著者
渡邉 敬逸
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理学会大会 研究発表要旨
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.40-40, 2010

<B>_I_目的</B>:本発表の目的は,新潟県小千谷市で行われる闘牛,牛の角突きを事例として,その牛の成長過程と取組作成における人々の合意形成のプロセスに注目し、牛の強さがいかにして決められるかを,人と牛との関係から明らかにすることにある。<BR><BR><B>_II_牛の角突きにおける牛の勝敗</B>:一般的に日本の闘牛は,どちらかの牛が頭を離して逃走したら負け,として勝敗を明確につける。しかし,牛の角突きは,慣習的に勝敗をつけずに,全取組を「引き分け」とする。すなわち,人力によって対戦中の両牛を無理やり引き離すことにより,文字通りに「引き分け」として,牛の勝敗を公にしない。<BR>では,牛の角突きは,牛間の勝敗を問わず,ただ牛を突き合わせるだけの行事かというと,もちろんそうではない。牛の角突きが開催されるたびに取組表が作成され,取組毎に番付が付される。そして,番付上位に位置する牛ほど「強い」という認識は,会場に集まる人々に共有されており,明確な格付けこそされないまでも,常に番付上位に位置するような牛は「横綱牛」とさえ称される。<BR> つまり,牛の角突きは「引き分け」を慣習としているが,それは決して牛個体間の強弱に基づく勝敗を否定するものではない。取組によっては,一方の牛が戦意を喪失して逃走し,勝敗が衆目に明らかになる場合もある。また,結果としての勝敗だけではなく,その内容も強く問われる。決して最後まで逃走しなくても,手も足も出なかったり,技が単調だったりすると,その牛への評価は芳しくないどころか,負け,と評されることもある。そして,なによりも牛持ち(牛の所有者)は,決して「引き分け」であることを前提に牛を飼っているわけではない。すなわち,牛の角突きには,明瞭ではないものの,勝敗という概念が存在し,それは牛の角突きに関わる者達に概ね共有されている。特に,牛持ち達は勝敗へのこだわりを強く持っており,これは自らの牛への思い入れの裏返しとも言える。<BR><BR><B>_III_牛の成長過程と人々の評価</B>:個々の取組を見れば,牛の勝敗は,牛の健康状態,気性,体重,年齢(経験),そして牛同士の相性という牛個体間の生態的特性の違いによるところが大きい。ただし,牛達の成長過程を概観すれば分かるように,必ずしも生態的に優れた特性を持つ牛が勝ちを重ねれば,「強い」と認められ,順調に番付上位に上り詰め,「横綱牛」と称されるようになるわけではない。<BR> まず,牛には概ねその年齢階層に沿った役割があり,これに沿わない限り,ただ勝ちを重ねるだけの取組だけでは許されなくなる。すなわち,3歳~5歳は概ね同齢の牛との組み合わせによる「力比べ」,6歳~10歳は同齢の牛に加えて中~上位牛との組み合わせを中心とする「力試し」,そして10歳以降は「力試し」に臨む牛の挑戦を受け「横綱牛」の門番を務めるような役回りを受けつつ「横綱牛」の座を伺うこととなる。特に,自らよりも「強い」牛を相手としなければならない6歳~10歳の過ごし方は,その後の牛の成長過程に大きく影響すると言われている。<BR> 次に,人の牛や牛持ちに対する評価が,牛の勝敗や強さとは別に,牛の成長過程に強く影響を及ぼす。こうした牛やその牛持ちへの評価は,関係者の間で共有されることで,牛の成長過程に強く影響を及ぼすと考えられる。また,人々の話の中に牛の「格」なるものが引き合いに出されているように,牛の角突きでは,人の牛に対する評価として,勝敗を超越した牛の「格」に言及されることがある。特に「格」は「横綱牛」と称される。つまり、牛の角突きにおいては,単純な牛の勝負という結果に加えて,人々の様々な角度からの評価によって,牛の強さが形作られている。<BR> 特に,牛に対する人々の影響は,取組作成のプロセスに色濃く表れる。「取組審議会」は牛の角突きを主催する小千谷闘牛振興協議会における取組作成の専門部会である。牛持ち達は同会に,次回開催時の希望相手を伝えることが出来るものの,その組み合わせは取組審議会に出席する「取組審議員」に一任されており,彼らの合意をみなければ,取組が決定されない。その取組作成プロセス,つまり彼らの牛や牛持ちに対する何気ない評価に,牛の角突きにおける牛の強さを理解するヒントがあると考えられる。<BR><BR><B>_IV_発表内容</B>:本発表では、まず、現在までの牛の角突きの取組表から、牛の番付移動を抽出し,一般的な牛の成長過程を検討する。次に,取組審議会における人々の実践と取組の合意プロセスに注目し,いかにして牛の角突きにおける牛の強さが形作られるかについて述べたい。<BR>
著者
渡邉 敬逸
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

国会図書館に所蔵される電信電話総合地図は他の地図と比較して細密な地名(居住地名=集落名)が収録されているにもかかわらず、これまで十分に活用されてこなかったマイクロジオデータである。本研究では、集落を対象とする各種調査においてマクロスケールの分析に耐えうる均一かつ細密なスケールの集落データの不在であったことを踏まえて、電話総合地図を元データとする細密集落データの作成とその応用を通じて、集落を対象とする地理学的研究の研究基盤を確立することを目的とする。