著者
深谷 孝紀 江西 一成 井戸 尚則 岡山 政由 濱口 幸久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.D3P2544, 2009 (Released:2009-04-25)

【はじめに】心疾患を有する患者のリハビリテーションは,運動中の心機能把握が必要であり,その運動療法では運動負荷の質・量,および心電図モニターが重要となる.今回,心室細動(以下,Vf)による心停止後低酸素脳症に対するリハビリテーションの過程で, その運動療法中に心室性期外収縮(以下,VPC)が頻発し,電極カテーテル焼勺法(以下,アブレーション)を施行した症例を経験したので,その臨床的意義について報告する.【症例・経過】23歳男性.既往歴なし.ランニング中に心肺停止.7分後救急処置により心肺蘇生.A病院搬送後,βブロッカー静注にて洞調律に復帰したが,意識障害・四肢麻痺を認め翌日よりベッドサイドでの理学療法開始.その後,徐々に症状改善を認め歩行訓練開始可能の状況となったが,6病日,意識障害,痙攣,熱発を生じ運動中止となった.その後症状改善し,15病日,歩行訓練等を再開しVf,心室性頻拍の出現なく,43病日,当院転院となった.初期評価時,Br.stage:上下肢6,下肢に優位な筋力低下(MMT3~4),高次脳機能障害を認め,ADL能力は歩行器歩行にて自立していた.理学療法内容は,前医の申し送りに従い,起立,歩行,自転車エルゴメータ,重錐による筋力増強訓練を心電図モニター下で積極的に行った.しかし,不整脈が頻発した為,医師に相談しホルター心電図計測を行った.その結果,VPC6217回/日,特に理学療法中に頻発していたが自覚症状はなかった(Lownの重症度分類:4B).薬物療法による改善を認めず,外科的療法等の適応の可能性が指摘された.61病日,精査治療目的にてB病院転院し,64病日,心カテーテルによりマッピングを行い,左室前側壁の僧帽弁下部心筋に対するアブレーションが施行された.66病日,当院再入院,理学療法再開.再入院後2か月経過時点で,VPCを認めず,高次脳機能障害は残存するものの,下肢筋力改善によって自立歩行レベルとなっている.【考察】心停止後低酸素脳症は心停止という生命の危機を脱した後に生じる稀なケースであり,意識障害,四肢麻痺,高次脳機能障害などの症状を呈する為リハビリテーションの適応となる.発症後,心機能,全身状態等の改善とともに運動負荷が可能となるが,今回の症例は身体機能に応じた強度の運動負荷に対してVPC出現など心機能の問題が生じた.そのため,医師との連携のもと,薬物療法と心機能を優先した運動療法を行ったが,重篤な心疾患の再発を認めアブレーション施行に至った.本症例の経験から,若年齢で社会復帰意欲が高く比較的身体機能の高い例では,運動機能の回復を優先する可能性が十分にあり得るが,心疾患に由来した麻痺性疾患では,運動療法中の致死的な事故の発生しうることが再認識させられた.従って,運動療法において,運動中の心機能把握とリスク管理のもと,より効果的な運動負荷の質・量を決定していくことが重要であると考えられた.
著者
深谷 孝紀 有薗 信一 小川 智也 渡邉 文子 平澤 純 三嶋 卓也 古川 拓朗 谷口 博之 近藤 康博 田平 一行
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第28回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.71, 2012 (Released:2013-01-10)

【目的】 間質性肺炎患者(IP)の運動耐容能と労作時低酸素血症は、予後予測因子である。また、経皮的酸素飽和度(SpO2)や骨格筋機能が運動耐容能に関連があると報告されている。しかし、IP患者における運動中の骨格筋の酸素消費とSpO2の関連については明らかになっていない。そこで、本研究の目的はIP患者における漸増運動負荷時の外側広筋の骨格筋酸素消費の指標と運動中のSpO2の変化の関連性を検討することである。【方法】 対象は全身状態の安定したIP患者、男性20名(平均年齢:65.9±9.7歳、%VC:94.3±19.8%、%DLCO:67.0±21.9%)とした。自転車エルゴメータを使用し心肺運動負荷試験(CPX)を実施した。CPXは0Wで3分間のwarm upを行った後、10watt/分のramp負荷で症候限界性に実施した。CPX中にSpO2をパルスオキシメータにて測定し、同時に近赤外線分光法(near-infrared spectroscopy:NIRS)を使用し、外側広筋の組織酸素飽和度(tissue oxygen saturation:StO2)を測定し、骨格筋での酸素消費の指標(SpO2-StO2)を算出した。安静時と最大負荷時のSpO2とStO2を測定し、それぞれ最大負荷時の値から安静時の値を減算したΔSpO2とΔStO2を算出した。安静時と最大負荷時の間でSpO2, StO2, SpO2-StO2の比較と、ΔSpO2とΔStO2の比較を対応のあるt検定を用いて検討した。SpO2とSpO2-StO2の関係をピアソンの相関分析を用いて検討した。【結果】 SpO2は安静時の95.8±1.8%に比べ、最大負荷時は88.7±6.0%に有意に低下した(p<0.05)。StO2は安静時の55.9±5.3%に比べ、最大負荷時は53.0±7.3%に有意に低下した(p<0.05)。安静時と最大負荷時の差であるΔSpO2は-7.1±5.5%であり、ΔStO2は-2.9±4.7%であり、ΔSpO2の方がΔStO2に比べ有意に高値を示した(p<0.05)。安静時のSpO2-StO2は39.8±4.7%で、最大負荷時のSpO2-StO2は35.9±9.7%と両者では差を認めなかった。SpO2とSpO2-StO2の関係では最大負荷時で相関関係を認め(r=0.676, p<0.05)、安静時では相関関係を認めなかった。【考察】 StO2は安静時より最大運動時の方が低値を示したが、低下量はSpO2より小さかった。運動時に肺での酸素を取り込む能力が低下しても、骨格筋での酸素を抜き取る能力が補おうとしたと考えられた。骨格筋での酸素消費を表すSpO2-StO2と最大負荷時のSpO2との間に正の相関関係を認めた。これは運動終了時の労作時低酸素血症の程度が、骨格筋の酸素消費に影響することが示唆された。