著者
園山 博 渥美 茂明
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.158-166, 2018 (Released:2018-10-29)
参考文献数
14
被引用文献数
2

高等学校学習指導要領の改訂により,高校生物では,多くの分子生物学的現象を扱うようになった.その中でも,PCR法は分子生物学研究の基盤技術であり,その原理の理解は,他の技術の理解や習得に不可欠である.しかし,教科書でのPCR法の説明では,プライマーはどのようなものか,鋳型DNAにどのように結合するかの説明が不十分であり,プライマーを両端として伸長される新生鎖がPCR法で生じる増幅領域となる理由を生徒が深く理解することができないと考えられる.そこで,プライマーDNAが鋳型DNAに結合することを理解するのに必要な解説と図を含んだワークシートを作成した.フォワードプライマーとリバースプライマーのそれぞれが,鋳型DNAに結合する位置と,各プライマーDNAが結合する向きおよび新生鎖の伸長方向を学ぶ内容である.このワークシートを利用し,増幅されるDNA断片の大きさを測る実験を行うことと,増幅されるDNA断片の領域を遺伝子の塩基配列から探す課題とを併用した授業計画を立案した.授業後,65%の生徒がプライマーDNAにより増幅される鋳型DNAの領域を正しく答えることができた.作成したワークシートによる学習が,プライマーの働きを理解するのに有効であったためと考えられる.
著者
渥美 茂明 笠原 恵 市石 博 伊藤 政夫 片山 豪 木村 進 繁戸 克彦 庄島 圭介 白石 直樹 武村 政春 西野 秀昭 福井 智紀 真山 茂樹 向 平和 渡辺 守
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.8-22, 2018 (Released:2019-04-11)
参考文献数
9

平成21年3月に改訂された高等学校学習指導要領で設けられた科目「生物基礎」と「生物」では,科目の大枠を単元構成で,取り上げるべき内容は最低限の例示で示された(文部科学省 2009).その結果,教科書間にページ数や内容の差が生じ,教育現場に混乱をもたらした.日本生物教育学会が設置した生物教育用語検討委員会を引き継ぎ,2015年4月に日本学術振興会の科学研究費による「新学習指導要領に対応した生物教育用語の選定と標準化に関する研究」が組織され,本研究を行った.各社の教科書から,太字で表示された語句,索引語,見出し語,および明らかに生物の用語と見なせる語を用語として抽出した.教科書の単元ごとに用語が出現する代表的な1文,ないし1文節とともに出現ページと出現場所(本文か囲み記事か脚注かなど)の別をデータベースに記録した.用語の使用状況をデータベースにもとづいて分析するとともに,単元ごとの「用語」一覧にもとづいて「用語」の重要度を評価した.生物基礎では1226語(延べ1360語)を収集した.「生物」では1957語(延べ2643語)の「用語」を収集した.「生物基礎」でも「生物」でも1つの単元にしか出現しない「用語」が大半を占めていた.1つの単元で1社の教科書にのみ出現する「用語」も存在し,特に第一学習社の「生物基礎」(初版)では827語中144語が同じ単元で他社の教科書に出現しない「用語」であった.「用語」の重要度は,評価者の属性による差違が際立った.「生物基礎」と「生物」のいずれにおいても,大学教員が多くの「用語」に高校教員よりも高い評価を与える傾向が見られた.特に,「生物」の5つの単元(窒素代謝,バイオテクノロジー,減数分裂と受精,遺伝子と染色体,動物の発生)では大学教員が高校教員よりも高い評価を与える用語が存在した一方,その逆となった「用語」が存在しなかった.これは生物教育用語を選定しようとするとき,選定者の属性によって結果が異なることを示している.さらに,「用語」の表記に多くのゆらぎが見つかった.それらは漢字制限に起因するゆらぎ,略語や同義語,あるいは,視点の違いを反映した表記のゆらぎであった.表記のゆらぎを解消するための「用語」の一覧を作成し提案した.