著者
澤野 靖之 草木 雄二 脇元 幸一 平尾 利行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0076, 2004 (Released:2004-04-23)

【目的】新体操は『美の追求』をテーマとし、身体の高度な柔軟性が必要とされ、特有の傷害が認められる。当院のこれまでの調査により、腰部・足関節・足部の順で発生頻度が高い傾向がみられた。そこで今回は腰痛と腰椎の可動性について検討した。【対象】腰部に疼痛を有する国体出場レベルの高校女子新体操選手9人(年齢平均16.4±1.4歳、経験年数8.4±7.4年)をA群。運動習慣の無い腰部に疼痛を有する女性9人(年齢平均21.8±1.2歳)をB群とした。いずれの対象についてもレントゲン撮影の承諾を得た。【方法】自然立位(neutral以下N)、立位最大体前屈時(maximum flexion以下MF)、立位最大体後屈時(maximum extension以下ME)の3種のレントゲン撮影(撮影はレントゲン技師による)を行い、各々の腰椎前彎角度(第1腰椎の上終板と平行なラインと、第1仙骨の上終板と平行なラインにそれぞれ垂線を引き、2つの垂線が交わる角度)を計測した。体幹・下肢の柔軟性を計測するために下肢伸展挙上(straight-leg raising以下SLR)・踵殿間距離(heel-buttock distance以下HBD)・トーマステスト・指床間距離(finger-floor distance以下FFD)を用いた。A群・B群で、N・MF・MEの腰椎前彎角度・SLR・HBD・トーマステスト・FFDについて、比較検討した。統計処理はt検定を用い、危険率5%未満を有意差ありとした。【結果】A群・B群間において、N・MFの腰椎前彎角度、HBD、トーマステストでは有意差は認められなかったが、MEの腰椎前彎角度、FFD、SLRには有意差が認められた。【考察】A群・B群間において、N・MFの腰椎前彎角度には、有意差が認められず、FFD・SLRに有意差が認められた。よってA群のFFD値が大きいのは、腰椎の可動性の問題ではなく、ハムストリングスの柔軟性が大きく関与していると示唆される。また、MEの腰椎前彎角に有意差が認められ、HBD・トーマステストに有意差が認められなかった。よってA群の体幹伸展時には、腰椎の可動性が大きく関与しているという事が示唆される。A群は、新体操競技特性として全身的に高度な柔軟性が必要とされる。そのなかで、MF時は下肢の柔軟性により腰椎の可動性は過度には必要とされていないが、ME時は下肢の柔軟性にはA群・B群に有意差が認められず、腰椎の過度な可動性が必要とされる。よって腰椎前彎角の大きいA群は、体幹後屈時に疼痛を誘発する者が多いと考えられる。【まとめ】新体操選手のパフォーマンスには、体幹後屈可動域は必要不可欠である。今後新体操選手をケアする上で、大腿四頭筋・腸腰筋の大腿前方筋群の柔軟性向上を計ることが、腰部へのストレスを軽減し、体幹後屈時の疼痛軽減へとつながるのではないかと考える。
著者
澤野 靖之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100060, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】新体操は美を表現するスポーツであり,5種類の手具を操作しながらジャンプ,ピボットターン,バランス,柔軟性を組み合わせて表現する競技である.選手の競技活動では技術練習に多くの時間を要し,個人戦,団体戦があるため,すべての練習を合わせると身体へのストレスは大きい.新体操選手の障害はover useによるものが多く,当院では足関節と足部の割合が38%を占める.今回はover use障害の一つで,難治性である中足骨疲労骨折に着目した.臨床で新体操選手の中足骨疲労骨折症例は外反母趾を呈し,左側の発症が多い印象があるが,今日まで新体操選手の足部に関しての報告は渉猟し得ない.そこで本研究の目的は,新体操選手における中足骨疲労骨折と他の足部傷害との足部の形状的特徴をX線学的に比較検討することである.【方法】対象は,2003年3月~2012年8月までに当院にて担当医がレントゲンまたはMRIにて中足骨疲労骨折と診断した新体操選手13名13足(平均身長159.1±2.9cm,平均体重44.2±2.8kg,平均年齢16.2±0.6歳,平均競技歴9.6±1.1年)をFx群とし,中足骨疲労骨折以外の足部疾患と診断した新体操選手10名12足(平均身長157.2±3.2cm,平均体重44.7±3.4kg,平均年齢16.3±0.6歳,平均競技歴8.6±1.9年)をCo群とした.方法はレントゲン正面像より外反母趾角(hallux valgus angle:HV角)を第1中足骨の長軸と第1基節骨の長軸の交点より計測し,第1・2中足骨間角(First-second intermetatarsal angle:M1/2 角)を第1中足骨の長軸と第2中足骨の長軸の交点より計測した.各角度は3回同一検者にて計測し,その平均値をそれぞれFx群,Co群で比較検討した.統計処理にはSPSSver16.0を使用し,検者内級内相関(ICC)を算出した上で,Fx群,Co群のHV角,M1/2角の比較をMann-WhitneyU検定にて行い,有意水準は5%とした.さらにFx群の左右足の中足骨疲労骨折の割合とFx群,Co群のHV角20°以上の割合を重ねて検討した.【倫理的配慮、説明と同意】レントゲンに関しては,担当医が診療時に必要と判断し,当院放射線技師にて撮影された足部正面像を使用した.またヘルシンキ宣言に基づき対象者へは人権擁護がなされている旨を説明し同意を得て行った.【結果】ICC(1,1)はHV角:0.942,M1/2角:0.954(p<0.001)と再現性の高いものであった.HV角はFx群24.5±3.8°とCo群20.3±3.5°でFx群が有意に高値を示し(p<0.05),M1/2角はFx群11.6±2.6°とCo群9.1±1.9°でFx群が有意に高値を示した(p<0.05).HV角20°以上の割合は,Fx群で11足/13足(85%),Co群で5足/12足(42%)であり,Fx群とCo群を合計すると16足/25足(64%)であった.Fx群の障害発生の割合は10/13名(77%)が左側,3/13名(23%)が右側であり左側に多かった.【考察】日本整形外科学会診療ガイドライン委員会の定める外反母趾の診断にはHV角20°以上を推奨しており,M1/2角に関しては10°以上を第1中足骨内反としている.今回の結果では,HV角よりFx群は85%が外反母趾であり,Co群も42%が外反母趾を呈していた.M1/2角からはFx群が第1中足骨内反が強いといえる.HV角,M1/2角ともにFxが有意に高値を示したことより,HV角とM1/2角の増大は新体操選手の中足骨疲労骨折に関連があると示唆された.また新体操選手の足部疾患の64%に外反母趾症例が存在することから,外反母趾は新体操選手の足部の特徴である可能性も考えられる.スポーツ選手の中足骨疲労骨折について,能らは,サッカー,陸上,バスケットボール,剣道選手の61.3%が左側であったと報告しており,新体操選手の中足骨疲労骨折の左右割合も同様に77%と,バランスやピボットターンの軸足となる左側に多い結果であった.【理学療法学研究としての意義】新体操選手に特化した足部の報告は現在までに渉猟し得ないため,今回の新体操選手の中足骨疲労骨折とHV角,M1/2角の特徴について報告出来たことは今後理学療法を行う上で有用であると考える.佐本らは,30°未満のHV角は運動療法にて減少すると報告しており,新体操選手の中足骨疲労骨折の予防的観点からも外反母趾に対する理学療法と軸脚である左足部への介入が重要と考える.