著者
渥美 茂明 笠原 恵 市石 博 伊藤 政夫 片山 豪 木村 進 繁戸 克彦 庄島 圭介 白石 直樹 武村 政春 西野 秀昭 福井 智紀 真山 茂樹 向 平和 渡辺 守
出版者
一般社団法人 日本生物教育学会
雑誌
生物教育 (ISSN:0287119X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.8-22, 2018 (Released:2019-04-11)
参考文献数
9

平成21年3月に改訂された高等学校学習指導要領で設けられた科目「生物基礎」と「生物」では,科目の大枠を単元構成で,取り上げるべき内容は最低限の例示で示された(文部科学省 2009).その結果,教科書間にページ数や内容の差が生じ,教育現場に混乱をもたらした.日本生物教育学会が設置した生物教育用語検討委員会を引き継ぎ,2015年4月に日本学術振興会の科学研究費による「新学習指導要領に対応した生物教育用語の選定と標準化に関する研究」が組織され,本研究を行った.各社の教科書から,太字で表示された語句,索引語,見出し語,および明らかに生物の用語と見なせる語を用語として抽出した.教科書の単元ごとに用語が出現する代表的な1文,ないし1文節とともに出現ページと出現場所(本文か囲み記事か脚注かなど)の別をデータベースに記録した.用語の使用状況をデータベースにもとづいて分析するとともに,単元ごとの「用語」一覧にもとづいて「用語」の重要度を評価した.生物基礎では1226語(延べ1360語)を収集した.「生物」では1957語(延べ2643語)の「用語」を収集した.「生物基礎」でも「生物」でも1つの単元にしか出現しない「用語」が大半を占めていた.1つの単元で1社の教科書にのみ出現する「用語」も存在し,特に第一学習社の「生物基礎」(初版)では827語中144語が同じ単元で他社の教科書に出現しない「用語」であった.「用語」の重要度は,評価者の属性による差違が際立った.「生物基礎」と「生物」のいずれにおいても,大学教員が多くの「用語」に高校教員よりも高い評価を与える傾向が見られた.特に,「生物」の5つの単元(窒素代謝,バイオテクノロジー,減数分裂と受精,遺伝子と染色体,動物の発生)では大学教員が高校教員よりも高い評価を与える用語が存在した一方,その逆となった「用語」が存在しなかった.これは生物教育用語を選定しようとするとき,選定者の属性によって結果が異なることを示している.さらに,「用語」の表記に多くのゆらぎが見つかった.それらは漢字制限に起因するゆらぎ,略語や同義語,あるいは,視点の違いを反映した表記のゆらぎであった.表記のゆらぎを解消するための「用語」の一覧を作成し提案した.
著者
正本 安心 西野 秀昭
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会年会論文集 32 (ISSN:21863628)
巻号頁・発行日
pp.199-200, 2008-08-08 (Released:2018-05-16)
参考文献数
1

現在、血液中のコレステロール濃度増加が健康管理上特に問題視され、多くのメディアでも「コレステロールは悪者である」という科学からは程遠い扱いがなされている。しかし、そもそもコレステロールとは何か?体内ではどのような働きがあるのか?などの点にはあまり触れられておらず、一般的にその存在意義はうやむやにされている。近年、コレステロールは、その濃度が高い食品によっても血中濃度は上がらないこと、脊椎動物の発生を正常に進行させ、生命維持を行うという重要な役割を担っていることも明らかになり、コレステロールの役割について再認識するための科学的な教育が必要とされてきている。そこで、本研究では、メディアの情報に左右されやすい年代として高校生を選び、コレステロールに関する意識調査を行い、高校理科までの学習過程にある生徒にどのような理解がなされているのか調査を行った。ついで最新の疫学調査や細胞におけるコレステロールの存在意義、生合成関連や利用遺伝子の機能不全が原因とされる遺伝病などについて講義を行い、その後、意識変化の調査を行った。その結果,期待される意識変化が見られた反面、科学的知識には混乱が生じていることが明らかになった。
著者
西野 秀昭
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.111-116, 2010 (Released:2018-04-07)
参考文献数
6

ヤマトヒメミミズ Enchytraeus japonensis は,有性生殖に加え,「破片分離」による数体節からなる断片から完全な個体を再生するユニークな無性生殖によっても増殖することができる.中学校理科「生物の成長とふえかた」の単元において,有性生殖は身近でもあり,学習における類例には事欠かない.しかし無性生殖は,単細胞生物の細胞分裂などの類例しかなく,有性生殖は多細胞生物で行い,無性生殖は単細胞生物で行うような印象となってしまう.生殖の方法は,生物種と同様に多様であり,子孫の残し方の工夫は,生命尊重の概念や生命への畏敬の念にもつながる学習の対象となるものと考えられる.本研究では,破片分離という珍しい無性生殖法に着目し,ヤマトヒメミミズの破片分離の人為的誘導を中学校でも実施できるよう検討した.また,ヤマトヒメミミズの破片分離を導く別の簡易な方法として,培地の寒天を市販の食用寒天に置き換える方法を見いだした.この方法では,市販品を用いることで,経費も安価で済み,生徒各人が自分の寒天培地上でヤマトヒメミミズを培養するだけで破片分離による無性生殖を導くことができる.「生物の成長とふえかた」単元への導入に際し,本研究で示す観察・実験は寒天培地にヤマトヒメミミズを移して観察するのみで容易であり,実験の成功体験もほぼ確実であることから,中学校理科授業での効果が期待される.