著者
河上 康子
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.70-82, 2018-03-05 (Released:2019-10-08)
参考文献数
37

昆虫学をふくむ自然史科学は,アマチュアにもはたすことのできる役割が存在する学問である.その貢献の最たるものは,科学的基礎データとしての地域ファウナの解明と公表であろう.実際日本では,北海道から沖縄まで82の研究会・同好会(http://www7b.biglobe.ne.jp/~jpcat/dokokai.html)が古くから活発に活動し,知見を残す努力を継続してきた.さらに研究をふかめたアマチュアは,新種の記載論文の公表を主とする形態分類学の分野で,プロの研究者とともに記載の仕事を推進してきた.また筆者は2003年以降2017年まで,テントウムシ科の斑紋多型に関する研究を続けている.その過程で,何を調べるためにどのようなデータをとるかという実験デザインと,得られたデータをどのように扱えば知りたい現象が可視化できるかというデータ解析には,プロの生態学者の助けが必須だった.プロの後ろ盾をもらい,また様々な学会に参加して勉強を積むことができれば,論文を公表し生態学への貢献をはたすことが,ささやかではあっても可能であると感じている.
著者
河上 康子 村上 健太郎
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.59-66, 2014-04-05 (Released:2019-04-25)
参考文献数
27

1996年から2002年の期間に海岸性甲虫類の調査を行った,播磨灘・大阪湾・紀伊水道沿岸部の43地点の海浜について,それぞれの面積および孤立度(近接する海浜までの距離)と,海岸性甲虫類の種構成の関係について解析を行った.海浜の面積を説明変数に,海岸性甲虫種の種数,および出現した全甲虫種の種数を目的変数にした単回帰分析の結果,いずれも有意な決定係数がえられ,面積が広いほど出現種数が増加する傾向が見られた.しかし,海岸性種数,全種数ともに決定係数は弱く,面積以外の要因も種数に影響する可能性が示唆された.さらに,調査地点のうち3地点以上の海浜から出現した22種の海岸性甲虫種について,種の在/不在データを目的変数に,海浜の面積と孤立度を説明変数にしたステップワイズ変数選択によるロジスティック回帰分析を用いて解析し,海岸性甲虫の在否に海浜の面積や孤立度が影響するかを検討した.その結果,9種が面積によって有意に説明され,同様に孤立度により1種が有意に説明された.
著者
河上 康子 山崎 一夫 大橋 和典 中浜 直之
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

ダンダラテントウは赤道地方から中緯度地域に広く分布し,1910年-1990年にかけて,気候の温暖化に伴い九州地方から関東・北陸地方へ分布を拡大した.本種は鞘翅の斑紋型に黒色から赤色の多型があり,分布北限に近い高緯度ほど黒い型が多く,低緯度ほど赤い型が多いクラインを示す.本研究では本種の21地域232個体のミトコンドリアCOI領域620bpを解読し,分布北限地域では遺伝的多様度がやや減少していること,遺伝的集団構造は2つの系統があることを解明した.ふたつの系統のうち片方は古くから分布している琉球以南で割合が高く,もう片方の系統は分布北上後の本州での割合が高かった.