- 著者
-
野澤 光
沢田 護
工藤 和俊
- 出版者
- 日本生態心理学会
- 雑誌
- 生態心理学研究 (ISSN:13490443)
- 巻号頁・発行日
- vol.14, no.1, pp.167-172, 2022-05-01 (Released:2022-06-27)
- 参考文献数
- 6
本稿では,氷上コースを走行する,熟練ドライバーと初級ドライバー2 名の眼球運動と頭部運動を,アイトラッカーにより検証した.2 名の眼球運動を,周波数スペクトラム,平均相互情報量,再帰定量化解析によって評価した結果,熟達者の水平面の眼球運動は,初級者と比較して,より多く低周波数成分を含んでおり,およそ1~1.5 秒周期の自己相関を示す,周期的な運動パターンを示していた.また,カーブ走行時の2 名の頭部運動を検討した結果,熟達者は,およそ3.9~4.2秒周期で頭部を左右に切りかえす運動パターンを示していた.これらの結果は熟達者が,ハンドル操作 - 頭部旋回 - 眼球運動という複数の運動を組みわせることによって,知覚に再帰的な時間構造を埋め込んでいたことを示している.こうした熟達者の知覚の再帰性は,氷上コースでの外乱や不確実性に適応するための,制御方略である可能性がある.本稿の結果は,熟達ドライバーの知覚が,結果として系全体を安定させる,能動的で再帰的な振る舞いの中に埋め込まれて実現していたことを示唆している.