著者
柚木 朋也 伊藤 雄一 浜田 康司
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.155-168, 2016-11-18 (Released:2016-12-03)
参考文献数
29
被引用文献数
2 2

この研究の目的は, 中学校においてS霧箱を使用することにより放射線の飛跡を容易に観察できることを実証することである。霧箱を使用する実践については, 様々な霧箱で多くの実践が行われてきた。しかし, これまでの霧箱での実験では, ドライアイスや液体窒素が必要であった。そのため, ドライアイスの入手が難しい学校では, 霧箱の実験は難しかった。そこで, S霧箱を使用することにした。S霧箱は, ドライアイスなどの代わりに融雪剤(MgCl2∙6H2O)などの化学的な寒剤を使用する高性能の霧箱であり, 生徒が作ることも可能である。また, 線源は採取したホコリを使用した。北海道教育大学の部屋で集めたホコリは, 主にウラン系列の222Rnやその娘核種であることが明らかになった。また, 採取後1時間以内であれば十分に線源として使用可能であることも明らかになった。本研究では, S霧箱を実際に中学校で製作し, ホコリの放射線の飛跡を観察した。その結果, 身近にある材料だけで, 放射線の飛跡を観察することができた。そして, それまで観察が比較的困難であったβ線の飛跡を生徒が容易に観察できることが明らかになった。また, 授業前と授業後で生徒の放射線に対する認識の変容が見られた。これらのことから, ドライアイスが無くても, S霧箱と寒剤を使用した授業が中学生にとって有効であることが明らかになった。