著者
坂本 知昭 片山(池上) 礼子
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
pp.19J01, (Released:2019-04-23)
被引用文献数
1 1

サツマイモ「兼六」は塊根にβ-カロテンを含む特徴がある良食味品種で,1930年代に石川県農事試験場で選抜された.苗条および塊根の形態的特徴が「安納いも」のそれらと酷似していたため,「安納いも」5品種・系統と「兼六」の比較を試みた.「兼六」,「安納3号」,「安納イモ4」,「安納紅」,「安納こがね」の成葉はいずれも波・歯状心臓形で,新梢頂葉にはアントシアニンが蓄積し紫色を呈していたが,「安納イモ1」の成葉は複欠刻深裂で頂葉は緑色だった.「兼六」,「安納3号」,「安納紅」の塊根皮色は紅であったのに対し「安納イモ4」と「安納こがね」は白であったが,これら5品種・系統の塊根にはβ-カロテンの蓄積が認められた.一方「安納イモ1」の塊根皮色は赤紫で条溝が多かったほか塊根にβ-カロテンは含まれていなかった.27の識別断片を用いたCleaved Amplified Polymorphic Sequence(CAPS)法によるDNA品種識別では「兼六」と「兼六」を交配親に作出された「泉13号」および「クリマサリ」さらにその後代品種「ベニアズマ」の識別はできたものの,「兼六」と「安納3号」,「安納イモ4」,「安納紅」,「安納こがね」の識別はできなかった.45の識別断片を用いたRandom Amplified Polymorphic DNA(RAPD)法によるDNA品種識別では「兼六」と「泉13号」,「クリマサリ」,「ベニアズマ」だけでなく「安納イモ4」および「安納こがね」の識別も可能となったが,「兼六」と「安納3号」,「安納紅」の識別はできなかった.以上の結果と「安納いも」が戦後の種子島で見出された在来系統であった経緯を考え合わせると,「安納いも」のルーツはかつて全国に普及していたとされる「兼六」ではないかと結論づけられた.
著者
松田 賢一 片山(池上) 礼子 東 成美 酒井 賀乃子 中野 眞一 玉村 壮太 早川 隆宏 伊達 彩香 高居 恵愛
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.29-38, 2020
被引用文献数
2

<p>36本の5年生'ルビーロマン'ポット栽培樹を用いて,満開後54日目(ベレゾーン以降の13日目)から収穫(満開後90日)までの間,満開後54~63日(54日区),63~72日(63日区),72~81日(72日区)と81~90日(81日区)の4つの生育ステージに分け,全日光環境制御型温室で9日間の低温処理(昼28°C/夜20°C)を行った.低温処理以外の期間は高温室(昼35°C/夜27°C)で育成した.また,全期間(満開後54~90日)に低温(低温区:昼28°C/夜20°C)と高温(高温区:昼35°C/夜27°C)の両対照区も設けた.低温処理後の果房の着色の変化は,63日区が最も大きく,その次が72日区であった.収穫果粒の着色は,低温区が最も濃く,54日区と高温区が最も薄かった.このことから,'ルビーロマン'では,満開後63日から80日の間は低温に対する感受性が高いことが示唆された.遺伝子発現解析の結果,低温区より高温区の<i>VlMybA1-2</i>,<i>VlMybA1-3</i>の発現レベルが高かった.一方,63日区と72日区の<i>VviF3′H</i>と<i>VviF3′5′H2</i>の発現が低温区と高温区よりも有意に高かった.これらの結果から,成熟後期の温度変化に起因する'ルビーロマン'果粒のアントシアニン蓄積量の増減は,<i>VIMybAs</i>の発現の量的変化によりもたらされたのではなく,別の制御要因が関与する可能性が示唆された.</p>
著者
坂本 知昭 片山(池上) 礼子
出版者
日本育種学会
雑誌
育種学研究 (ISSN:13447629)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.11-19, 2019-06-01 (Released:2019-06-18)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

サツマイモ「兼六」は塊根にβ-カロテンを含む特徴がある良食味品種で,1930年代に石川県農事試験場で選抜された.苗条および塊根の形態的特徴が「安納いも」のそれらと酷似していたため,「安納いも」5品種・系統と「兼六」の比較を試みた.「兼六」,「安納3号」,「安納イモ4」,「安納紅」,「安納こがね」の成葉はいずれも波・歯状心臓形で,新梢頂葉にはアントシアニンが蓄積し紫色を呈していたが,「安納イモ1」の成葉は複欠刻深裂で頂葉は緑色だった.「兼六」,「安納3号」,「安納紅」の塊根皮色は紅であったのに対し「安納イモ4」と「安納こがね」は白であったが,これら5品種・系統の塊根にはβ-カロテンの蓄積が認められた.一方「安納イモ1」の塊根皮色は赤紫で条溝が多かったほか塊根にβ-カロテンは含まれていなかった.27の識別断片を用いたCleaved Amplified Polymorphic Sequence(CAPS)法によるDNA品種識別では「兼六」と「兼六」を交配親に作出された「泉13号」および「クリマサリ」さらにその後代品種「ベニアズマ」の識別はできたものの,「兼六」と「安納3号」,「安納イモ4」,「安納紅」,「安納こがね」の識別はできなかった.45の識別断片を用いたRandom Amplified Polymorphic DNA(RAPD)法によるDNA品種識別では「兼六」と「泉13号」,「クリマサリ」,「ベニアズマ」だけでなく「安納イモ4」および「安納こがね」の識別も可能となったが,「兼六」と「安納3号」,「安納紅」の識別はできなかった.以上の結果と「安納いも」が戦後の種子島で見出された在来系統であった経緯を考え合わせると,「安納いも」のルーツはかつて全国に普及していたとされる「兼六」ではないかと結論づけられた.