- 著者
-
深澤 義正
- 出版者
- 広島大学
- 雑誌
- 重点領域研究
- 巻号頁・発行日
- 1993
[2,3]-Wittig転位反応は、代表的なC-C結合生成反応の一つであり、協奏的シグマトロピー転位で進行すると考えられている。多置換二重結合をもつ誘導体の[2,3]-Wittig転位反応では、生成する炭素-炭素結合上に新たな不斉中心が生成し、合成的に極めて有用な手法と考えられている。この反応の遷移状態については現在までに三つのモデルが提案されていた。我々は、これらのすべての遷移状態の詳細な構造を非経験的分子軌道法を用いて求めることに成功した。固有反応座標の解析により、その内の一つは段階的機構に対応することがわかった。しかし、段階的機構は活性化エネルギー(MP2/6-31+G^*〓3-21Gレベル)の点からは他の二つの協奏機構よりも有利であることがわかった。段階的機構においては、Liと同じ側に広がったアニオン軌道を使って二重結合に攻撃しており、アニオン中心の立体化学が保持されるように反応が進行することがわかった。これに対してて二つの協奏機構のうちの一つはアニオン中心の立体化学が反転する機構で反応が進行していることが明かとなった。我々は更に、これらの遷移状態の構造を用いて、大環状アリルエーテルにおける転移反応の立体選択性についてab initio-MM2遷移状態モデリング法を用いて解析を行った。この方法では反応に直接関与する反応中心部位の構造に上で求めた遷移状態の構造を用い、反応に直接関与しない部位をMM2で計算し、分子全体の遷移状態の構造とエネルギーを求めるものである。計算の結果は大環状アリルエーテル中のジエンの幾何異性の違いによる不斉転写反応による選択的なアルコール体への変換をよく説明できる事が明かとなった。