- 著者
-
海老瀬 潜一
井上 隆信
- 出版者
- 摂南大学
- 雑誌
- 重点領域研究
- 巻号頁・発行日
- 1995
水田群から排出された農薬・栄養塩・耕土は,下流域生態系や水環境への微量化学汚染・富栄養化をもたらし,資源の無駄使いともなっている。茨城県内の霞ヶ浦流入河川の恋瀬川流域における水田群を対象とした流出特性の詳密調査から,これらが用排水管理の不十分さや農薬・肥料等の肥培管理や移植作業の省力化等に起因することを裏付けた。特に,この流域内では兼業農家のウエイトが大きいために,代掻き・水稲移植作業がゴールデンウイ-ク中に,除草剤の農薬散布がその1週間後の休日に集中した。その結果,空中散布の場合と同様に,農薬・栄養塩の高濃度・高負荷量現象が出現した。それも,集中した除草剤散布後の数日間内に豪雨があれば,その高濃度・高負荷量の傾向がさらに顕著となった。効果的な農薬・栄養塩・耕土の流出や制御や抑制管理のために,個別水田で異なる用排水管理手法二よって,農薬・栄養塩の流出特性の詳細な実態調査を実施した。水田群内における無農薬栽培水田では,他の水田から排出された農薬で高濃度になった河川水を用水とし,ほとんど検出限界以下の濃度まででの浄化して排出することを確認した。当該水田では散布されなくて他の水田で散布された農薬が用水として流入する場合も,同様にほぼ検出限界以下にまで浄化して排出されていた。流域内で同時期に多く施用される農薬は,下流側水田で浄化されると期待することは難しく,上・中・下流ともほぼ同じ濃度,かつ,同じ流出率で流下していた。したがって,農薬散布作業の時期的集中をやめて分散化(したがって,水稲移植作業も分散化)するほか,同一種の農薬の施用を避ける,降雨が予想される数日前には農薬散布をしない,等がまず必須である。その上で,灌漑用水の多重使用で排水の浄化を行うとともに,無農薬・減農薬栽培水田や休耕田の下流側立地という樓み分けによって,水田群システムとして浄化を全うする等の立地規制が根本的には必要と考えられる。