著者
佐藤 光雄 片桐 康雄
出版者
The Ichthyological Society of Japan
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4-6, pp.169-175, 1966-07-31 (Released:2010-06-28)
参考文献数
11

1. 全長20mm及び35mmのナマズの稚魚の下あごひげの再生経過と3種の琶琵湖産ナマズ類の下あごひげの組織構造を調べた。2. 20mm稚魚においては永存ひげも一時ひげもその再生経過には差異がなく, ひげ切断後約6時間で傷口は表皮によって完全におおわれ, 12時間後には軟骨支柱の再生芽が形成され, 切断後5日目で対照のひげと同じ長さ及び組織構造をもつにいたる。3. 35mm稚魚の永存ひげの再生は, 再生に幾分多くの日時を要する点を除くと, 20mm稚魚のそれとほとんど変りがない。4. 35mm稚魚の一時ひげは退化の兆しをみせていたが, このひげを切断した場合, 傷口が切断後1日目にしてようやく1層の表皮でおおわれるだけで, 軟骨膜細胞の切断端への移動はみとめられない。5. ビワコオオナマズの下あごひげはナマズ及びイワトコナマズのそれに比して短少で発達が悪いが, その組織構造においてはこれら3種間にほとんど差異がない。
著者
片桐 展子 片桐 康雄
出版者
日本貝類学会
雑誌
ちりぼたん (ISSN:05779316)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.37-42, 2007-08-31
被引用文献数
1

イソアワモチOnchidium verruculatumは暖流が洗う外洋に面した潮間帯の岩礁に棲み,千葉県の房総半島が北限とされる(黒田・波部,1971)。体全体が保護色ともいえる岩と同じ色調で,小判型である(図1)。イソアワモチの頭部には1対の触角があり,触角の先端にカタツムリのような柄眼がある。イソアワモチは頭部の柄眼の他に背中にも眼があることで知られる。体の背側の外套は大小の粟状の突起で覆われるが,一部の突起は背眼を備え担眼突起と呼ばれる。担眼突起は外套の中央部付近にあり,1個体に15個前後,1つの担眼突起に3〜4個の背眼が光軸を異にしてそれぞれ別の方を向いている。イソアワモチは柄眼と背眼の2種類の眼を持っているのである。柄眼も背眼も直径0.2mm位で黒い点として肉眼で識別できる。(Stantschinsky,1908;黒田・波部,1971;Okuno et al., 1976;片桐,1999)。イソアワモチは不思議な動物で,全身で光をキャッチしている。行く方向へ延ばした触角の先端に柄眼がある。外套背面では伸び縮みする担眼突起の上で背眼が周囲を見張っている。そして,柄眼と背眼の他にも,眼外光受容である皮膚光覚細胞が体表全体に夥しく散在する。その上,中枢神経系に光感受性神経節細胞が存在する(後藤・西,2003)。イソアワモチは光情報を得るために多種類で多数の光受容装置を搭載している。このような動物は他に例がなく,イソアワモチは光受容の研究に貴重な動物である(平坂,1912;Eatagiri et al., 1985,1990;片桐,1999)。私たちは1975年頃からイソアワモチに見られる多種類の光受容装置について研究してきた。研究材料であるイソアワモチは主に房総半島で採集し,実験室に持ち帰って飼育していたが,その過程で「イソアワモチと一般に呼ばれているものには2種混じっている」ことに気付いた。2種を区別するために,一般にイソアワモチと呼ばれているものをイソアワモチOnchidium verruculatumとし,もう一つをミニアワモチ(仮称)Onchidium sp.と呼んでいる(これは便宜的な仮称であり,正式な標準和名として提唱するものではない)。ミニアワモチはイソアワモチに非常に似た動物である。イソアワモチとミニアワモチは図1と2のように2種並べて見れば違いが分かる。しかし,どちらか一方だけを見たのでは,外観による区別は難しいようである。一般には,ミニアワモチはイソアワモチと同一視され区別されていないため,ある動物図鑑にはミニアワモチの写真がイソアワモチとして掲載されているし(濱谷,1986),ある臨海実験所にイソアワモチの採集を依頼したところミニアワモチが届いた。私達は研究を始めた当初から,同じ採集地で見かけるミニアワモチをイソアワモチと区別し,イソアワモチを選んで採集し実験してきた。ミニアワモチは以下に述べるいくつかの特徴と発生の孵化時の状態に違いがあるので,イソアワモチとは別種であると考えている(藤本,1984;片桐・他,1983;片桐,1999)。