著者
野澤 光
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.255-270, 2021-06-01 (Released:2021-06-15)
参考文献数
34

How does an artist utilize their ecological constraints when creating art? The present case study describes the making process of Rinsho, or imitation drawing, by a professional Chinese calligrapher through 16 experimental trials. To examine the process through which ecological constraints were exploited and utilized, I recorded the calligrapher' s movement data using a 3D motion capture system. My analysis focused on the calligrapher' s gaze search, specifically head height, the number and frequency of head rotation during writing, and the directional distribution of head movement. The results show that the calligrapher performed a flexible gaze search in response to surrounding constraints, while his drawing procedure remained relatively consistent. The calligrapher combined fine brush-tip control and active gaze search with whole-body movement. In addition, the comparison between the present study and the author's previous study suggests that the calligrapher generated his own constraints in movement variables, and explored white space and character shapes on the paper by utilizing these constraints. These results imply that Rinsho is the art of pursuing resourcefulness under a given set of constraints. The present paper proposes that the method to describe the time evolution of an environment-body system is an effective approach for studying artists' making processes.
著者
園田 正世 工藤 和俊 野澤 光 金子 龍太郎
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.183-187, 2022-05-01 (Released:2022-06-27)
参考文献数
13

ヒトの乳児は出生後すぐには自ら移動できないため,しばらくは養育者による移動に委ね,身体の発達とともに能動的で探索的な移動に変化していく.抱くことは移動を可能にするだけでなく,授乳やあやし,コミュニケーションの基底的手段である.本研究では,家庭内での抱きの生起と継続の様相を明らかにし,成長発達と日常生活のなかで抱きの意味を検討するために,出産から独立歩行までの発達が著しい生後1年間(各月1回24 時間連続)の2組の抱き時間を計測した.新生児期から計測をスタートし,A 参加者は7 時間29 分, B 参加者6 時間48 分だったが,A 参加者は12 ヶ月後に3 時間56 分まで減少し,B 参加者は7 時間33 分に増加した.抱きは移動やあやしのための行為から,家事と平行するためのおんぶや授乳中心に変化し,子の受動的な移動が減少する様子がみられた.
著者
野澤 光 沢田 護 工藤 和俊
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.167-172, 2022-05-01 (Released:2022-06-27)
参考文献数
6

本稿では,氷上コースを走行する,熟練ドライバーと初級ドライバー2 名の眼球運動と頭部運動を,アイトラッカーにより検証した.2 名の眼球運動を,周波数スペクトラム,平均相互情報量,再帰定量化解析によって評価した結果,熟達者の水平面の眼球運動は,初級者と比較して,より多く低周波数成分を含んでおり,およそ1~1.5 秒周期の自己相関を示す,周期的な運動パターンを示していた.また,カーブ走行時の2 名の頭部運動を検討した結果,熟達者は,およそ3.9~4.2秒周期で頭部を左右に切りかえす運動パターンを示していた.これらの結果は熟達者が,ハンドル操作 - 頭部旋回 - 眼球運動という複数の運動を組みわせることによって,知覚に再帰的な時間構造を埋め込んでいたことを示している.こうした熟達者の知覚の再帰性は,氷上コースでの外乱や不確実性に適応するための,制御方略である可能性がある.本稿の結果は,熟達ドライバーの知覚が,結果として系全体を安定させる,能動的で再帰的な振る舞いの中に埋め込まれて実現していたことを示唆している.
著者
野澤 光 山﨑 寛恵 西尾 千尋
出版者
日本生態心理学会
雑誌
生態心理学研究 (ISSN:13490443)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.145-148, 2022-05-01 (Released:2022-06-27)
参考文献数
6

本シンポジウムは,子どもの生活する住環境で生起するレイアウト変更過程から,環境の機能的に単位を記述する最新の実証研究を紹介するとともに,それらのレイアウト研究に,考古学の記述手法を導入する可能性を議論する.企画者の野澤は,狩猟採集民の住環境のレイアウトからヒトの行動パターンを復元したBinford(1983)の記述手法が,Reed(1996)の基本アフォーダンスという発想を補完するものであることを解説するとともに,その視点が現代の住環境を記述する際にも有効であることを示す.山﨑は,約一年間の保育室内の縦断的な静止画記録から,室内のモノの動き方のパターンを分類し,動的でありつつも同じ場所がそこに存在していることを報告する。西尾は,乳児を養育する家庭における,物の配置替えに焦点を当てる.特に,乳児による物の運搬や遊びの後に行われる,養育者の収集と片付けの場面に尺目し,どのような相互的な活動の流れの中で,片付けが起きるのかを検討する.