著者
日高 健 鳥居 享司
出版者
富民協会
雑誌
農林業問題研究 (ISSN:03888525)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.309-317, 2005-12-25
参考文献数
11

マグロは日本における最も重要な水産物の一つであるが、近年養殖マグロの輸入量が急増し、日本のマグロ市場に大きな影響を与えている。最大の養殖マグロ生産国であるオーストラリアではミナミマグロSouhern Bluefin una(SB、hunnus maccoyii)が養殖されており、その生産は2000年には年間9、000トン、3億豪ドルを超える規模に達した。その産業的特徴は、養殖関連産業が豪州南部のポートリンカンに集中していること、養殖用の小型魚採捕や養殖管理が政府によって厳しく管理されていること、研究機関が集積し、生産者と深く関わっていること、および出荷先は日本であり、日系輸入業者との関わりが強いことである。M.ポーターの競争優位論に基づいて国際競争力を評価すると、関連産業と養殖用小型魚漁獲割当のポートリンカンヘの集中によって、豪州国内での新規参入は予想されず、また売り手も同地の関連産業に限定されるため、国内では優位性を持っている。しかし、スペインを初め、地中海における養殖生産国および生産量が急増している。地中海諸国で養殖されるクロマグロは日本市場ではミナミマグロより高く評価され、ミナミマグロはクロマグロの代替品として位置づけられる。さらに豪州から日本への輸出は日系輸入業者に全面的に依存するため、輸出に関してイニシアティブをとりにくい.生産コストなどの内部的な要因については十分検討されていないものの、外部環境要因からすると豪州におけるマグロ養殖業の国際競争力は脆弱であると言うことができる。その対策として、良質な肉質に基づく差別化戦略が必要であろう。
著者
日高 健 小野 征一郎 鳥居 享司 山本 尚俊 中原 尚知 北野 慎一
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

マグロ養殖業は、オーストラリア、メキシコ、地中海諸国、日本において行われており、現在では総生産量は約4万トンに達し、重要な産業となっている。クロマグロ養殖業は天然資源に原魚を依存したCapture-based aquacultureであり、天然資源との関わりが強い。さらに、長い価値連鎖のため、経済主体間の関係のあり方が養殖経営に与える影響が大きい。そこで、主要生産国における養殖管理制度と主要業者の経営管理を比較分析し、持続的なマグロ養殖管理のための要件抽出を目的として研究を行った。漁業資源管理では、オーストラリアが最も緻密な管理を行っており、養殖業者は各自のITQと自国EEZ内での原魚採捕によって優位性を持つ。これに次いで、スペインではマグロ漁業資源管理の強化が進んでいる。メキシコと日本では漁業資源管理の対象となっていない。価値連鎖における経済主体間関係を軸としたビジネスシステムをみると、スペインは生販統合型、オーストラリアは原魚供給確保型、メキシコの二事例は生販統合型と原魚供給確保型、日本は生販統合型である。これらの中では、メキシコ1のシステムが高いパフォーマンスを示しており、メキシコ2がこれに次ぐ。メキシコが有するビジネスシステムの優位性は、経済主体間の連携の強さに基づくものである。生産コストの低さに加え、生販統合による市場情報に応じた生産と出荷の体制は、日本市場における競争優位を確実にする。ただし、高い天然資源の豊度と緩い漁業資源管理に支えられたものであり、脆弱である。つまり,供給の不確実性に対応するためには、確実な資源管理制度を基盤に、原魚供給確保型と生販統合型の双方の性格を具備したビジネスシステムが必要である。原魚採捕者、養殖業者、流通業者の三者の戦略的提携関係をいかにして構築するか、それを政府がいかに支えるかが持続的な養殖マグロ産業を構築するための要件となる。
著者
山尾 政博 島 秀典 濱田 英嗣 山下 東子 赤嶺 淳 鳥居 享司
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

東アジアに巨大な水産物消費市場圏ができつつあり、水産物貿易がダイナミックな動きをみせている。日本と韓国では、水産物消費の多様化・簡便化が進み、輸入水産物への依存がいっそう高まっている。日本では、輸入水産物に対する消費者意識、寿司の消費需要動向、回転寿司産業を事例に輸入マグロの利用実態、活魚の輸入、中国からの水産食品輸入の動向などを具体的に検討した。韓国でも中国からの水産物輸入が急増し、国内漁業の存立を脅かしていた。中国では、輸出志向型の水産食品産業が目覚ましい発展を遂げている。当初は対日輸出の割合が高かったが、現在では北米大陸・EU市場などにも水産食品を輸出している。ただ、中国国内での原料確保が容易ではなく、そのため、世界に原料を求めて輸入し,それを加工して再輸出するビジネスが盛んである。日系企業による委託加工が定着すると、日本の大型水揚げ地の中には、中国に原漁を輸出する動きが活発になった。北海道秋鮭の事例を検討したが、加工を必要とする漁業種類の今後のあり方を示すものとして注目される。一方、中国では、経済成長にともなって、水産物消費が急激に増加している。日本を含む周辺アジア各国は、中国を有望な輸入水産物市場として位置づけつつある。東南アジアでは中華食材の輸出が急増して、資源の減少・枯渇が深刻化し、ワシントン条約による規制の対象になる高級水産食材もある。日本の水産物輸入は、近いうちに、中国と競合すると予想される。東アジア消費市場圏の膨張が続くなかで、アジア諸国は水産業の持続的発展をはかるため、資源の有効利用が求められている。「責任ある漁業」の実現が提起され、それに連動する形で、「責任ある流通・加工」、「責任ある貿易」の具体化が迫られている。地域レベル、世界レベルでその行動綱領(Code of Conducts)を議論すべき時代に入った。