著者
濱谷 巌 窪寺 恒己
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3-4, pp.113-120, 2010-03-31 (Released:2016-05-31)
参考文献数
11

深海性後鰓類シンカイウミウシ属Bathydorisの1種1個体が,北海道釧路沖の日本海溝の深海(3108~3265m)から採集された。本属の既知種は世界に9種あるとされ,何れも深海産で,本記録が追加され10種となる。シンカイウミウシ属は咽頭部が強大な顎板によって保護される。触角は左右が離れ,非退縮性で,触角鞘を欠く。鰓葉は個々に独立し非退縮性である。Bathydoris japonensis n. sp. ヤマトシンカイウミウシ(新種・新称)生時の背面は淡紫色を呈し,触角と鰓葉の基部は黒褐色の輪状色で囲まれる。固定標本は大形(体長125 mm)で楕円形。鰓葉は約12葉で約6群にまとめられ,円形に配列する。外形はB. ingolfianaに似るが,本種の雌性生殖門の外部の襞には切れ込みが無く平滑である。口球は大きく,歯式は49×n・1・n。中央歯は概ね台形で通常歯尖を欠くが,歯尖を有するものが稀にある。本種の側歯はすべて歯尖を有し歯尖は斜立する傾向があり,鋸歯を欠く。第1側歯は中央歯よりやや大きい。側歯列は外側歯に移るに従って,基板は次第に縦長の長方形を呈する。しかし数個の最外側歯の基板は次第に幅広く,縦方向が短くなる。歯尖は歯列の中程のもの程細長く,数個の最外側歯の歯尖は次第に短くなる。タイプ産地:北海道釧路沖の日本海溝(水深3108~3268 m)。