著者
菊地 久美子 片桐 千華 吉川 拓伸 溝上 陽子 矢口 博久
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.195-205, 2016-11-01 (Released:2017-01-13)
参考文献数
23
被引用文献数
4

顔の肌色は,肌色に対する嗜好やそれに伴う化粧行動などに影響を受け,時代によって変化することが示唆されている.1990年代初頭と比較し,2000年代初頭の日本人女性の肌色は,明度が上昇,彩度が低下,色相が黄みへ変化したことが確認されているが,2000年以降の変遷については明らかにされていない.その背景には,多くの女性の肌色データの収集が困難なことに加え,同一測色計の維持の難しさがある.本研究の目的は,異なる分光測色計を用いて得られた肌色データを比較可能とするための補正式を構築し,日本人女性の肌色分布の長期的な変遷について明確化することである.まず,異なる分光測色計を用いて肌の同一部位を測定し,その差異を確認した上で,肌の分光反射率の補正式を構築した.さらに,2005年と2015年に約2000名の日本人女性の頬部を測色し,補正式を適用した1990年代初頭のデータ,2001年代初頭のデータと比較することで,約25年間の肌色分布の変遷を明らかにした.2000年以降,日本人女性の肌色分布は低彩度・赤みへシフトしたことが確認された.
著者
宍倉 正視 竹下 友美 後藤 史子 溝上 陽子
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3+, pp.163-166, 2017-05-01 (Released:2017-10-07)
被引用文献数
1

高齢化社会における課題のひとつとして,高齢者にとって表示物の配色が見分けにくいケースへの対応がある.例えば,美術館や博物館など展示品の保護といった観点から照明を暗くしなければならない室内環境での案内板や説明パンフレットには,暗い環境下における読みやすさが必要とされている.そこで,我々は文字-背景配色印刷物を対象に,照度/年齢層/配色パターンが文字の可読性にどのような影響を与えるか評価した.評価には,無彩色または有彩色で着色した文字および背景矩形の印刷物サンプルを用いた.サンプル色として,無彩色は黒・グレー6色・白(紙白),有彩色用にJIS安全色に使用される2.5PB色相から明度・彩度の異なる19色を選定した.評価の結果,照度が低くなると,若年者に比べ高齢者では無彩色配色および2.5PB+黒配色の可読性低下がみられた.黒文字+無彩色背景に対する年齢層による可読性の違いは高齢者と若年者のコントラスト感度の違いが影響していると考えられ,黒文字+2.5PB低彩度背景色サンプルにおいては照度と加齢を考慮した色差値と可読性の関係が先の無彩色配色のコントラスト感度と同じような傾向を示すことが判明した.
著者
山添 崇 舟木 智洋 喜安 勇貴 溝上 陽子
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6+, pp.17, 2018-11-01 (Released:2019-01-29)
参考文献数
3

質感は物体から受ける印象を決定する主な要因であり,物体の好ましさや価値判断の指標の一つである.照明の指向性および拡散性が質感の印象に影響することは報告されている.しかし,どのような照明条件下で最も質感の印象が忠実に再現されるかについては,分かっていない.そこで,本研究では実物体観察時における質感の印象と照明条件の関係について検討した.実験では,初めに自然光源下において,被験者が視覚と触覚を用いて,実験刺激である食品サンプルの印象を形成した.その後,3種類の照度と3段階の拡散度の組み合わせ合計9条件の照明下において,実験刺激を観察し,最も印象に忠実な照明条件を選択した.同時に7件法の主観評価を行い,印象の変化についても評価を行った.実験の結果,拡散性の高い条件が最も記憶した印象に忠実な照明として選択された.また,7件法の主観評価では,拡散性による明確な印象の違いは得られなかった.ただし,刺激の種類により重さの評価等に違いがでたことから,拡散性の影響は物体形状や材質により異なると考えられる.以上より,印象を忠実に再現するために最適な照明の拡散性条件の決定が可能であることが示唆された.
著者
矢口 博久 溝上 陽子
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

現在,産業界では広くCIEが1931年に制定したXYZ表色系が用いられているが,この等色関数は短波長域で実際の観測者より低い感度を持っているという問題がある。そこで,CIEは2006年に錐体分光感度である錐体基本関数(CIE2006LMS)を,さらに2015年に錐体基本関数に基づくXYZ型の表色系(CIE2015XYZ)を発表した。本研究では,この新しい表色系を観測者条件等色の問題解決と個人差,特に異常3色覚の色の見えのシミュレーションに応用した。
著者
益満 大志 溝上 陽子
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3+, pp.26, 2018-05-01 (Released:2018-07-17)
参考文献数
2

本研究では,画像の鮮やかさの知覚が,彩度変調画像および彩度・明度コントラスト変調画像への順応によって影響を受けるか検証した.自然画像において彩度の上昇(低下)と同時に輝度コントラストを上昇(低下)させると,彩度のみを上昇(低下)させた場合より自然に見える範囲が広がるとされ,この知覚される自然さの違いが彩度の順応効果に影響を与える可能性がある.実験では,同じ変調係数にて変調した彩度・明度コントラストを有する複数の画像に順応後,彩度のみを変調したテスト画像を呈示し,その彩度知覚を測定した.結果,彩度のみを変調した画像と,彩度・明度コントラストを同時に変調した画像に順応した条件では,順応効果に有意な違いは現れなかった.しかし,彩度の上昇(低下)と同時に明度コントラストを低下(上昇)させ,明らかに不自然と感じられる画像に順応した条件では,順応効果がそれらと比べて極めて小さくなった.この変調方向においては,被験者の自然に見える範囲も他の変調方向と比べて狭いという結果となった.したがって,この知覚される画像の自然さの違いにより,彩度順応効果に違いが表れると考えられる.
著者
菊地 久美子 片桐 千華 溝上 陽子 矢口 博久
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3+, pp.44-47, 2017-05-01 (Released:2017-10-07)
被引用文献数
1

顔は部位により肌色が異なることが知られている.肌色の部位差については,これまで多くの報告があり,接触式の測色計により指定部位を測色するほか,デジタルカメラなどの画像色彩計を用いて顔の特定部位を指定し,評価する例などが挙げられる.しかし,これらの方法では指定部位の理解に限定され,顔における肌色分布を連続的に,詳細に把握することはできない.本研究では,顔全体の肌色分布を評価する方法を開発し,肌色分布の加齢変化の特徴および季節変化の特徴を把握することを目的とした.まず,目・鼻・口といった顔のパーツから特徴点を指定し,特徴点から顔の肌色領域を分割した.次に,分割された領域毎に色彩値やメラニン・ヘモグロビンといった肌の色素量の平均値を算出することで,肌色分布を視覚的な分割画像と定量的な分割データの両方で表現する手法を開発した.本手法を20~78歳の女性,522名の顔画像に対し適用させることで,加齢による肌色分布の色彩値の変化を可視化および定量化した.さらに,女性25名の肌色分布の季節変化を可視化した.本研究により,加齢による色変化が生じやすい領域,季節変化が生じやすい領域を明確化することができた.