- 著者
-
槌野 正裕
濱邊 玲子
山下 佳代
辻 順行
高野 正博
- 出版者
- 日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.A0570, 2007 (Released:2007-05-09)
【はじめに】 近年,排泄障害に関する研究が進み,排泄障害における骨盤底機能障害の関与が示唆されている.また,臨床の現場では,排泄障害を有する患者において,脊椎の視診において,腰椎の生理的前彎の減少や骨盤の後傾など,姿勢制御機構の障害が示唆される症例を多く経験する.今回われわれは,排便障害を有する患者における骨盤底機能と姿勢に関して調査を行ったので報告する.【対象と方法】 2004年4月から2005年4月までの期間で,排便障害を主訴として当院を受診した70歳以下の42例(男性13例,女性29例,平均年齢54歳±16歳)を対象とした.方法は,まずDefecography(排便造影)検査を通して,骨盤底機能障害の指標となるPerineal Descent (以下PD)を,擬似便を直腸内に注入した後ポータブルトイレ上座位にて,安静時,肛門収縮時,怒責時の3動態における腰部骨盤帯部の単純X線側面像を撮影し,その画像上で恥骨下縁と尾骨下縁を結んだ線から肛門縁までの距離を測定した.更に肛門内圧を行い,左下側臥位にて,圧センサー(スターメディカル社製直腸肛門機能検査キットGMMS-200)を用いて,安静時の肛門内圧(以下静止圧)と外肛門括約筋随意収縮時の肛門内圧(以下随意圧)を測定した.姿勢に関しては,仰臥位にて安静時の腰部骨盤帯部MRIT1 saggital像を撮影し,その画像上で腰椎前彎角度と仙骨角度を計測した.診断には安静時におけるPDが50mm以上を骨盤底機能障害群(以下E群),PDが50mm未満の骨盤底機能正常群(以下C群)として統計学的に比較した.なお統計学的解析にはMann-Whitney’s U testを用い,P値<0.01は有意とした.【結果】 C群25例(男性11例、女性14例、平均年齢53±16歳),E群17例(男性2例、女性15例、平均年齢54±15歳)では,両群間で平均年齢と年齢分布に有意差はなかった.C群と比較してE群は女性に多かった.肛門内圧に関して,静止圧,随意圧は, C群では91.5±34.9,273.4±143.7,E群では62.1±33.7,140.8±108.1で,ともにC群に対してE群で有意に低下していた.姿勢に関しては,腰椎前彎角度,仙骨角度ともにC群が39.8±8.5,37.0±6.6,E群が31.4±8.5,30.9±6.3で,ともにC群に対してE群で有意に減少していた.【考察】 排便障害を有する患者のなかには骨盤底機能が障害されている症例が存在し,それらの症例において認められる肛門内圧の低下は排便障害の一因となっていることが示唆された.さらに,骨盤底機能障害を有する症例において認められる腰椎前彎角度および仙骨角度の減少は,姿勢と骨盤底機能との関連性を示唆するものであり,骨盤後傾位における骨盤底筋群への伸張負荷の増大など,姿勢制御機構の障害による骨盤底機能障害発生の可能性が考えられた.