著者
片山 豪 林 秀則 高井 和幸 遠藤 弥重太
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.165-178, 2012 (Released:2019-09-28)
参考文献数
8
被引用文献数
2

高等学校現行教育課程では,生命科学の中心教義であるセントラルドグマに関しては,生物学の基礎課程である「生物Ⅰ」ではなく,応用課程の「生物Ⅱ」を選択した一部の生徒が学習するだけである.来年度から実施される教育課程では,多くの生徒が1,2年次に履修する「生物基礎」の最初の章で学習することになる.そこで,新学習指導要領に適した実験を考案するために,コムギ胚芽を原料とする無細胞タンパク質合成法に注目し,セントラルドグマを可視化する安全で簡便な教育教材の開発を試みた.セントラルドグマとは,DNAの遺伝情報がmRNAに転写され,これを鋳型としてアミノ酸を連結して遺伝子情報をタンパク質に翻訳する過程のことである.これまでの教育教材としては大腸菌を培養する組換え法が用いられてきたが,本教材では生細胞を用いることなく試験管の中で,転写および翻訳産物を呈色や蛍光発色で可視化し直接的に観察することを特徴とする.遺伝子発現の転写は,コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系発現専用ベクター(pEU)に組み込んだ緑色蛍光タンパク質遺伝子gfpを鋳型として,SP6ポリメラーゼを用いて試験管内で行われた.mRNAの合成は,アガロースに包埋した転写反応液をメチルグリーンピロニンによる染色または,RiboGreen試薬による蛍光染色によって確認することができた.翻訳は,合成したmRNAを鋳型として,コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系を用いたGFPの合成により行われた.GFPの合成はブラックライトによる励起による緑色蛍光発光から容易に確認できた.このように,セントラルドグマを可視化する簡便な実験教材を考案することできた.そこで,現行教育課程の「生物Ⅱ」を履修する生徒を対象に本教材を用いた授業を試みたところ,セントラルドグマに関する高い理解度が得られることを確認することができた. 以上の結果から,バイオハザードと生命倫理問題をもクリアーした簡便な本実験法が,中心教義教育用の新しい教育教材として有用であると考えた.
著者
渥美 茂明 笠原 恵 市石 博 伊藤 政夫 片山 豪 木村 進 繁戸 克彦 庄島 圭介 白石 直樹 武村 政春 西野 秀昭 福井 智紀 真山 茂樹 向 平和 渡辺 守
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.8-22, 2018 (Released:2019-04-11)
参考文献数
9

平成21年3月に改訂された高等学校学習指導要領で設けられた科目「生物基礎」と「生物」では,科目の大枠を単元構成で,取り上げるべき内容は最低限の例示で示された(文部科学省 2009).その結果,教科書間にページ数や内容の差が生じ,教育現場に混乱をもたらした.日本生物教育学会が設置した生物教育用語検討委員会を引き継ぎ,2015年4月に日本学術振興会の科学研究費による「新学習指導要領に対応した生物教育用語の選定と標準化に関する研究」が組織され,本研究を行った.各社の教科書から,太字で表示された語句,索引語,見出し語,および明らかに生物の用語と見なせる語を用語として抽出した.教科書の単元ごとに用語が出現する代表的な1文,ないし1文節とともに出現ページと出現場所(本文か囲み記事か脚注かなど)の別をデータベースに記録した.用語の使用状況をデータベースにもとづいて分析するとともに,単元ごとの「用語」一覧にもとづいて「用語」の重要度を評価した.生物基礎では1226語(延べ1360語)を収集した.「生物」では1957語(延べ2643語)の「用語」を収集した.「生物基礎」でも「生物」でも1つの単元にしか出現しない「用語」が大半を占めていた.1つの単元で1社の教科書にのみ出現する「用語」も存在し,特に第一学習社の「生物基礎」(初版)では827語中144語が同じ単元で他社の教科書に出現しない「用語」であった.「用語」の重要度は,評価者の属性による差違が際立った.「生物基礎」と「生物」のいずれにおいても,大学教員が多くの「用語」に高校教員よりも高い評価を与える傾向が見られた.特に,「生物」の5つの単元(窒素代謝,バイオテクノロジー,減数分裂と受精,遺伝子と染色体,動物の発生)では大学教員が高校教員よりも高い評価を与える用語が存在した一方,その逆となった「用語」が存在しなかった.これは生物教育用語を選定しようとするとき,選定者の属性によって結果が異なることを示している.さらに,「用語」の表記に多くのゆらぎが見つかった.それらは漢字制限に起因するゆらぎ,略語や同義語,あるいは,視点の違いを反映した表記のゆらぎであった.表記のゆらぎを解消するための「用語」の一覧を作成し提案した.