著者
片山 栄助
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.57-68, 2008-06-25 (Released:2018-09-21)
参考文献数
20

ミカドアリバチはマルハナバチ類の前蛹や蛹の外部捕食寄生者で,ときには寄主のコロニーを崩壊させる重要な天敵である.2003年9〜10月に栃木県大田原市で,室内飼育によって本種の産卵習性を観察した結果,本種のメスは寄主繭の外部から針を突き刺して,繭内の寄主体表に卵を産下することが明らかになった.次の4点について観察結果を記述し,他種との比較考察を行った.1)継続観察に基づくメスの産卵行動,2)寄主体表での卵の産下位置と卵の付着状況および卵の形態,3)産卵時の寄主麻酔の有無と産卵された寄主の発育との関係,4)ミカドアリバチの針の形態.これらの観察結果および既知種での卵排出の観察記録から,ミカドアリバチにおける寄主体表への卵の産下過程は次のように考えられる.メスは針鞘で寄主の繭層を貫通し,針鞘を左右に開く.針を伸ばして寄主体表をさぐり,寄主を刺して麻酔する.生殖口から排出された卵は針の下面にある浅い溝状の窪みに接して下降し,先端まで滑り下りると寄主体表に軽く付着する.
著者
片山 栄助
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-10, 2004-03-25
参考文献数
23

クズハキリバチの営巣場所と巣の構造について,2002年8月に栃木県黒磯市で採取した巣で調査した.ハキリバチ類の育房では一般に最内側の葉片数枚が,透明な粘着物で緊密に接着されているが,本種では粘着物による接着は認められなかった.しかし葉片の縁をところどころ大顎でかんで,外側の葉片に密着するよう加工していた.特に育房蓋の最内側葉片では周縁部を丹念に加工して,側壁の葉片に強く密着させていた.育房側壁の卵形葉片では,葉表が育房の外側向きと内側向きに使用された葉片が混在していて,一定の傾向は見られなかった.しかし育房蓋の円形葉片では,葉表を内側向きに使用した葉片が明らかに多かった.育房蓋の葉片数は完成巣の最終育房を除くと2〜4(平均3.4)枚で,育房の配列順序に従って増加または減少するという傾向は見られなかった.これに対して完成巣の最終育房では10〜18(平均14.0)枚で,極端に多かった.育房当たり総葉片数は平均49.5枚で,本種の従来の記録に比べてきわめて多かった.本種の営巣場所である樹木の空洞などは,営巣空間の大きさが個々に大きく変異するので,営巣空間を充てんするのに必要な葉片数は事例ごとに変動する.老熟幼虫または繭を含んでいる育房では,蓋の最内側葉片に無数の微小孔が見られた.また,ときどき育房側壁の最内側葉片の上端部付近にも,同様の微小孔が見られた.これらの微小孔は老熟幼虫が大顎で葉片表面をかじることによって作られたと考えられるが,この行動の意味については不明である.