著者
小長野 豊 江西 一成 井戸 尚則
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.26, pp.85, 2010

【はじめに】今回,受傷後6年間経過し積極性の乏しい頚髄損傷者の理学療法を経験し,いくつかの知見を得たので報告する.【症例紹介】31歳男性,頚髄損傷・両大転子部褥瘡の診断名で,家族関係は疎遠であった.入院までの経過は,平成15年6月4日受傷し,C4~6前方固定術後,リハビリテーション(以下,リハビリ)を受けたがADL全介助であった.平成18年1月より母親を介護者として自宅生活を送ったが,平成19年母親死亡により施設入所となる.しかし,問題行動で強制退所となり,同年11月民間病院へ入院した.その後,褥瘡発生したが,治癒を認めず平成21年7月23日当院へ転院した.【初期評価】第6頚髄損傷(AIS:A).上肢の残存筋筋力は肘伸展の1以外3~4レベル,ROMは股・膝関節に20~30度の屈曲拘縮を認めた.両大転子部の褥創は右7×6cm左5×4cm,左右ともに真皮まで達していた.ADLは食事と車いす移動以外全介助であった.【経過】理学療法は,褥瘡治療(ラップ療法)を優先しつつ,循環改善のため起立台による立位訓練,関節可動域,筋力増強訓練を行った.しかし,当初は本症例・PTともに,明確な目標と理学療法内容に確信を持てずに積極的なリハビリを行えなかった.その後、旧知の頚損患者との接触,頸損者の動作映像の参照,独り暮らし実現へのスタッフの積極的関与などから,リハビリに前向きとなった.その結果,リハビリでは約2ヶ月目にROM,筋力,耐久性の向上を認め,いざり動作,座位バランス訓練が可能となった.この頃より,本症例・PTともに移乗動作獲得を明確に意識したリハビリを行い,約4カ月目にいざり動作,約6カ月目に移乗動作が可能となった.約8カ月目,医療相談員との協働によって介護付き賃貸住宅へ退院した.【まとめ】本症例では,基本的理学療法に加え,当事者間共通の目標設定を持てたことが功を奏したと考えられた.
著者
大川 裕行 坂野 裕洋 梶原 史恵 江西 一成 田島 文博 金森 雅夫 緒方 甫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.E0782, 2005

【はじめに】車いすマラソンは障害者スポーツの中でも過酷な競技の一つである.選手のコンディションを把握できれば安全な競技運営に加え,高いパフォーマンスの発揮を可能にすることが考えられる.そこで,マラソン競技の前後で選手の疲労度とストレス,免疫機能を調査し若干の知見を得たので報告する.<BR>【方法】第23回大分国際車いすマラソン大会出場選手中,協力の得られた選手59名を対象とした.その中でデータの揃っている者46名(平均年齢37.3±10.4歳,フルマラソン出場選手22名,ハーフマラソン出場選手24名,男性44名,女性2名,クラス2;7名,クラス3;39名)の結果を検討した.調査項目は,心拍数,血圧,主観的疲労度,コルチゾール,免疫グロブリンA(IgA),競技順位とした.心拍数と血圧は競技前日に測定した.競技前日,競技開始直前,競技終了直後,競技翌日に主観的疲労度をvisual analog scaleで測定し,同時に採取した唾液からコルチゾール,IgAを測定した.調査実施に際しては十分な説明を行い,文書による同意を得て行った.<BR>【結果】測定期間中にコルチゾール,IgAともに正常範囲から逸脱した選手はいなかった.選手の競技前日の心拍数と競技順位,コルチゾールには有意な相関関係が認められた(p<0.05).競技前日を基準として競技直前,競技直後,競技翌日の変化率を求めたところ,主観的疲労度は45.6%,214.1%,58.7%,コルチゾールは73.5%,91.0%,30.0%,IgAは2.0%,5.0%,10.0%に変化していた.競技前日の主観的疲労度,血圧,IgAと競技順位には関係を認めなかった. <BR>【考察】選手の主観的疲労度は競技終了直後にピークを示し,競技翌日にも競技前日の値に戻っていなかった.選手は競技翌日にも中等度の疲労を感じていた.一方,ストレスホルモンであるコルチゾールは競技翌日に競技前日の値に戻っていた.選手の主観的疲労度と客観的なストレス指標には乖離があることが分かった.競技前日のコルチゾールが競技前日の心拍数と有意に相関し,競技順位と有意に相関したことは,トレーニングにより一回拍出量が増加し安静時心拍数が低下している選手,競技開始前に落ち着きを保っている選手は競技成績が優れているという結果を示すものである.IgAの値は競技翌日にピークを示した.選手の主観的疲労度とは異なり車いすマラソンにより高まった選手の免疫機能は運動後にさらに向上していた.選手にとって車いすマラソンは免疫機能を高める適度な運動強度である事が示唆された.さらに詳細な調査を続けることで選手の安全管理と競技力向上へ有益な情報が提供できる可能性がある.
著者
長島 正明 江西 一成 近藤 亮 松家 直子 片山 直紀 永房 鉄之 美津島 隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【目的】皮膚筋炎・多発性筋炎は骨格筋を病変の主座として,亜急性に進行する近位筋優位の筋力低下や筋痛を認める全身性炎症性疾患で,発症は40歳代から60歳代の女性に多いとされている。早期診断・適切な治療により日常生活が自立する例も多いものの,好発年齢の関係から,自宅退院後の生活や仕事,余暇活動において高い身体機能が望まれる。今回我々は,急性期病院退院時にADLが自立していた皮膚筋炎・多発性筋炎患者を対象に体力測定を行い,同年健常者と比較することで筋炎患者の身体能力の実態を調査した。【方法】対象は当院入院し今回初めて皮膚筋炎もしくは多発性筋炎と診断され,退院時にADLが自立していた8名であった。測定は退院前1週間前後に実施した。比較対象群として,運動習慣のない同年健常者ボランティア9名を設定した。呼気ガス分析装置および自転車エルゴメータを用い,5もしくは10wattランプ負荷とし,嫌気性作業閾値および最高酸素摂取量を測定した。嫌気性作業閾値はV-slope法にて決定した。最高酸素摂取量はペダル50回転を維持困難,最大心拍数の90%,ボルグスケール19,危険な不整脈や胸痛の出現,被験者からの中止要請のいずれかに該当した時の酸素摂取量とした。6MWTは30mの折り返し歩行とし,最大歩行距離を測定した。筋力は筋機能評価運動装置BIODEXを用い,利き足の等尺性膝伸展最大筋力を膝屈曲90°位で測定した。統計学的解析はSPSSを用いてMann-Whitney U検定にて群間比較を行った。有意水準は危険率5%未満とした。【説明と同意】対象者には本研究の趣旨,情報管理および結果の公表に関して,口頭で説明し文書にて同意を得た。本研究は浜松医科大学倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】対象は全例女性であった。年齢(歳)は筋炎群46±9,健常者群44±8であった。身長(cm)は筋炎群156±5,健常者群157±4,体重(kg)は筋炎群44±7,健常者群50±5,BMI(kg/m<sup>2</sup>)は筋炎群18.1±2.9,健常者群20.1±1.7であった。いずれも群間に有意差はなかった。筋炎群の退院時血清クレアチンキナーゼは196±230(15-655)IU/Lであった。退院時の内科的治療は1例がステロイド内服25mg/日,5例がステロイド内服30mg/日,1例がステロイド内服30mg/日+ネオーラル100mg/日,1例がステロイド内服30mg/日+メソトレキサート12mg/週であった。在院日数は65±19日であった。ADLはBarthel Indexで全例100点であった。全例筋痛は認めなかった。嫌気性作業閾値(ml/kg/min)は筋炎群10.3±3.1,健常者群14.7±4.9であった。最高酸素摂取量(ml/kg/min)は筋炎群18.6±6.6,健常者群27.2±7.3であった。6MWT(m)は筋炎群511±110,健常者群641±49であった。Peak load(watt)は筋炎群68±27,健常者群115±30であった。いずれも筋炎群で有意に低値であった。安静時心拍数(beats/min)は筋炎群75±11,健常者群64±9であり,筋炎群は有意に高値であった。最大心拍数(beats/min)は筋炎群151±21,健常者群157±9で群間に有意差はなかった。筋力(Nm/体重)は筋炎群1.35±0.40,健常者群2.52±0.28であり,筋炎群は有意に低値であった。【考察】皮膚筋炎・多発性筋炎患者はI線維の割合が有意に少ない(Dastmalchi 2007)ことが報告されている。一方,副腎皮質ステロイドの大量投与もしくは長期投与はIIb線維の特異的な萎縮を来す(Pereira RM 2011)ことが知られており,筋炎患者は病態上も治療上も特異的な筋病態を呈していることが推察される。また,下肢最大筋力が大きいほど歩行速度は速い(淵本1999)など一般的に筋力は運動パフォーマンスと関係すると言われている。身体能力の低下は骨格筋量の減少を背景として,6MWTではIIb線維の萎縮に伴う最大筋出力低下が起因し,有酸素能力ではI線維割合の低下に伴う末梢での酸素利用能低下が起因するものと考えられる。安静時心拍数は筋炎患者において有意に高かった。疾患それ自体が自律神経系に与える影響が大きいこと,また入院による運動不足に伴う交感神経活動の亢進が要因かもしれない。本研究により筋炎患者の有酸素能力,筋力,歩行能力が低下していることが明らかとなったが,自宅退院後および社会復帰後に,どの程度の制限を受けるかは定かではない。今後は生活に応じた実態調査が必要である。【理学療法学研究としての意義】皮膚筋炎・多発性筋炎患者において,ADLが自立していても有酸素能力,筋力,歩行能力は低下していることが判明した。筋疾患の場合,運動自体が筋線維を壊してしまう場合があるが,血清クレアチンキナーゼ,筋痛や筋力低下などの症状に配慮しながら運動療法を実施する必要性が示唆された。
著者
深谷 孝紀 江西 一成 井戸 尚則 岡山 政由 濱口 幸久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.D3P2544, 2009 (Released:2009-04-25)

【はじめに】心疾患を有する患者のリハビリテーションは,運動中の心機能把握が必要であり,その運動療法では運動負荷の質・量,および心電図モニターが重要となる.今回,心室細動(以下,Vf)による心停止後低酸素脳症に対するリハビリテーションの過程で, その運動療法中に心室性期外収縮(以下,VPC)が頻発し,電極カテーテル焼勺法(以下,アブレーション)を施行した症例を経験したので,その臨床的意義について報告する.【症例・経過】23歳男性.既往歴なし.ランニング中に心肺停止.7分後救急処置により心肺蘇生.A病院搬送後,βブロッカー静注にて洞調律に復帰したが,意識障害・四肢麻痺を認め翌日よりベッドサイドでの理学療法開始.その後,徐々に症状改善を認め歩行訓練開始可能の状況となったが,6病日,意識障害,痙攣,熱発を生じ運動中止となった.その後症状改善し,15病日,歩行訓練等を再開しVf,心室性頻拍の出現なく,43病日,当院転院となった.初期評価時,Br.stage:上下肢6,下肢に優位な筋力低下(MMT3~4),高次脳機能障害を認め,ADL能力は歩行器歩行にて自立していた.理学療法内容は,前医の申し送りに従い,起立,歩行,自転車エルゴメータ,重錐による筋力増強訓練を心電図モニター下で積極的に行った.しかし,不整脈が頻発した為,医師に相談しホルター心電図計測を行った.その結果,VPC6217回/日,特に理学療法中に頻発していたが自覚症状はなかった(Lownの重症度分類:4B).薬物療法による改善を認めず,外科的療法等の適応の可能性が指摘された.61病日,精査治療目的にてB病院転院し,64病日,心カテーテルによりマッピングを行い,左室前側壁の僧帽弁下部心筋に対するアブレーションが施行された.66病日,当院再入院,理学療法再開.再入院後2か月経過時点で,VPCを認めず,高次脳機能障害は残存するものの,下肢筋力改善によって自立歩行レベルとなっている.【考察】心停止後低酸素脳症は心停止という生命の危機を脱した後に生じる稀なケースであり,意識障害,四肢麻痺,高次脳機能障害などの症状を呈する為リハビリテーションの適応となる.発症後,心機能,全身状態等の改善とともに運動負荷が可能となるが,今回の症例は身体機能に応じた強度の運動負荷に対してVPC出現など心機能の問題が生じた.そのため,医師との連携のもと,薬物療法と心機能を優先した運動療法を行ったが,重篤な心疾患の再発を認めアブレーション施行に至った.本症例の経験から,若年齢で社会復帰意欲が高く比較的身体機能の高い例では,運動機能の回復を優先する可能性が十分にあり得るが,心疾患に由来した麻痺性疾患では,運動療法中の致死的な事故の発生しうることが再認識させられた.従って,運動療法において,運動中の心機能把握とリスク管理のもと,より効果的な運動負荷の質・量を決定していくことが重要であると考えられた.
著者
梶原 史恵 大川 裕行 江西 一成 植松 光俊 中駄 美佳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E0443, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】 慢性期のリハビリテーションでは,日常生活での身体活動量の確保が重要な課題となる。特に,施設入所高齢者では、生活範囲の狭小化や疾患の重症度から活動量が低下することが推察される。施設入所高齢者の身体活動量を24時間にわたり正確に評価できれば,実施しているリハビリテーション・プログラムの検証を行うことも可能となる。そこで今回、老人保健施設入所者を対象に、24時間の身体活動量と自律神経活動を測定し、歩行能力別・生活時間帯別に検討を加えたので報告する。【方法】 対象は、某介護老人保健施設入所中の者で、本研究の趣旨が理解でき協力可能な12名(年齢84±8歳、男性4名、女性8名)とした。被験者は,歩行可能群(6名),不可群(6名)に分けられた。 日常生活活動能力(Barthel Index)評価し,アクティブトレーサー(GMS社製AC-301)を用いて身体活動量、起床時間、および自律神経活動を24時間連続的に記録した。身体活動量,起床時間は,腰部に装着したアクティブトレーサーの3方向の加速度,及び傾きから算出した。また,自律神経活動は記録された心拍R-R間隔変動をスペクトル解析して求めた。得られた結果は,歩行可能群・不可群,日中時間帯・夜間時間帯で比較検討した。【結果】 24時間の身体活動量は、歩行可能群,不可群間で有意差を認めなかった。 時間帯による身体活動量の比較では,一部を除き両群ともに日中時間帯の身体活動量は夜間時間帯よりも有意に大きな値を示した.歩行可能群は不可群よりも日中時間帯の身体動量が大きかったが両群に有意な差は認めなかった。 歩行可能群の起床時間は,日中時間帯の方が夜間時間帯よりも有意に大きな値を示したが,不可群では時間帯による起床時間に差は認めなかった.さらに,両群の日中時間帯に有意な差はなかった。 自律神経活動の比較では,両群ともに24時間を通して交感神経・副交感神経活動に差は認められなかった。【考察】 歩行可能群と不可群の起床時間に差がないことは、歩行不可群でも介護スタッフ等により、座位起立姿勢を促されていたことが考えられた。また、歩行可能群で日中時間帯と夜間時間帯の起床時間に差を認めたことは、歩行可能群は日中時間帯に座位起立姿勢をとる機会が多いものの、活動量としては、歩行不可群と同程度のものであったことがわかった。さらに、自律神経活動の結果もこれを裏付けるものであった。また、歩行不可群の生活も昼夜の差が自律神経活動量に現れない程度のものであった。 今回得られた結果から、歩行不可群は、24時間の内、約8時間の起床時間を確保できていることがわかった。また、歩行可能群の高い運動機能を、日常生活の活動量に反映させる取り組みが必要であることを確認した。