)
参考文献数
6

本稿では,氷上コースを走行する,熟練ドライバーと初級ドライバー2 名の眼球運動と頭部運動を,アイトラッカーにより検証した.2 名の眼球運動を,周波数スペクトラム,平均相互情報量,再帰定量化解析によって評価した結果,熟達者の水平面の眼球運動は,初級者と比較して,より多く低周波数成分を含んでおり,およそ1~1.5 秒周期の自己相関を示す,周期的な運動パターンを示していた.また,カーブ走行時の2 名の頭部運動を検討した結果,熟達者は,およそ3.9~4.2秒周期で頭部を左右に切りかえす運動パターンを示していた.これらの結果は熟達者が,ハンドル操作 - 頭部旋回 - 眼球運動という複数の運動を組みわせることによって,知覚に再帰的な時間構造を埋め込んでいたことを示している.こうした熟達者の知覚の再帰性は,氷上コースでの外乱や不確実性に適応するための,制御方略である可能性がある.本稿の結果は,熟達ドライバーの知覚が,結果として系全体を安定させる,能動的で再帰的な振る舞いの中に埋め込まれて実現していたことを示唆している.