著者
瀧上 舞
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

平成23年度は、(1)ナスカ地域における食性の季節差、(2)インカ帝国時代以前の南部海岸地域における定住者の食性の季節変化、(3)インカ帝国時代の食性の地域差、(4)形成期の北部高地における植物栽培・家畜の飼育開始時期について調査を進めた。また、ペルー国内の古代の食物の同位体比を得るためにナスカ地域河内遺跡の食物試料サンプリングを行い、さらにナスカ地域及び北部高地の現生の陸上植物食物、淡水生魚類、海水生魚類、ラクダ科動物の毛の採取を行った。(1)平成22年度にサンプリングを行ったチャウチー野外展示場のミイラの14C年代測定及び、毛髪の炭素・窒素同位体比測定による食性の経時的変化の分析を行った。年代測定の結果、この遺跡のミイラはイカ・チンチャ期(AD 1000-1400)に作成されたことがわかった。また、食性には一年ごとの周期性はみられなかったが、C3植物とC4植物の摂取量が一年を通して変化していたことがわかった。また、海産物摂取量は一年を通してあまり変化していないこともわかった。これらの結果は、ナスカ台地の有機物試料の年代測定による人間が活動した文化期の同定結果と共にペルー文化庁に報告書を提出した。(2)は南部海岸地域から出土した一般人のミイラの毛髪と他の軟部組織の分析を行った。毛髪の食性変化から皮膚や筋肉が反映している食性の時期(亡くなる何か月前の食性か)の同定を試みた。今後、骨の同位体比との比較を行い、体組織の同位体分別の補正値を考えていく予定である。(3)インカ帝国が支配下に収めたペルー北部高地から南部高地までの古人骨の食性推定と年代測定を行った結果、インカ帝国期には食性に大きな地域差があったことがわかった。また、先行研究で報告された生賛の子供のミイラの食性と比較したところ、彼らは帝国全域から集められた子供であったことがわかった。この結果は今後論文にまとめて報告していく。(4)北部高地の形成期の古人骨や動物骨の食性推定を行ったところ、ヒトもラクダ科動物もB.C.800年頃からトウモロコシ摂取が増加したことがわかった。特にラクダ科はB.C.800年頃には、野生のシカとは異なる2種類の食物の混合された食性に変化しており、ヒトによる食物コントロールが行われていた可能性が示された。