著者
浜中 真志
出版者
素粒子論グループ 素粒子論研究 編集部
雑誌
素粒子論研究 (ISSN:03711838)
巻号頁・発行日
vol.119, no.4C, pp.245-279, 2012-02-20 (Released:2017-10-02)

Hyper-Kahler多様体とは,性質の良い3つの複素構造が四元数的に備わったRiemann多様体のことである.素粒子論においては対称性の高い理論のmoduli空間として現れ,dualityの立証や分配関数の計算などで重要な役割を果たしてきた.この記事では,主にnon-compactなHyper-Kahler多様体の性質を,具体的計量の構成・解析により,詳しく議論する.数学的基礎や関連する話題についても少し触れる.
著者
浜中 真志
出版者
名古屋大学オープンコースウェア委員会
巻号頁・発行日
2017-04-17

物理学と数学は、20世紀以前から、ニュートン力学と微積分、アインシュタインの一般相対論とリーマン幾何学、ゲージ理論とファイバー束といったように、互いに密接に刺激し合いながら相補的に発展してきた側面があります。この流れは21世紀になった現在も続いていますが、特に素粒子の超弦理論においてそれが顕著であり、ミラー対称性、超対称ゲージ理論、Dブレーンの研究を通じて、次々に新しい数学が生み出されています。もともと物理学と数学は研究対象がまったく異なる学問であり、このように自然法則の背後に美しい数学が見え隠れするのは決して自明でなく驚くべきことです。この宇宙が良い数学を採用している証とも言えましょう。この公開講座の授業では、この素晴らしい素粒子論と現代数学の関わりについて高校生に気分だけでも味わっていただこうと思い、時間をかけて意気込んで講演準備をしました。トポロジーの簡単な紹介からウィッテンのモース理論の話につなげるところが一番のオチだったのですが、参加者の半分が1年生でまだ微分も習っていないことが判明し(結局微分の定義から話しましたが)失敗に終わりました。。とは言え、参加者のみなさんは全日最後まで大変熱心に聴いてくださいました。この場をお借りして感謝申し上げます。私の所属する多元数理科学研究科は、前身は数学教室ですが物理分野の教員が15~20%ほど在籍していて、数学に近いところで物理学を研究をしている者にとって最高の環境です。数理物理学関連の授業も多く、私もこれまで解析力学、量子力学などを担当したことがあります。その際は、物理学と数学は本来別物で価値観や目標がまったく違うということを常に強調するようにしています。その上で、このような分野の勉強や研究を行うのは、この時代、実に楽しいことだと思います。21世紀はこれからもっともっと物理学と数学の交流が深まっていくものと確信しています。野望に満ちた若い人の参入をお待ちしております。
著者
浜中 真志
出版者
素粒子論グループ 素粒子研究編集部
雑誌
素粒子論研究 (ISSN:03711838)
巻号頁・発行日
vol.106, no.1, pp.1-60, 2002-10-20
被引用文献数
2

Atiyah-Drinfeld-Hitchin-Manin (ADHM)構成法とは,任意のインスタントン解を与える強力な構成法の一つである.この構成法はNahmによってモノポール解の構成に応用された.これをADHMN構成法あるいはNahm構成法と呼ぶ. (両者をまとめて,この記事ではADHM/Nahm構成法と書く.) ADHM/Nahm構成法は,インスタントン/モノポールのモジュライ空間とADHM/Nahmデータのモジュライ空間との1対1対応(双対性)を利用したもので,様々な応用がある.この記事ではまず可換空間上のADHM/Nahm構成法の詳細について一通り述べ,背後に潜む双対性を明らかにする.そしてその双対性の起源を, 4次元トーラス上のゲージ理論を用いた議論(Nahm変換),およびある配置に置かれたD-brane複合系のゲージ理論を用いた議論から考察する.このD-brane解釈により,数学的な概念だと思われていたADHM/Nahm構成法に物理的意味が与えられ,逆にADHM/Nahm構成法の中にMyers効果, Solution Generating TechniqueといったD-brane力学解明へのヒントが隠されていることが明らかとなった.さらに非可換空間上のゲージ理論とADHM/Nahm構成法についても簡単に紹介する.非可換空間上のゲージ理論は背景B場(磁場)中のD-brane上のゲージ理論と等価であることが知られているが, ADHM/Nahm構成法を用いると,それが顕著に見て取れる.この記事はADHM/Nahm構成法の,物理の人向けの包括的解説である.