著者
濡木 輝一
出版者
日本地質学会
雑誌
地質学論集 (ISSN:03858545)
巻号頁・発行日
no.11, pp.251-281, 1974-09-30
被引用文献数
4

筆者はこの論文で,すでに角閃岩相に達していた領家片麻岩類が,領家変成作用後に貫入した滑花崗岩(新期領家花崗岩類の1つ)によって接触変成岩化された過程を,泥質岩源片麻岩中のアルミニウム珪酸塩の共生関係を中心にして,岩石学的に記載し,接触変成作用の物理・化学的条件を推定した。岩石を記載する際に,針状の珪線石"フィブロライト"と本来の柱状の珪線石"シリマナイト"の産状にいくつかの違いがあることから,これらを区別して取り扱った。(1)フィブロライトは滑花崗岩と接触変成岩にしばしば出現し,常に白雲母や黒雲母の脱色された部分と密接に共生して産する。他方,シリマナイトは,稀な例を除げば,常に紅柱石の一部を交代した形で出現し,雲母類の交代・再結晶によって生じたとは考えられない。フィブロライトは紅柱石,シリマナイトと共生している。珪線石を含む岩石の分布を第12-a図に示した。(2)紅柱石はしばしば黒雲母などの小片を包有している。シリマナイトによって一部を交代された紅柱石には,包有黒雲母の周辺にフィブロライトを生じているが,シリマナイトに交代されていない紅柱石中にはフィブロライトが見いだせない。紅柱石は,フィブロライトが出現する温度下で,水蒸気圧が充分高ければ,容易にシリマナイトに交代されるが,水蒸気圧が低ければシリマナイトに交代されない,と考えられる。(3)接触変成帯中の泥質岩源片麻岩の大部分には二次的生成物と考えられる多量の無色雲母と黒雲母の集合体が出現している。これらの雲母類は紅柱石や望青石を交代して生じている場合もあるが,このように多量の雲母類の出現は滑化歯岩による交代作用を考えないと説明がむずかしい。この種の雲母類を多量に含む岩石の分布を第12-b図に示した。(4)フィブロライトやシリマナイトの出現は接触変成作用の早期の変成条件を,また,多量の無色雲母などの出現は同変成作用の晩期の変成条件を代表している。この接触変成作用は早期に約700℃±,水蒸気圧は3〜4キロバールに達しただろうと推定した(第13図)。しかし,とくに圧力に関しては,明らかな証拠があるわけではない。
著者
加々美 寛雄 飯泉 滋 大和田 正明 濡木 輝一 柚原 雅樹 田結庄 良昭 端山 好和
出版者
日本地質学会
雑誌
地質学論集 (ISSN:03858545)
巻号頁・発行日
no.44, pp.309-320, 1995-11-30
被引用文献数
10

瀬戸内・近畿地方の領家帯地域に分布する火成岩類の活動時期は, ジュラ紀初期-中期, 後期白亜紀, 中新世中期の3回である。最初のジュラ紀初期-中期に活動した火成岩類は領家花崗岩中に捕獲岩体として分布するはんれい岩, 変輝緑岩である。前者は下部地殻条件下 (6-8 kb) におけるソレアイト質マグマからの早期晶出相と考えられる。ノーライト, 角閃石はんれい岩, 変輝緑岩によるSm-Nd全岩アイソクロン年代は192±19 Maである。また, ノーライト, 角閃石はんれい岩中に不規則な形の産状を示す斜長岩質はんれい岩のSm-Nd全岩年代は162±29 Maである。後期白亜紀の火成活動は約110 Ma 前, 安山岩質マグマの活動で始まり, その後, 花崗岩の大規模な深成作用に引き継がれた。この深成作用は100-95 Maと80-75 Maの2つの時期に分けることができる。中新世中期の火成活動はユーラシア大陸から西南日本が分離, 移動したことにより引き起こされたものである。日本海形成(15 Ma)に関係した火成活動は, ユーラシア大陸東縁部の狭い範囲で始新世後期-漸新世初期に始まった。ジュラ紀初期*中期火成岩類の ^<87>Sr/^<86>Sr初生値, εNd初生値は後期白亜紀花崗岩類のこれらの値と似ている。このことは両火成岩類が似た起源物質から形成されたことを暗示している。一方, 中新世中期火成岩類のSr同位体比初生値, εNd初生値は以上の火成岩類の値とは著しく異なっている。中新世中期の日本海形成とともに, 西南日本弧の大陸性リンスフェアがフィリピン海プレート上にのし上げた。この出来事によって, 瀬戸内, 近畿領家帯地域下のリンスフェア・マントルはLILあるいはLREE元素に枯渇した化学組成をもつ様になった。中新世中期に活動した玄武岩はこの様にして形成された新しいマントルから形成された。高マグネシア安山岩は玄武岩を形成したマントルより浅い, 沈み込むプレートに由来する流動体相の影響を受けたマントルから形成された。安山岩, 石英安山岩は上部マントル由来のマグマと下部地殻の部分溶融によって出来たマグマとの混合物から形成された。それらのSr同位体比初生値とεNd初生値は, 下部地殻の部分溶融によって出来たマグマの寄与の程度により変わる。この下部地殻は苦鉄質化学組成をもち, 西南日本弧の後期白亜紀に活動した花崗岩類にとっても重要な起源物質である。