著者
濱田 英嗣 小野 征一郎 島 秀典
出版者
下関市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

わが国の水産物輸出は2005年現在、金額ベース1,750億円と、ここ5年間で30%増となった。いうまでもなく、韓国・中国を中心とした東アジア圏の経済成長が著しく、健康・高級食材としての水産物需要が増大し、高品質な日本産水産物の輸出が活発化しているのである。この輸出効果をタチウオを対象に調査研究した結果は以下の通りである。少なく見積もっても、タチウオは全漁獲量のうち30%は韓国に輸出されている。和歌山県M漁協では対韓輸出が開始された1999年を基点として、単価上昇率は平均1.5倍、とくに中型サイズタチウオの上昇率は4倍を越えている。大分県などでも事態は同様であり、タチ釣り漁業以外に、効率的な網漁業によってタチウオを狙う新規参入の動きも確認できた。これまで国内量販店が安く買い叩いてきた中・小型タチウオは、韓国相場の方が高くなり国内市場から流出し、結果として、タチウオ扱い量が20〜30%減少した大手量販店もある。水産物輸出が、わが国の漁家経営・流通に変化をもたらしていることが明らかとなった。しかし、輸出活発化はプラス面だけでなく、早くもタチウオ資源の急激な悪化も招いている。今後FTA交渉が進展し、さらなる水産物貿易の活発化が予測されるが、貿易活発化と資源悪化の矛盾をどう緩和させるか。輸出促進施策としての輸出相手国市場調査やパンフレット作成を否定するつもりはないが、もう一方で、秩序ある輸出体制が求められている。持続的な水産物輸出施策を構築する必要があることも明らかとなった。
著者
山尾 政博 島 秀典 濱田 英嗣 山下 東子 赤嶺 淳 鳥居 享司
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

東アジアに巨大な水産物消費市場圏ができつつあり、水産物貿易がダイナミックな動きをみせている。日本と韓国では、水産物消費の多様化・簡便化が進み、輸入水産物への依存がいっそう高まっている。日本では、輸入水産物に対する消費者意識、寿司の消費需要動向、回転寿司産業を事例に輸入マグロの利用実態、活魚の輸入、中国からの水産食品輸入の動向などを具体的に検討した。韓国でも中国からの水産物輸入が急増し、国内漁業の存立を脅かしていた。中国では、輸出志向型の水産食品産業が目覚ましい発展を遂げている。当初は対日輸出の割合が高かったが、現在では北米大陸・EU市場などにも水産食品を輸出している。ただ、中国国内での原料確保が容易ではなく、そのため、世界に原料を求めて輸入し,それを加工して再輸出するビジネスが盛んである。日系企業による委託加工が定着すると、日本の大型水揚げ地の中には、中国に原漁を輸出する動きが活発になった。北海道秋鮭の事例を検討したが、加工を必要とする漁業種類の今後のあり方を示すものとして注目される。一方、中国では、経済成長にともなって、水産物消費が急激に増加している。日本を含む周辺アジア各国は、中国を有望な輸入水産物市場として位置づけつつある。東南アジアでは中華食材の輸出が急増して、資源の減少・枯渇が深刻化し、ワシントン条約による規制の対象になる高級水産食材もある。日本の水産物輸入は、近いうちに、中国と競合すると予想される。東アジア消費市場圏の膨張が続くなかで、アジア諸国は水産業の持続的発展をはかるため、資源の有効利用が求められている。「責任ある漁業」の実現が提起され、それに連動する形で、「責任ある流通・加工」、「責任ある貿易」の具体化が迫られている。地域レベル、世界レベルでその行動綱領(Code of Conducts)を議論すべき時代に入った。