著者
海老瀬 潜一
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.377-391, 1996-08-31 (Released:2011-03-01)
参考文献数
18
被引用文献数
3

東シナ海と太平洋の境に浮かぶ屋久島には,全国平均より少し低い4.65のpHの酸性雨が4,300mmという年間降水量で負荷されるため,その土壌層の薄さゆえに影響の大きさの評価が重要である。それも水文学的に降水の流出経路から見て,基底流出と洪水時流出の両方からの検討が必要である。屋久島の主要な溪流河川について夏季と冬季の晴天時水質調査と洪水時水質調査を併せて実施した。晴天時水質調査から多くの測定値が,アルカリ度(<0.1meq・1-1),pH(5.5<pH<6.5)および電気伝導度(<40μS・cm-1)といずれも低く,流域としては陸水の酸性化を中和する緩衝能が小さく,これら3つの水質項目間に高い1次比例の関係の存在が明らかとなった。3月上旬の129.5mmの豪雨による宮之浦川の洪水時流出の水質変化調査を実施した。水位ピーク時付近にpH(5.65)とアルカリ度(0.0194meq・1-1)と大きな低下が明瞭に認められた。降雨後のpHやアルカリ度のゆっくりとした回復状況から推定して,浅い土壌層を経た流出成分の評価からも,土壌層の酸性化を中和する緩衝能の小ささが指摘できる。このように,屋久島の陸水酸性化の正確な定量評価には,水文学的に見て酸性雨の洪水時流出の短期的影響と晴天の継続する基底流出の長期的影響に分けて,継続した観測が必要と考えられる。
著者
海老瀬 潜一 井上 隆信
出版者
摂南大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

水田群から排出された農薬・栄養塩・耕土は,下流域生態系や水環境への微量化学汚染・富栄養化をもたらし,資源の無駄使いともなっている。茨城県内の霞ヶ浦流入河川の恋瀬川流域における水田群を対象とした流出特性の詳密調査から,これらが用排水管理の不十分さや農薬・肥料等の肥培管理や移植作業の省力化等に起因することを裏付けた。特に,この流域内では兼業農家のウエイトが大きいために,代掻き・水稲移植作業がゴールデンウイ-ク中に,除草剤の農薬散布がその1週間後の休日に集中した。その結果,空中散布の場合と同様に,農薬・栄養塩の高濃度・高負荷量現象が出現した。それも,集中した除草剤散布後の数日間内に豪雨があれば,その高濃度・高負荷量の傾向がさらに顕著となった。効果的な農薬・栄養塩・耕土の流出や制御や抑制管理のために,個別水田で異なる用排水管理手法二よって,農薬・栄養塩の流出特性の詳細な実態調査を実施した。水田群内における無農薬栽培水田では,他の水田から排出された農薬で高濃度になった河川水を用水とし,ほとんど検出限界以下の濃度まででの浄化して排出することを確認した。当該水田では散布されなくて他の水田で散布された農薬が用水として流入する場合も,同様にほぼ検出限界以下にまで浄化して排出されていた。流域内で同時期に多く施用される農薬は,下流側水田で浄化されると期待することは難しく,上・中・下流ともほぼ同じ濃度,かつ,同じ流出率で流下していた。したがって,農薬散布作業の時期的集中をやめて分散化(したがって,水稲移植作業も分散化)するほか,同一種の農薬の施用を避ける,降雨が予想される数日前には農薬散布をしない,等がまず必須である。その上で,灌漑用水の多重使用で排水の浄化を行うとともに,無農薬・減農薬栽培水田や休耕田の下流側立地という樓み分けによって,水田群システムとして浄化を全うする等の立地規制が根本的には必要と考えられる。
著者
沼辺 明博 井上 隆信 海老瀬 潜一
出版者
Japan Society on Water Environment
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.15, no.10, pp.662-671, 1992
被引用文献数
25 30

The runoff loadings and characteristics of pesticides applied to paddy fields after transplanting of rice plant were estimated by means of analysis of pesticides in drainage river water in weekly and at the rainfall events.<br>The largest loadings of herbicides were found between one and two weeks after transplanting of rice plant. On the other hand, the largest loadings of insecticides were found at about ten days later than that of herbicides.<br>The runoff loadings of herbicides during one rainfall event ranged 20 to 25% of total runoff amounts. Therefore, the runoff investigation of pesticides in river water at and after the rainfall are very important for estimation of pesticides runoff from agricultural fields to drainage river.<br>The runoff characteristics of insecticides and herbicides were differed, and it was recognized that the runoff loadings of insecticides were decreased more rapidly than herbicides at the rainfall event.<br>The runoff rates of pesticides were ranged from 25% for fenobucarb to 0.02% for fenitrothion.<br>From this results concerned in rainfall event, the runoff rates of pesticides from agricultural fields to river were more higher than that of the previous literature.