著者
渡辺 伸治
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は,ダイクシスの観点から日独語のフィクションの考察をおこなうことであったが,具体的には,ダイクシス(表現)の体系の構築とそれに基づいたフィクションの考察をおこなった。ダイクシス(表現)の体系は次のような分類として提示された。すなわち,ダイクシス表現の観点から記述すると,まず,ダイクシス表現は,指示ダイクシス表現と非指示ダイクシス表現に分類された。前者は,「私」,「今」などの発話場面同定依存ダイクシス表現と,「あそこ」などの非言語的指示行為依存指示ダイクシス表現に下位分類された。後者は,「行く/来る」,「たい」などの使用条件非指示ダイクシス表現と,モダリティ表現と感動詞などの意味解釈非指示ダイクシス表現に下位分類された。続いて,ダイクシス(表現)の体系に基づき,日本語が原文のフィクションの構成要素がどの様に分類されるか考察された。まず,語り手モダリティ文と登場人物モダリティ文が分類された。前者は登場人物非内省的意識文と地の文に下位分類され,後者は発話文と内省的意識描写文に下位分類された。また,登場人物非内省的意識文は登場人物知覚文と登場人物感情文に下位分類され,内省的意識描写文は自由間接話法と自由直接話法に下位分類された。また,分類と同時に,問題になったダイクシス表現が独訳ではどの様に訳されているかが考察された。