著者
黒田 未来 東 敦子 津田 望
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.25-32, 2002-03-31

無発話の重度知的発達障害児に対し、表出手段として、サイン言語に加えて写真や絵、図形シンボルなど複数のAAC手段を指導した事例の経過を述べた。本症例は、対人関係が比較的よく、手指模倣が可能で、自発的なサイン表出がみられたことから、指導初期にサイン言語によるコミュニケーション指導を行った。その結果、サイン言語を表出手段として用いるようになったが、その後表出サインの増加に伴い、手指の巧緻性や記銘力の低さなどからコミュニケーションが取りにくくなったため、写真、パッケージ(「P&P」)などを用いたコミュニケーション指導を行った。最終的にサイン言語だけでなく、「P&P」や図形シンボルなど複数の手段を表出手段として併用することが可能となり、コミュニケーションの伝達性や、視覚的弁別力が高まるなどの変化がみられた。本事例を通して、重度の知的障害児にサイン言語を指導することの効果、手指の巧緻性や視覚的弁別力が比較的低い場合に、サイン言語や「P&P」など複数のAAC手段を併用することの効果、また、他者との円滑な「やりとり」を促すために、家庭や学校など諸機関と連携することの重要性について考察した。
著者
上野 一彦 長澤 泰子 津田 望 松田 祥子 牟田 悦子
出版者
東京学芸大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1988

本研究では、中枢神経系の発達やかたよりから、コミュニケーション能力の遅れ、種々の知的学習能力の習得困難、さらには行動面での不適応症状をもちやすいことなどから、近年注目されている学習障害(LD)児を対象とし、その実態解明と具体的な指導方法探究のために、主として二つの側面からの研究を行なった。1.LDに関する心理学的能力のデータベースの作成と、それにもとづく能力分析による類型判別の試み。5才〜12才のLD及びボーダラインLDに関する200例のWISCーR、ITPA、TKビネーの心理検査結果によるデータベースを作成した。WISCーRを中心とした群得点分析から、全体的能力水準と処理能力の欠陥特性を考慮した3つの典型類型及び3つの重複類型からなる類型モデル図を作成し、その臨床的妥当性についての検証を試みた。同時に、12のWISCーR、10のITPAの各下位検査変量、計22の変数データについての多変量解析を試み、類型判別と診断基準の因子的妥当性についても知見を得た。2.感覚様相の処理特性からくるコミュニケーション行動中の受容能力および表出能力の発達のかたよりにたいする具体的援助の一方法として、同時提示法によるサイン言語法の開発とその適用研究。現在、英国の障害児教育現場で広く普及しているMAKATON法の日本版作成作業を進めた。この方法は、キーワード法によるサインシステムを採用し、話しことばとサインとシンボルの同時提示による言語発達プログラムである。現在、第1から第9ステージにおける約330の核語集の選定、基本的サインの作成作業を終え、類型分類によるLD児の指導グループ適用研究から、顕著な指導効果が認められた。
著者
上野 一彦 長澤 泰子 菊池 けい子 津田 望 松田 祥子 牟田 悦子
出版者
東京学芸大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1989

本研究グループは、中枢神経系の発達の遅れやかたよりから、コミュニケーション能力の発達不全、種々の学習能力の習得困難、協調運動の発達不全、さらには情緒・行動面で不適応症状をもちやすいLD(学習障害)児を研究対象とし、その実態解明と具体的な教育的援助の方法探究のために、主として二つの側面からの研究を行った。第一は、LDの生育歴にみられる障害徴候と問題行動、およびWISCーRによる心理学的能力を下位項目としたデータベースの作成である。6才〜14才のLD及びボーダーラインLD、比較のための軽度精神延滞(MR)、約200名の面接と心理診断を行い、知的能力から精神発達の4つの水準(MR、ボーダーラインLD、低IQ・LD、高IQ・LD)と、情報処理過程によるモデルに立脚した個人内差の特徴から、各LD群の類型化を試み、それらのレベルと特性の二次元空間内での問題症状の発生時期と内容、行動特徴について分析・検討し、治療教育につながる指導プログラムの手がかりを得た。第二は、感覚様相の処理特性からくるコミュニケーション行動中の受容能力および表出能力の発達のかたよりにたいする具体的援助の一方法として、同時提示法によるサイン言語法の開発とその適用研究である。この研究は、英国の障害児教育現場で広く普及しているマカトン(MAKATON)法のサインとシンボルの日本版作成作業に取り組んだ。今年、第1から第9ステージにおける約330の核語彙の選定、基本的サイン作成を完了し、サインに対応するシンボルと言語指導プログラムを作成した。